11月27日【11月27日】
体育の授業を抜け出して、一人で森に来ていた。
視界を覆い尽くす緑の中に、一際目立つ色の建物を見つけた。近づいてみれば、いよいよその変わりようが目につく。壁はなく、襖や仕切りが外からでも見えるようになっている。国語の教科書に載っていた、平安時代の貴族の家はこんな風ではなかっただろうか。
建物の前にはボタンがひとつ置かれている。これを押すと外装が変わるようになっているらしい。試しに押してみるが、どこか気に入らない。何度も押し続けたが、どれにも納得できなかった。
ボタンを押している内に、数多の水槽が並べられている建物へと変化した。もしもここに住んだら、水槽の掃除が大変だろうな。そんな見当違いなことを考えた。
ボタンから手を離して、通路を歩いた。まるで水族館のようだ。それにしては随分薄暗くて、水槽も汚れてしまっているけれども。
いつのまにか、私の後ろをついてくる人がいた。悪い雰囲気は感じない。特に気にする必要もないだろう。振り返らず歩いた。
水槽の下には、黒くて小さなプレートが数枚貼られていた。どうも魚の説明がされているようだが、何故か読むことができなかった。
「この熱帯魚、外に出ると温度差で死にかけるから苦労しているんだって。おかしな話だね」
馬鹿な魚だと思った。
その人が喋るたびに、気泡がぼこぼこと音を立てて浮かんでいった。それを目で追って見上げると、天井付近を大きなエイが悠々と泳いでいた。
あのエイはピンクじゃあないんだな。いや、そもそもエイはピンクだっただろうか。
先程の熱帯魚が跳ねて、エイを真似たかのように宙を泳ぎ始めた。そして、数秒泳いだかと思うと、ぴくりともしなくなった。
温度差で死んでしまったのだろうか。