3月15日【3月15日】
どこかに向かう最中のようだ。
空中に現れた電子の路線図を指でなぞると、図上に波紋が広がった。
現在地から目的の駅まで、七つほど数えたところで手が止まる。次の駅名が掠れて読めなくなっている。
実体の無い電子路線図の駅名でも掠れるものなのだろうか。
更に上を見ると、『研究所跡地』の文字が書かれている。こんな場所があっただろうか。書かれた文字を二度指で叩くと、路線図が眩く光りだした。
目を開けていられない。風が吹き抜けた。
気付いたときには、砂上に立ち尽くしていた。周りには草木は見当たらない。一面の砂の丘だった。遠くの方に薄らと建物の影が見える。
あれが研究所だろうか。
危険も重々承知の上で、砂に足を取られながらゆっくりと歩を進める。好奇心には抗えない。
ようやく建物の前に辿り着いた。重厚でどっしりとした存在感のある外観だった。真っ黒なドアを押す。ドアノブには真っ白い砂が積もっており、ザラザラとしていた。
中は工場のように見えた。大きな機械に、薄らと白色が積もっている。砂とホコリ、どちらだろうか。
梯子で下に降りられそうだった。背負っていた荷物が邪魔だったので、入口付近に置いておく。恐る恐る梯子に足を掛けて、一段ずつ着実に降りていく。
随分長い梯子だった。バンジージャンプの台から地上までを繋ごうとすれば、これくらいの長さになるだろうか。
半分ほど降りたところで、ぎぃと嫌な音がした。次の瞬間、足をかけていた板がただの木片と化した。
まずいと思ったときには、もう空中だった。
全てがゆっくり動いて見える。スローモーションのようだ。伸ばした手は空を切った。
地面が近い。息が詰まる。
死にたくない