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    電脳恋乞戯曲強制シャットダウン お祖父様特製素直になる薬〜! これを飲んだらどんなツンデレでもめちゃくちゃ素直になっちゃう〜! って言うのを間違えて飲んじゃった。

     ロナルド君から告白されて、めでたくお付き合いする事になったのがつい数週間前のこと。顔を真っ赤にして「好きだ」と迫られた時は、今度はどこの吸血鬼の仕業かなーなんて思ったりしたんだけど、催眠でもなんでもなく彼は本気で私のことが好きらしい。まあそりゃ私は世界一可愛いので好きになっちゃっても仕方ないよねぇとは思うのだけれど、正直面食らった。ほら私吸血鬼だし、彼退治人だし、私もロナルド君も男だし。それに彼の好みは、胸の大きな大人の女性のはずだし。
     当然指摘したんだけれど、本人曰くそんなのは大した問題じゃないらしい。彼も彼なりに散々悩んだようで、やっと出た結論がこれだと言う。じゃあ笑っちゃかわいそうだよね、真剣に悩んだんだもの。まあ死ぬほど爆笑して当たり前みたいに殺されたんだけど。普通自分の想い人を殴って殺す? ほんと意味分かんないよねあのサイコパスゴリラ。
     それで「好きなのはわかったけどどうしたいの?」とちょっと意地悪な質問をしたら、童貞ゴリラはまた顔を真っ赤にして口をパクパクさせたので、超絶優しいドラドラちゃんは「付き合う?」と助け舟を出してあげた。すると童貞ゴリラはめちゃくちゃ悔しそうな顔で、首を縦にぶんぶん振った。それがまた面白くてひっくり返って笑ったらベンチプレスで殺された。あんまりじゃない? それで「私のこと好きなんじゃなかったの?」って聞いたら泣きながら好きだ好きだと言われて、また爆笑しちゃって殺されて、っていうのがあって。
     いやぁもう本当に面白くて面白くて仕方がない。これで付き合うってなったら、あの童貞サイコパスゴリラはどれだけ私を楽しませてくれるのだろう……なんて思っていたのだけれど、驚くほど、本当に驚くほど何の変化もなかった。これまで通りに悪態をつくし、これまで通りにボコスカ殺す。童貞サイコパスハムカツゴリラに恋人らしいことなんて最初から期待してなかったけれど、好きとすら言われないのは、正直、あまり、面白くない。
     なのでお祖父様に頼んで、素直になる薬を作ってもらった。これを飲めば、ロナルド君はめちゃくちゃ素直になって私に好き好き言ってくれるはず……って言うのを間違えて飲んじゃった。
     いや、違うんだよ、寝起きでぼんやりしてて、何か飲もうと思って冷蔵庫から適当に取ったら例の薬で。だって冷蔵庫に薬入ってるって思わないじゃない普通。たぶん私がその辺に出しっぱなしにしていたのを、ロナルド君が片付けてくれたんだと思うんだけど。うーん、躾のかいがあったな。って違う違う。
     とりあえず取説を読む。薬の効果は一晩で、何か一言でも言葉を発したら、その瞬間からめちゃくちゃ素直になっちゃうらしい。つまりうっかり飲んでも、一言もしゃべらずに一晩過ごせばなんとかなる……はずなのだが嫌な予感しかしないので逃げる事にした。ロナルド君は今パトロール中だけれど、何もなければじきに帰ってくるはずだ。その前に逃げよう。うん、そうしよう。薬の効果が切れるまで、どこか別の場所に避難して……今日はジョンもいないことだし、ちょうどいい。さあてどこに行こうかな、なんて思っていたら、ヌーチューブの広告みたいに絶妙に不快なタイミングで、童貞サイコパスハムカツゴリラが帰ってきた。

