2月10日【2月10日】
黄昏時の教室で一人、死んでしまった妹に思いを馳せていた。
どうして死んでしまったのだろうか。誰かに刺されたのだったか。それすらも思い出せない。強烈で、心臓の奥を抉るような出来事のはずなのに、死んだという事実以外分からない。
行儀悪く机の上に座って、地につかない足をぶらつかせる。
突然、ガラガラという音がした。二人の女子生徒が、小さな女の子を連れて駆け込んできたのである。三人とも息を切らして、肩で息をしている。
「どうしたの」
「あのね、聞いてほしいの!やっと全部分かったから」
何を見つけたのだろう。尋ねようとした私を遮るように彼女が言葉を放った。
「あなたが生きていないって……五年前に死んだってこと」
何を、言ってるの?
「私のお姉ちゃんがギリギリ知ってたんだよね。聞いてみたら、大当たりだった」
「この子、あなたの妹さんだよ!大きくなったでしょう」
私が知っている彼女よりも、少し背が伸びていて、大人びている。彼女が一歩踏み出した。
「本当に、いた」
「どうして……ねぇ、怪我はない?生きているの?」
「う、うん」
机から飛び降りて、勢いよく抱きしめる。そうか、生きてるのか!良かった。本当に良かった。
「そっか、安心したよ」
安心したけれど、私はまだ、死んで
目の前の情景がぐるりと変わった。
橙色に照らし出されるむき出しの柱が立ち並ぶ廃墟に立っていた。目の前には男が立っている。後ろを見れば足場が抜け落ちていた。
「わかっただろう」
後ずさるが、逃げ場は無い。
「私は……まだ、まだ生きてる。死んでなんか」
ない、と言いきろうとした瞬間だった。頭の中に、映像がなだれ込んできた。
帰る準備をして、自転車の鍵を取り出して、誰かに話しかけられて、振り向いて、それで、腹に。
包丁が突き刺さって、熱くなって、倒れたんだ。
今みたいに。
崩れ落ちる私を、包丁を持った男が見下ろしていた。