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    トロ吐露トロ吐露君と同じチョコ バレンタインは好きな人にチョコレートを渡す日! 当然みんな私のことが好きだし、私もそんなみんなのことが好きだから、全員に渡さないとね〜なんて思って、昨日からせっせとブラウニーを焼いている。一晩冷蔵庫で冷やしたそれを、均等に切り分けて、ひとつひとつ丁寧にラッピングしていく。出会った友人たち全員に渡す勢いで作ったから、机の上はあっという間に山積みになった。
     それを見て「そんなに作ってどうするんだよ」と何故か不機嫌そうなロナルド君。「だってみんな欲しいでしょ」と言うと「みんなって誰だよ」とまた不機嫌そうな顔。

    「みんなはみんなだよ。私のことを好きな人たち」
    「なんだよそれ」
    「家族とか、ギルドのみんなとか、同胞とか。だってみんな私のこと好きでしょ? ほら私完璧な存在だし。私もそんなみんなのことが好きだから、いつものお礼も兼ねて」

     そう言うと、ロナルド君は何故かちょっと泣きそうな顔をして「俺は嫌いだバーカ!」と出ていった。
     ……ハァ? 嫌い? なにそれ。ほんの数ヶ月前に、顔を真っ赤にしながら「すっげぇ不本意だけどお前が好きだ」なんて迫ってきたのはどこの誰だっけ? 5歳児はいつも言動のひとつひとつが意味不明で、それが面白くて好きだったりもするんだけど「嫌い」は流石に良い気がしない。 
     でもまあいいや、イヤイヤ期ってやつだろうし放っておこう。そう決めると、大量のブラウニーを紙袋に詰めて、私も事務所を後にした。

     まずはお父様の元へ。「わああやっぱりドラルクは天才だなあ!」と泣いて喜んでくれた。ほらやっぱり、私って完璧な存在。ロナルド君って本当に見る目がないなぁ、なんて思いながら、お祖父様やお母様や他の親族の分もまとめて手渡した。「気遣いのできるなんていい子なんだ!」とまた感涙するお父様。そうだよね、ロナルド君と違って、お父様はいつも私を正しく評価してくれる。あの5歳児も見習ってほしい。
     それから街を巡回中のヒナイチくんや半田くん。そのへんをうろついている同胞たち。出会う友人たち一人ひとりにブラウニーを手渡して行く。当然みんな喜んでくれた。そりゃあね、ウルトラスーパーキュートなドラドラちゃんが作った、世界一美味しいブラウニーだからね。喜ばないほうがおかしい。そしてひとしきり街を回って、最後に訪れたのが、ギルド。

     カランカランとドアを開けると、店内はそれなりの人で賑わっていた。一番奥のカウンターの席に、綺麗な銀髪を見つけたけれど、気づかないふりをしてみんなにブラウニーを配って行く。当然みんな喜んで、その場で齧って美味いななんて言ってくれる。どこかの5歳児と違ってみんな素直だから、こっちも嬉しくなる。
     と、背後から強烈な視線を感じた。恐る恐る振り返ると、そこにいたのは案の定ロナルド君。何? 私のこと嫌いなんじゃなかったの? と思ったけれど私は大人だし大天才なのでそんなことは言わない。「何か用?」とだけ聞くと、5歳児は眉尻を下げて「俺にはないのかよぉ」と情けない声を出した。
     ……なに、それ、なにその情けない顔。情けない声。怒る気も失せてしまった。

    「は? ほしいの?」
    「あたり前じゃんかぁ……!」

     ちょっと涙目で言うロナルド君。それならそうと素直に言えばいいのにと思いながら、紙袋からブラウニーを一つだけ取り出して手渡す。ロナルド君はそれを素直に受け取ると、嬉しそうな悲しそうな、なんとも形容しがたい表情をして黙り込んだ。

    「……なにそれ、どんな感情?」
    「いや、だってさぁ……」

     と、外から悲鳴と「吸血鬼が出たぞー!」という大声。反射的に出ていくギルドメンバー達。そして腐っても退治人なロナルド君も、それに続いた。
     ……あーあ、なんだか、つまらない。ついていこうかなぁとも思ったのだけれど、そういえばまだやらなければいけないことがあったなと思い直して、私は事務所に戻った。