    ***

    「ただいま」
     やけに静かな事務所に、俺の声だけが響く。誰もいないのか……? メビヤツに帽子を預け、居住スペースに向かおうとして立ち止まる。今日こそ、今日こそ俺はやるぞ。
     ドラ公と晴れて恋人になって数週間。情けないことに、俺は全く何もできないままでいた。手を握ったりキスをしたり、それっぽい台詞を言ってみたり、恋人らしいことの一つや二つ……と思っていたのだが出来ない。何も出来ない。やり方がわからない。どのタイミングで手を握ればいいのかわからない。どのタイミングでキスをすればいいのかわからない。そもそもキスの仕方がわからない。それっぽい台詞……そもそもそれっぽい台詞が思い浮かばない。いや厳密に言うと思い浮かばない訳ではないのだが、ドラ公を前にすると、どんなに練習した台詞でもあっという間に飛んでしまう。きっと役者さんが舞台上で台詞を忘れた時ってこんな気持ちなんだろうな。
     なので今日こそは、今日こそはと思い続けてあっという間に数週間が経った。このままでは何もできないまま寿命を迎えてしまう。それだけは絶対に避けたい。だから今日こそ、本当に今日こそは……! 深く息を吸い込むと、俺は居住スペースへの扉を開いた。

    「……ドラ公?」
     しんと静まり返った部屋に声をかけると、ドラルクが勢い良く振り向いた。なんだ、いるんじゃないか。しかし何だそのエロ本を読んでいたら急に妹が入ってきたみたいな顔は。
    「なんだその顔」
     ドラ公は答えない。引きつった笑みを浮かべ、視線をさ迷わせている。なんだよ、俺なんかした……?
    「……そういえばジョンは?」
     やはりドラ公は答えない。下手くそなジェスチャーで何かを伝えようとして来るのだが、如何せん下手くそなので何もわからない。
    「なんだよ、なんで黙ってんだよ」
     思わず声を尖らせると、ドラ公はまたちょっと顔を引きつらせた。ああ、違う、違うんだ。俺はお前と喧嘩がしたいんじゃなくて、
    「……なあ、話があるんだけど」
    「……」
    「俺、今まで恋人とかいたことがないから、どうしたらいいのか全然わかんなくて」
    「……」
    「でも、俺! お前と恋人らしいこと、したいと思ってて、」
    「……」
    「手、手を、繋いでもいいですか……」
     い、言ってしまったー! ついに言ってしまったー! いやだって付き合い始めてもう数週間だし流石に手ぐらいは繋いでもいいかなって、ダメ? ダメか? まだ早かった? でもインターネットの付き合っちゃ駄目な男10選! みたいなよくわからん記事では手を握れない男は終わってるみたいな事書いてたし。いかがでしたか? じゃねえんだよ。どうなの? ねえどうなの? しかし相変わらずドラ公は答えない。なんか笑いをかみ殺したみたいな顔をしている。やっぱり早かったのか……。ああ、俺は水に漬け忘れていた米粒まみれの茶碗……。
    「な、なあ何とか言えよ!」
    「ぐふッ」
    「なあってば!」
     思わず肩を掴んで揺さぶると、ドラルクは小さく笑い声を漏らした。何笑ってんだよ! 俺は真剣なんだぞ! なんで何も言わねえんだよ!
    「なあってばぁ……」
     じわじわと視界が滲んでくる。ああ、俺今世界一格好悪い。でもさだってさ仕方ないじゃん。わかんないんだよ。恋人と、恋人になったドラ公とどう接したらいいか。もう今更殺す以外のコミュニケーション思いつかねえよ……!
     涙がどんどんせり上がってくる。もうダメだ、止められない。両目からぼろぼろ涙を流す俺を見て、ドラ公は面食らっていた。そして視線をさ迷わせながら、言葉を探しているようだった。ああ、もうフラれるのかな。そりゃそうだよな。いい年した大人の男のこんなみっともない姿、誰だって見たくないよな。ドン引きだよな。俺は夏場にポケットに入れっぱなしにしていたチョコレート……。
    「ロナルド君、好き」
    「え?」
     予期せぬ発言に顔を上げると、ドラルクが急に抱き着いてきた。ふわっと香るいい匂い。好きな子の匂いはいい匂い……! っていや何? 何? 何!? 夢!?
    「ロナルドくん、すき……♡」
     見たこともないような蕩け顔で俺を見上げるドラルク。ほんのりと色付いた頬。涙で潤んだ瞳。少女漫画みたいな作画のドラルクに、こんな都合のいい幻覚あるぅ!? と思わず眩暈を起こした。
    「あっあっエッお、ああ、あああ?」
    「すき♡ だいすき♡」
     腰に回された細い腕が心臓ごと俺を締め上げる。ドラ公は幸福を噛み締めるように好き、好きと口の中で何度も呟き俺の肩口にぐりぐりと顔を押し付けた。キャパオーバー。空き容量が足りない。俺の回らない口は壊れたキーボードみたいに意味をなさない文字列を吐き出し続ける。
    「あああばばあああああっばあああああ」
    「ね、ロナルドくんは、私のこと好き?」
    「え、え、あ? あ?」
    「……なんで好きって言ってくれないの?」
