迷いと影とあてんしょん
野良猫が考えるペルソナ5的な話です。
色々とごたごた煮込んだ末に出来ましたが、支離滅裂気味です。
新生ペルソナ(俗に言うPシリーズの方)で主人公が唯一複数のペルソナが使えるというのは、ある意味自分が無いとも言えるんじゃないのかなーと思って書き始めたのがきっかけ。
野良猫の主人公は、そういう葛藤があるんじゃないかと。
そして、悩んでた時にゲーム中でのとある出来事で、仲間にも打ち明けられない苦悩があったんじゃないかと思った次第です。
ちょっとゲームのネタバレ若干してますので、9月以降終えてない場合は要注意で。
主人公名は「鈴川 和哉(すずかわ かずや)」です。
諸々おーけーな方のみどぞー
大丈夫ですね?
一人の少年が銃を突きつけている。向かいにいる少年と同じ姿をしたものは言う。
「お前は何者だ? 神のように慈愛に満ちた自分や悪魔のように冷酷な自分……そんな複数の仮面を持ち合わせているお前は、“誰なんだ”?」
「誰だと?」
「言われもない罪を被って、前科者となった鈴川 和哉か? それとも、大胆不敵に敵を欺く切り札 怪盗団のリーダー ジョーカーか?」
「どっちも俺だ」
少年はそう答えると、銃を持つ少年はケタケタと笑い出した。まるで、道化師が観客の気を引く笑いのように。
「そうだな。それが本来の答えだ。だが、お前はどちらでも無い。お前はどちらでもある。言わば、お前は空っぽだ。何者にもなれる、だが、真に何者にもなれない。複数の仮面を使いこなすお前には、“中身”など無いのだからな」
少年はもう一人の少年―鈴川 和哉―と呼ばれた少年に、銃を突きつけたまま可笑しそうに笑っていた。和哉は微かに顔をしかめた。同じ顔で、同じ怪盗衣装を着た……まさしく“ジョーカー”に相応しい男が居る事。そして、このジョーカーと二人きりっというこの状況下……ポーカーフェイスを保ったまま、この陥っている状況を冷静に分析していた。何故、この事態に陥っているのか。何よりも……。
(ペルソナが使えない)
自分の中に存在するはずのペルソナの気配すら感じらなくなっている。存在そのものが無くなった感じである。何かが失われた、そういわれればしっくりくる。
「今、ペルソナが使えないことに驚いているのだろう? その答えは“俺”だ」
「……ペルソナなのか? それとも、シャドウ?」
「答えはさっきと同じだ。ペルソナでもあり、シャドウであり、お前でもある」
銃を自分の頭に突き付けて、“BAN”と撃つふりをする。何処までも道化師染みていて、心の奥底に隠していた自分自身を見ている気分だ。
「くくく」
「何がおかしい?」
「可笑しい? ははは、オカシイさ。お前は気付いているのか、気付いてないふりをしているのか。まあ、この際どちらでもいい事だな。……お前は迷っているのだろう? このまま“怪盗”を続けていいのか。“ジョーカー”で居ていいのか」
「……」
間違いなく改心させたオクムラフーズの奥村社長。それが、何者かの手によって廃人化された上に、殺人の罪まで擦り付けられた。仲間達―特に、春は―動揺と不安と怒りを感じていた。当然だ。前までは救世主扱い、今では犯罪者と罵られる……人間とはいとも簡単に流されやすく感化されやすいと身をもって知ったような物だ。そして、仲間に不安にさせない為に隠してきたことを、今暴露された。仲間を率いて、切り札として戦う俺自身の迷い、不安。そして、恐怖。
「お前はこのまま戦い続けるのが怖いんだろう? また失うのが怖いんだろう? すべてを。信頼も友情も愛情も。また何もかもを失うことが」
「……」
「お前の新しく築き上げた絆を、再び失う恐怖。そして、あの時の様に絶望して、裏切られるのが怖いんだろう?」
ジョーカーは面白そうに語ると、また笑い出した。和哉がどの様に苦悩するのか、どの様に答えるのか。逐一その反応を逃したくないと言わんばかりに。
「……もし、そうだとして。お前に関係ないだろ?」
「関係がないと来るか。くくく……じゃあ、“俺”はなんだろうな? 鈴川 和哉。“俺”はお前のシャドウでもあり、ペルソナだ」
「……」
「そんな俺が、“鈴川 和哉”の考えが分からないと、どうして言い切れる? 俺はお前にいつでも成り代わる事も出来る」
