イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    急転直下文学青年焔々エチュード 恋とは、ため息と涙で出来ている。非情に不本意ながら、俺はドラルクの事が好きらしい。本来好みにかすりもしないお前の何がどう具体的に好きなのか。何度も自問自答したが終ぞ答えは出なかった。「愛は目で見るのではなく、心で見るんだ。だからこそ羽の生えたキューピットは盲目に描かれているんだ」そうシェイクスピアも言っている。ただそこに存在するのは、惚れてしまったという事実だけ。

     お前が視界に入るだけで気持ちは上向きになるしお前の一挙一動が気になるし、何かの折にお前と身体が触れ合った時、例えば電車で並んで座って肩と肩が触れ合っている時、全身が肩になるような心地がする。お前と触れ合っている部分だけが熱を持ち、そこが世界の中心であるような気さえする。

     この気持ちを伝えたらお前はどんな顔をするだろう。思い描くは鳩が豆鉄砲を食ったような顔、苦虫を噛み潰したような顔、あるいはひっくり返って笑う顔。「気でも狂ったのか?」なんて引き攣らせた顔。あれこれ想像してみたがどれも面白いくらいしっくり来る。ただひとつ絶対にありえないとわかるのは「私も好き」なんてうっとりと赤く染めた顔。それだけは絶対にないと理解していた。

     何度も何度もお前に振られる想像をする。想像の世界は自由だし何処までも高く飛べる筈なのに、意気地のない俺は敢えて現実的な想像をし自分自身を傷つける。頭の中のイマジナリードラルクに思いつく限りの罵倒の言葉を喋らせる。気持ち悪い、ありえない、どうかしてる、近場で済ませようとするな、どこの吸血鬼の仕業? 童貞って拗らせるとこうなるのかあー面白面白、とか。あ、あ、あ、しんどい苦しい無茶苦茶に痛い。心とかが。それでもイマジナリードラルクは喋る喋る。別に俺はMではないからそういう趣味はない。ただ来たるべき衝撃に備えて準備運動をしているだけだ。拒食症の人が敢えて吐きやすいものを食べる、みたいな。出来るだけ痛くないように痛みを受け入れる、ような。

     カタカタとキーボードを叩く。この気持ちをどう表そう。付き合ってくれ、なんて言う気はない。それはあまりにも烏滸がましい。俺ごときが誰かの一番の座に着くなんて絶対にありえないとそれは解る。はっきりと解る。では何のためにこの気持ちを伝えるのか。それは自己満足。そうただの自己満足だ。そんなものの為にこれまで築き上げてきた関係を壊すのか、と頭の中でまだ理性的な方の俺が言う。だって仕方がない。仕方がないのだ。この数年閉じ込めてきた、俺からお前への感情の火。それが出してくれ出してくれと悲鳴を上げるのだ。お前と目が合う度に、俺の心臓の中で燃え盛って、出してくれ楽にしてくれと訴えるのだ。閉じ込められている火こそ、一番強く燃えるものだ。だからもう、仕方ない。俺はその声に従うことにした。その火を受け入れることにしたのだ。恋は明日のものでなし、今この時の喜びなり、だ。

     カタカタとキーボードを叩く。さあ、お前を何に譬えよう。ああドラルク。お前はどうしてドラルクなんだ。「あの窓からこぼれる光は何だろう。向こうは東、とすれば、ドラルクは太陽だ」いや、これは違う。吸血鬼を太陽に例えるなんて。なら、月の光? いや、違う、もっと――

    「ロナルド君?」

     心臓が跳ねた。ハッとして顔を上げると、そこにはついさっきまで脳内で俺に罵詈雑言を浴びせていた吸血鬼がいた。全身から汗が吹き出すじわっと吹き出す。ドラルクはそんな俺の様子を気にするでもなく、ひょこひょこ歩いてきてパソコンの画面を覗き見た。

    「……シェイクスピア?」
    「お、あ」
    「勤勉だな、作家先生」

     ドラルクが俺の顔を覗き込んで、ちょっと感心した様に言う。あ、あ、あ。ずっと閉じ込めていた火が、思い出したように燃え盛り、叫び声を上げ始めた。ここから出せ、ここから出せ、楽にしてくれ! オッケー分かった今出してやる。覚悟を決めると、俺はドラルクの華奢な腕を掴んだ。

    「ああドラルク、お前はどうしてドラルクなんだ」
    「は?」
    「どうしてお前は男なんだ」
    「は?」
    「どうしてお前は吸血鬼なんだ。そして俺は退治人ッ……!」
    「気でも狂ったか?」

     目の前のリアルドラルクは、俺のイマジナリードラルクと全く同じ表情をして全く同じ台詞を言った。やはり俺の想像力は完璧だったのだ辛い悲しいでも負けない。じわじわとにじみ出てくる涙を堪えながら、俺は気合で続けた。

    「ドラルク、俺はお前のことが――」
    「付き合う?」
    「え?」
    「私のこと好きなんでしょ?」
    「え?」
    「え? 違うの?」
    「違わねえけど。……え?」
    「え?」
    「え?」
    「付き合わない?」
    「付き合ってください……」
    「はい」

     急転直下、恋が叶った。え、いやそんなことある? 思いもかけない展開に目を瞬かせていると、俺の意思を察したのか、ドラルクがあきれ顔で言った。

    「だって、君、全部顔に出てるから」
    「えっ」
    「ずっと私のこと好きだったんでしょ?」
    「そう……ですね、はい」
    「なんで敬語?」
    「いや、なんか展開に頭が追い付かなくて……えっ、だけど、いいのか? 付き合うって」
    「うん、まあ、確かに私は君に惚れてる訳じゃないけど」

     ゴッ、と急に鈍器で殴られたような衝撃。

    「でもまあ、面白そうだし」

     スクラッチ当たったけどよく見たら200円だった時のような微妙な喜びと落胆。

    「それにさ、言うじゃない」
    「……何が?」
    「求めて得られる恋も良いものだが、求めずして得られる恋のほうが、なおのこと良いのである。……まあ、精々頑張って、私を惚れさせてみるといい」

     そう言うと、ドラルクはいつもの癪に障る笑みを浮かべた。

    「……やってやろうじゃねえか」

     ノー勉でテストに挑む直前のような、根拠のない自信とやる気がどこからともなく湧き上がってくる。俺はドラルクのクラバットを掴むと、ぐっと顔を引き寄せた。ひんやりとした唇の感触。驚いて砂になった恋人に、俺は揚々と言い放った。

    「The magic in love steals into a dim heart! ぼんやりしている心にこそ、恋の魔力が忍び込む、だ!」


     
    みりん Link Message Mute
    2022/06/19 12:44:46

    急転直下文学青年焔々エチュード

    人気作品アーカイブ入り (2022/06/19)

    #ロナドラ
    フラれるイメトレをしてからドに告白をしたロがOKを貰う話です。

    表紙はらこぺ様からお借りしました
    https://www.pixiv.net/artworks/95748449

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品