    「あ、あわわわわ」
    「私ずっと待ってたのに……」
    「好きです」
    「やった~!!」
     何? 何なの? な、え? え? もう驚きすぎて意をなさない文字列すら出てこない。文筆業なのに全く言葉が出てこない廃業しようかな困る。え、なにこいつ可愛すぎない……? なに……? なんなの……?
    「ねえ、ロナルドくんは、私のことどれくらい好き……?」
    「ど、どれくらい……?」
    「作家でしょ? 私のことどれくらい好きか、言ってみて……?」
     そう言われて脳みそがフリーズする。そうだ、俺は来る日のために青空文庫で恋愛小説やら芝居の台本やらを読み漁り、いい感じの台詞を脳内の口説き文句フォルダに保存していた。本人がいない時ならいくらでも諳んじることができる、しかしドラルクを目の前にすると、どうしても台詞が飛んでしまう。
    「ねえったら」
     強請るように肩口に鼻を擦り寄せられる。あっ、もう、無理……! 深刻なエラーが発生しましたと警報を鳴らす脳内に何度も何度も検索をかける。愛の言葉。愛の言葉。愛の言葉。一件、ヒットした!
    「……ああ、ドラルクはこの世の奇蹟だ! 月の世界から送られて来た清らかな魂の使者だ! 俺はドラルクがこの世に生きていると云うことを思うだけで、この上もない生きがいを感ずるんだ……なんて」
     言い終えると同時にとてつもない羞恥心が込み上げてきて、思わず視線を逸らした。そうだ、この劇作家の書く愛の台詞はどれもこれもがド直球ですげえなぁなんて思っていたらいつの間にか脳内フォルダに保存されていた。そんなド直球な台詞をドラ公に向かって言ってしまった。恥ずかしさのあまり脳みそをぐるんぐるんさせていると、ドラルクは俺を見てくすりと笑って言った。
    「……私、何だかまるで、一生の幸福が一ぺんに来てしまったような気がするの。ねえ、ロナルドくん。私がこの世に生れて来たのは、ただ、君を愛するためだけだったんだ」
    「お、う、あ……ッ」
    「続けて?」
    「……お、俺だってそうだ。ドラルク! ……俺だってお前を愛するためにこの現世に生まれて来たんだ。お前は俺の命だ! たったひとつのかけがいのない俺の命だ!」
    「ふふ、ふふふ……!」
     可笑しくてたまらないと言った様子で笑い始めたドラルク。なんなんだこの奇行は。なんなんだこのプレイは。俺はどうしたらいいんだ。くすくすと笑うドラルクは困ったことに世界で一番可愛い。
    「ロナルドくんは、可愛いね……!」
    「いやそれはお前の方だろ!」
    「え、ろなるどくん、私のことかわいいって思ってたんだ……?」
     ついうっかり心の声を叫んでしまった。ドラルクは心底意外といった顔をする。ああ、もう、どうにでも、どうにでもなれ!
    「思ってたよ! いっつも思ってるよ! お前の事可愛いって! す、好きだなって!」
     感情の向くままにそう叫ぶと、ドラルクはへにゃりと笑って俺の胸元に顔を埋めた。
    「すき、ろなるどくん、すき」
    「お、俺も……!」
     強制シャットダウン直前みたいな回らない頭を必死で回し、動け動けと腕に電気信号を送る。そして世界一可愛い俺の恋人の細い腰に腕を回す。いやほっそ! ちゃんと飯食ってる? 食ってねえか吸血鬼だもんな!
    「……ねえ、さっきなんで、手を繋いでもいいですか、って聞いたの?」
    「なんでって……」
     宇宙一可愛い俺の恋人が甘えるように俺に尋ねる。ああ可愛い可愛い可愛いな。なんでって、そりゃ、わからないからだよ。いつどのタイミングでどんなシチュエーションなら手を繋いでいいかわかんなかったから、わざわざ許可を取ったんだよ!
    「もう私は君のなんだから、好きなときに触っていいんだよ?」
    「お、あ、ああ、あ」
    「ね、キスして?」
     ど、どこに……? どうやって……? もう本当に感情の整理が追い付かない。なんか、アレだろ、キスってする位置によって意味がどうとかあるんだろ。俺は詳しいから知ってるんだインターネットのよくわからない記事で見た。ええと確か……なんてうんうんと考え込んでいると、不意に唇に温かいものが触れた。
    「あ、あ、あああ……?」
     それがドラルクの唇だと気づくまでには、ダイヤルアップ接続並みの時間が必要だった。体中の血液が沸騰する沸騰する。深刻なエラーが体中で起こる起こる。この短時間でとんでもない量の情報を詰め込まれた俺の脳みそは、もう今にもショート寸前だった。
     ドラルクはそんな俺を見て、童貞ルドくんには刺激が強すぎたかなぁ? なんて笑う。ちょっと前なら問答無用で瞬殺していたそんな発言も、今ではえちおねフィルターがかかって妖艶に聞こえる。もうダメだ。俺はおしまいだ。ガンガンと早鐘を打つ心臓に、いっそ杭を打ってくれないかとそんな事を考え始めたその時、ドラルクがとどめとばかりに微笑んだ。
    「……私で卒業する?」
     俺は死んだ。良い人生だった。