ジョーカーは爛々と輝く赤い瞳で、和哉の顔を覗き込む。その瞳は、心の奥底すらも暴こうとしている。その赤い瞳を灰色の瞳で見つめ返す。
「確かに、お前は俺だ……だが、俺自身に代わる事は出来ない」
「ほう?」
「お前は、シャドウでありペルソナだ。そして、俺は俺だ。俺は、“鈴川和哉”であり、怪盗団を率いるリーダー “ジョーカー”だ。それは何者にも変えられない。俺は自分の意志で、ここに立ち、戦っている。それは俺が俺であるために」
決意を固めた瞳をジョーカーに向ける。体中に力が漲り、反逆の意志が再び現れだす。
「お前は複数の仮面の一つ。お前は姿かたちを奪えても、俺の反逆の意志を奪う事は出来ない。それは、俺だけが持つ唯一の仮面だからだ!!!」
制服姿から怪盗衣装に、顔に付け慣れた仮面が現れる。それをあの時と同じ様に引きはがす。痛みが走る、それでも仮面を再び引きはがした。
「この痛みを背負って、俺は。俺達は、反逆の意志を持ち、戦ってきた。俺達は俺達が正しいと思う正義を貫く。それが、俺達の反逆の証! そして、怪盗としての美学だ! それをお前如きに語られる言われはない!!! 来い、アルセーヌ!!!」
漆黒の翼を羽ばたかせたペルソナ アルセーヌが現れ、ジョーカーの姿をした者を攻撃する。ジョーカーは大胆不敵な笑みを浮かべたまま攻撃を受けた。その直後、ジョーカーの姿を模した者の姿が歪んだ。段々と人の姿が失われてゆく中で、仮面は実体化したままだった。それが本体であるかのように、それは声を発した。
「我は汝、汝は我。我は汝の無意識の海に漂うものなり。汝、再び迷うとき、我は無意識の海より来たりて、また合間見えるだろう。その迷いが立ち切れぬ、その時こそ、我は汝に変わるときと覚えよ」
仮面はそれだけ告げると、ひび割れ消滅した。脅威は去ったのを感じ取り、安堵のため息とともに、今更ながらにこの異空間に何故いるのか首をかしげる。
「さて、どうしたもんか」
あたりを見渡すと、見慣れた青い鉄格子が見えた。それを目指し歩き、鉄格子の向こうに潜る。
中に入ると囚人の服着た和哉の姿と見慣れた牢屋の中。閉ざされた鉄格子の両脇に立つのは双子の看守と奥にはここの主。主は薄ら笑いを浮かべて、こう語り掛ける。
「お前は、お前の中にある影と戦い、見事影に打ち勝った。更正の成果が現れているな」
「どういうことだ?」
「ふふふ、お前は特別だ。複数のペルソナを使いこなす故にな。その分、お前の中には影が潜む。仮面が多ければ多いほどに。そやつらは、常にお前を狙っている。お前から主導権を奪うために。空っぽであるものは、それを満たそうとする」
「……俺が大きく迷いが生じれば、無意識の海から主導権を奪いに、再び現れると言う訳か」
「そういう事だ。誰もが持つ仮面。ペルソナ。それを複数所持している事。何者にもなれるが、何者にもなれない。一つの形にハマらず、複数の形を持つ。本当の自分があるが、本当の自分が無いに等しいともいえる。その中で、お前は如何に“お前で居られるか”が問われる。そう、それは反逆の意志と似ているとも言える」
「……」
「神の様に慈愛に満ちた一面、悪魔の様に残虐な一面。複数の仮面は存在し、人はそれを使い分ける。だが、ペルソナとして覚醒させるには、普通の人間では出来ない。それだけ、途方もない力を宿すと言えるからだ」
「そんな俺は特別だと?」
「そうだ……ふふふ、お前の更生がますます楽しみになってくると言う訳だ」
ここの主は、それだけ告げると双子の囚人から現実世界に戻されることが告げられる。意識が遠のいでいく。
恐れるのは、自分を信じてくれた人達が再び離れて行くこと。誰もかれも自分を信じてくれず、偽りの姿のみしか見ず、誰も言葉を聞いてくれない……あの音も色も何もない世界に囚われるだけ。
(そう。あの時の様に、何もかもに絶望して……)
皆、何も言わずに自分の周りから離れて行く。
(そして、また居場所を失う)
あの恐怖をまた味わうのが怖い。どんなに大胆不敵に演じていようとも、あの時の恐怖と孤独感に苛まれる……それは、何にも代えがたい。
それでも、俺達は抗うと決めた。自分達の掲げる正義の下に、反逆の意志を力に変えて。
そして、戦い続ける。その魂が砕けるその日まで 。