敗者と戦う者「言葉は生き抜くためのものであり、滾る想いは命だ。そして、血だ。それが、生きるって事さ」
そういって、ジョッキを片手に男は笑っていた。なんてことの無いように笑っていたが、それがどれだけ大変な事か。顔に出てたのだろう、男は酔っぱらってきてるのか、普段より陽気になって笑い出していた。
「俺の場合は、言葉が生き抜くための術なんだよ。お前には、お前の生き抜くための術があるんだ。そして、最期の時に“生き抜いた”と想えれば、何も悔いなど無いだろう?」
「・・・・・・・」
「納得いかないって顔だな」
「そりゃーそうだよ。その生き抜く為の術で、アンタは窮地に陥ってるもんだ」
「はは、違いない!」
「何、呑気なことを・・・・・・・!!!!」
「だが、今更焦っても後悔してもしょうがないだろ?」
「それでも、呑気すぎる。そうでなくとも・・・・・・・私は納得行かない。何故、アンタにだけ責任を押しつける」
「まぁ、そんなもんだろ。俺は蜥蜴の尻尾切りみたいなもんだ」
その言葉を聞いた女は、酒が入ったグラスを叩き割る勢いでテーブルに置く。だが、その音は喧騒に紛れ、尚且つここでは酒に酔いしれてる者達が集っているので、そんな些細な音を気にする輩は居なかった。そんな女の様子を見て、男は呆れたように肩をすくめる。
「おいおい、店のグラスを叩き割るつもりか? しかも、酒が残ってるのに勿体ない」
「どうして、そんな風に思える!!!! こんな結果になったのに!!!!」
女は怒りを露わにして怒鳴ると、男は肩を竦めた。
「これが俺が突き進んだ結果だ。何の後悔も悔いもない。俺は声が枯れるまで叫び、傷を作り作られ、罵詈雑言を鍋に煮詰めて煮詰めまくってぶち込み、ぶち込まされながら戦ってきた」
茶化した陽気な酔っ払った雰囲気から、男は静かにジョッキに口を付ける。怒りを露わにしてた女は、男のその様子を見て全てを飲み込むように、ただ震えるしかなかった。当人がこうでは、騒ぎ立ててもって、何をしても何を言っても無駄であると。
「お前さんなら、その負けん気で遅れを取ったり負けたりはせんだろう・・・・・・多分な」
「“勝てる”って、断言しないのか」
「出来るわけ無いだろう? 俺だって勝てる見込みが合って戦ってたんだ。それが、この様だ。何処でトチったのか、はたまた神様に嫌われたのやら」
男はやれやれと頭を振ると、真っ直ぐに女の目を見て言う。迷いも後悔もない目で。魂に刻むように、語る。
「・・・・・・・だから、お前はお前のやり方で戦え。戦うなら、悔いのない戦いをして、自分が生きた証を示せ、声が枯れてしまっても、血を吐き滲もうとも、傷だらけになっても、自分が生きた、戦い抜いた証をたてろ」
「・・・・・・・」
「それが敗者から、これから戦う者への最初で最後の言葉だ。アドバイスなんかじゃない、戦う者への労いであり呪いであり祝福みたいなもんだ」
男はそれだけ告げると、立ち上がり伝票を持って行った。
「奢ってやるよ、元気でな」
「まっ」
「お前がこれから戦うのかは、お前次第だ。止めるなら、ここで話したことや俺とのことは忘れろ。そして、明日から何事もなく生きろ。戦うなら・・・・・・・覚悟は決めとけよ」
振り返らず男は、そのまま女から離れていった。女はその後ろ姿を見送って、残ったグラスの酒を見つめる。 「言葉は生き抜くためのものであり、滾る想いは命だ。そして、血だ。それが、生きると言うこと」
男が言った言葉を反復して、意を決したのか残った酒を飲み干し、店を出た。
「ならば、私は言葉を刻む。生き抜くために。滾る想いは命であり、血であり、祝福であり呪いなんだから」