4月27日【4月27日】
いなくなった弟を見つけた。
弟は可愛らしい小物の並ぶ雑貨屋で、見知らぬ人物に捕まっているようだった。半ば家出のような形でいなくなった弟に、なんて言葉をかければいいのか分からない。
雑貨屋の店主らしき男は、そんな弟に落書き帳と鉛筆を渡す。面倒くさそうな顔でそれを受け取った弟は、何かを描き始めた。描かれるものを褒める男の姿は、まるで絵本に出てくる優しい父親のようだった。
小さな女の子が店に来た。男は愛想のいい顔で対応している。人形用の服を買った女の子は、おまけだと渡されたキャラメルを頬張りながら満足げに帰っていった。弟も手を止めてそれを見ていたようだった。
ようやく決心がついた。店に入って男に話しかける。
先程女の子にしたような笑みをこちらに向けた店主は、ここにいるのが私であると気が付いた瞬間にその笑顔を意地の悪いものへと変貌させた。
「お前か」
「アンタなんて知らない」
「そうか、こちらは知っているぞ」
こちらを見透かすような瞳で見つめられて、思わず怯む。深呼吸をして、もう一度向き直る。そして、弟を返せと振り絞るような声で言い放つ。
それを聞いた男は、ゲラゲラと笑い出した。
「あの家庭にか?帰りたくないと言っている家に返す理由はないだろう」
「そんなこと、ない」
「反抗期だろうとなんだろうと、帰りたくないのならこちらで貰っていいじゃないか」
癪に障る言い方だった。挑発だと分かっていても、耐えられなかった。
「何も知らない癖に知ったような口を聞くな!物に当たったり浮気を繰り返したりするような父親も、理不尽に当たりちらしてくる母親のことも、お前は見てないくせに!」
「ほう。ますます返す理由はなくなったな」
何も言えなかった。あまりにも当然のことであった。
「お前も家には返さない。来い、心配は要らないから」
突然腕を引かれて、思わずよろける。男の力は予想以上に強かった。
けれど、その顔は何よりも優しかった。