    ***

     恋人が、俺以外のためにチョコを作っている! 2月14日。好きな相手にチョコレートを手渡すというこのふざけた日に、俺の恋人は他人のためにせっせとケーキを包んでいる。ダイニングテーブルの上には、昨日のうちに作られたケーキが何台も並べられていて、ドラ公はそれを綺麗に切って、ひとつひとつ丁寧にラッピングして行く。そんなに作ってどうするんだよ、と聞くと「だってみんな欲しいでしょ」と不遜な答え。
     そりゃまぁ、悔しいがこいつの作るお菓子は美味いし、当然皆欲しがるだろう。それに正直、非常に不本意ではあるが、俺も欲しい。美味いから、というのも勿論あるが、それより何より一番の理由は、こいつが俺の恋人だから。人生で初めて出来た恋人が、こんなクソ雑魚砂おじさんだなんて不本意な事この上ないのだが、好きになってしまったのだから仕方がない。本当に、本当に不本意なのだが、俺はこいつの事が好きだ。はちゃめちゃに好きだ。
     そんなドラ公と付き合い初めて早数ヶ月。こういう関係になってから、初めてのバレンタインだ。一応、毎年チョコは誰かしらから貰う。しかし未だかつて「恋人から」のチョコは貰った事がない。何故なら今までいなかったから。しかし今年は、初めて恋人が出来た今年こそは――と思っていたのだが、その恋人は俺以外のためにせっせとケーキを包んでいる。みんな自分のことが好きだから、そんなみんなに手渡すんだとケーキを包んでいる。誰よりお前のことが好きな俺が、目の前にいると言うのに。なんだか悔しくて悲しくて、色んなものがせり上がってきた俺は「お前なんか嫌いだバーカ!」と心にもないことを叫んで、一人事務所を出た。

     適当に街を巡回してから、ギルドに向かった。カウンターでぼんやり時間を潰していると、カランカランとドアの開く音。振り返ると、そこにいたのは大きな紙袋を抱えたドラ公だった。
     一瞬目があった――気がしたのだが、逸らされてしまった。え、目を、逸らされた……? ドラ公は俺なんかいないかのように、可愛くラッピングされたケーキをギルメン達に配って行く。みんな素直に受け取って喜んで、ドラ公も上機嫌だ。え、え、え、俺には……? もしかして怒ってる……? そりゃそうだよな嫌いなんて言ったし、でもわかるだろそんなのは言葉の綾で、ほんとは俺はお前のことが――!
     なんてことを考えていたら、いつの間にか俺はドラ公の背後に立っていた。引きつった顔で振り向いたかと思うと、そっけなく「何の用?」なんて言うドラ公。エーンなんだよ! やっぱり怒ってんじゃん! 優しくしろよ冷たくするなよいやでも俺が悪いしな、なんてぐつぐつぐつぐつ考えていたら、口から情けない声がとろりと漏れた。

    「俺にはないのかよぉ……」
    「は? 欲しいの?」
    「あたり前じゃんかぁ……!」

     そうみっともなく言うと、ドラ公はため息混じりにケーキをひとつ手渡してくれた。
     ああ、人生で初めての、恋人からのチョコレート。みんなと同じ、チョコレート。いや、嬉しいよ、俺なんかに恋人ができて、その恋人から直々にチョコが貰えるなんて、勿体ないことこの上ない。……でもさやっぱりさ「恋人から」だし、はじめてだし、俺だけ、がよかったななんて、いやでも貰えるだけ――なんてぐつぐつ考え込んでいると、ドラ公が怪訝そうに言った。

    「……なにそれ、どんな感情?」
    「いや、だってさぁ……」

     だって何、この情けない感情をどう言葉に纏めたらいい? なんてもごもごしていると、不意に悲鳴と「吸血鬼が出たぞー!」と言う大声。反射的に飛び出すギルメン達に、俺もワンテンポ遅れて後に続いた。初めてのチョコレートは、ポケットにねじ込んで。

     それから数時間。なんやかんやあって事務所に帰れたのは明け方近くになってからだった。フラフラで帰る道すがら、ドラ公に貰ったケーキを齧る。チョコレートの甘さが、疲れ切った脳にじんわりと染みた。――俺は一体、何故あんな贅沢を思ったのだろう。貰えただけ十分じゃないか。それにほら、こんなにも美味い。市販品も太刀打ちできないレベルだ。……帰ったら、ちゃんとドラ公に謝ろう。ああでも、流石にもう寝ちゃってるかな――
     なんて思いながら居住スペースの扉をそっと開けると、意外なことにドラ公はまだ起きていた。エプロン姿のままダイニングの椅子に腰掛け、退屈そうに外を眺めている。

    「……ドラ公?」
    「あ、おかえりロナルド君。……お疲れ様」
    「……おう。なんでまだ起きてんの?」 
    「いや、だってほら、バレンタインだし」
    「……?」
    「お風呂入ってきなよ。汗臭いよ、君」
    「うるせーな! 仕事だったんだよ」
    「知ってる。ほらさっさと行った行った!」

     そう言って追い払う仕草をするドラ公。なんだよその態度! まだ怒ってんのかよ! せっかく謝る気になってたのに。……もう知らね。そう思って、俺は黙って浴室に向かった。
     風呂からあがると、ダイニングテーブルの上に、小さくて丸いケーキが置かれていた。さっき配っていたのとは違う、シンプルなケーキ。その横に、アイスとなんとかベリーと赤いソースが綺麗に盛られている。思わず5度見すると、ドラ公は「だってほら、それは持ち歩けないから」と言う。なんのことかわからないまま、促されて席につく。おそるおそるケーキにフォークを入れると、中からとろりとチョコレートが溢れ出た。

    「わ! なに! なんだこれ!」
    「フォンダンショコラって知らない?」
    「知らねえ! なんだこれ」
    「いいから食べてくれ」

     溢れ出たチョコレートごとケーキをすくって、フォークを口に運ぶ。さっきのケーキよりも強い甘みが、口いっぱいに広がった。何だこれ、何だこれめっちゃ美味い! 甘いんだけど全然しつこい感じがしないし、なんかベリー系の酸っぱい感じもするし、あったかいし美味い!