    ***

     寝て起きると、薬の効果は完全に切れていた。昨日の惨状を思い出して、棺桶の中で5回は死んだ。実は既に目覚めて結構な時間が経っているのだけれど、どんな顔をしてあの若造と会えばいいのかわからなくて、ずっと出られないままでいる。無理無理無理無理ほんと無理! えっ、なに、昨日の私、なに……? 何なの……? 馬鹿なのかな……? 馬鹿なんだろうな……。IQ2億もなかったわ私……。
     そんな感じで死んでは生き返ってを繰り返して生命の儚さを噛み締めていると、突然棺桶の蓋がノックされた。
    「……おきてる?」
    「ワー! 起きてない! 死んでる!」
    「起きてんじゃん」
     ロナルド君の声で、体温がみるみる上がる。ダメだ無理だやっぱり昨日のことは忘れてもらおう。そうだ、お祖父様に記憶を消す薬とかを作ってもらって……。
    「なあ、出てきてくれよ」
    「お断りだ!」
    「ジョンも寂しがってる」
     そう言われてハッとする。そういえば、ジョンは昨日泊りがけで遊びに行っていたから、丸一日会っていない。お腹が空いているかもしれないし、何か作ってあげないと。
     ジョンの為だから仕方がない。そろそろと蓋を開けると、ロナルド君の綺麗な顔が視界に飛び込んできた。うッ、顔が良い……!
     ロナルド君は私を見ると何か言いたそうに視線をさ迷わせた。いい、いい、言わなくていい! 何を言おうとしてるのかは知らんが絶対言わなくていい!
     ところが、予想に反してロナルド君は無言で私の唇にキスを落としてきた。
    「……え?」
    「……おはようのキス」
    「……なんで?」
    「……いつでも触っていいって、言っただろ!」
     私は死んだ。良い人生だった。
     

    END
    みりん Link Message Mute
    2022/06/16 20:20:08

    電脳恋乞戯曲強制シャットダウン

    人気作品アーカイブ入り (2022/06/17)

    #ロナドラ
    付き合ってるのに全然好きって言ってくれないロに、お祖父様特製素直になる薬を盛ろうとして失敗して自分で飲んで「ロ君すき♡ だいすき♡」ってなるドの話です。n番煎じだったらすみません……。

    ドラちゃんは元々読書家だからこんなのあってもいいよねっていう。
    台詞の元ネタは加〇道〇の「な〇たけ」です。趣味全開。演劇はいいぞ

    表紙はらこぺ様からお借りしました
    https://www.pixiv.net/artworks/83117578

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    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    2022/06/18 11:41:53
    いい人生でした。ありがとうございました。
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