    「こういうのは作りたてじゃないとね」

     そういうドラ公の声に、はっとする。あれ、もしかしてこれって――

    「これ、俺だけ?」
    「あとジョンね」
    「ジョンならいいかぁ……」

     思わず口元が緩んだ。とろりと溢れ出たチョコレートは、甘くて甘くて身体の隅々まで染み渡るようで、気付けば俺の両目からはぽろぽろと涙が溢れていた。

    ***

    「……なに、泣くほど美味しかった?」

     5歳児が、私の作ったケーキを食べながら泣いている。怒ったり笑ったり泣いたり忙しいロナルド君。一体どんな精神状態なのかといささか心配になってくる。

    「だって、だってさぁ……」
    「なあに」

     反対側の席に座って顔を覗き込むと、ロナルド君は綺麗な顔を赤くして、子供みたいにぽろぽろと涙を溢しながら、ため込んでいたものを吐露した。

    「ほんと、ほんと癪なんだけどさ、みんな、お前のこと好きじゃん」
    「癪なんだ……」
    「みんなお前のこと好きだし、お前もみんなのこと好きだし、おれも! 俺もお前のこと……好きだし。みんなと一緒じゃんって」
    「……」
    「俺、お前の、特別になりたかった……!」

     そう言って泣きながらケーキを食べるロナルド君。特別になりたかったって、なんで過去形なんだよ。それに泣くか食べるかどっちかにすればいいのに、ほんとに忙しいな、君は。でも、そんな所が、

    「……馬鹿だなぁ」
    「馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ……!」
    「いいや、君の方が馬鹿だね」
    「なんでだよぉ……」
    「……わざわざ言わなくてもわかってるって思ってたけど」
    「……?」
    「分かっていないようだから、言ってやる。あのね、」

     きょとんとした顔でこちらを見つめるロナルド君。あーあ、嫌だな、言いたくなかった。なんだかこれじゃ、私が負けたみたいじゃないか。でも仕方ない。この5歳児には、噛んで含めるように全部言ってあげないと駄目みたいだから。

    「だからさ、君は特別なんだって」

     沈黙が落ちる。相変わらずきょとんとした顔のロナルド君に、なんだかこっちが恥ずかしくなってくる。体温が上がるのを感じる。あーあ嫌だな、いま私どんな顔してるんだろ。

    「ロナルド君は、私の、特別なんだ! ……君だけだよ、私を、こんな、」

     その先は言葉にならなかった。ロナルド君はそんな私を呆然と見つめて、長い長いロード時間の後、勢いよく立ち上がった。

    「ドラ公!」
    「あーもう朝だ! 死んじゃうから寝るね! ホワイトデーは遮光カーテンでよろしく!」

     そう早口でまくし立てると、私は急いで棺桶に逃げ込んだ。ああ、もう、私も人の事言えないな……! でもさだってさ、恥ずかしくて言えないよ。私を、こんな、こんな気持ちにさせるのは、君だけだって。素顔で泣いて笑う君の事が、大好きだなんて。

    ***

     何? ドラ公、なに……? 俺が、ドラ公の、特別……? 「君だけだよ、私を、こんな」こんな何? 何? なんて言おうとした!? 赤い顔を隠すように視線を背けるドラ公は、非常に不本意ながら、いや別に不本意じゃない、世界で一番可愛かった。思わず立ち上がって呼びかけると、ドラ公は顔を隠しながら棺桶に逃げ込んでしまった。
     あとに残された俺は一人、呆然と立ちすくんだ。なに? 何何何何なに……? 俺の恋人、可愛すぎない……? 俺、こんなに恵まれてていいの……? 明日死ぬのかな……? いやそれはいけない。とりあえず生きていないと、ドラ公の隣にいられない!
     俺はとりあえずスマホを出すと、即日発送の遮光カーテンをその場で注文した。これで、明日からゆっくり話し合えるな? な、ドラ公!
    みりん Link Message Mute
    2022/06/15 14:44:59

    トロ吐露トロ吐露君と同じチョコ

    人気作品アーカイブ入り (2022/06/15)

    #ロナドラ
    付き合ってるロナドラのバレンタイン。ドの特別になりたいロの話。

    表紙はらこぺ様からお借りしました
    https://www.pixiv.net/artworks/90961567

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