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    走る走る走る飴とチョコレート 走って走って走って走ってドラ公に会いに行く! 新横浜から遠い土地で、デカめの退治依頼に駆り出されて約一ヶ月。本日、ようやくやっと全ての仕事を完了した。解放されるや否や、まだ寝ているであろうドラ公に「今から帰る」とラインを送り、駆け足で電車に飛び乗る。一ヶ月。一ヶ月だぞ? 一ヶ月もドラ公に会えなかった! こんなに長期間離れるのは久々だったから、毎日毎日気が変になりそうだった。最初のうちは毎晩電話をしていたのだけれど、実体がないのに声だけ聴くというのも中々辛いもので、途中からはラインのやり取りだけに切り替えた。声を聞けば聞くほど、会いたいという気持ちが加速する。だからぐっと堪えて、ラインも一日何時間だけと決めて、感情に蓋をしてガムテープでぐるぐる巻きにして心の奥底にしまい込んだ。

     早く、一刻も早くお前に会いたい。ああもう、好き、好きだ、ドラ公のことが心の底から大好きだ。今なら、どんな口説き文句も無限に言える気がする。会えない時間で凝縮されたドラ公への気持ちは、甘くキラキラと輝いて、跳びはねて、今にもはちきれんばかりだ。ああ、一刻も早くあの愛しい身体を抱き締めたい。細い身体を俺の腕の中に収めて、胸いっぱいに深呼吸をしたい。抱きしめて頬ずりして顔じゅうにキスをしたい。

     新横浜に向けて電車は走る走る。駆け足で過ぎ去って行く風景は、夕日に照らされてオレンジ色に眩しく光る。邪魔くさい太陽に目を細めながら、俺は心の中で悪態をついた。早く、早くいなくなれ。そして俺たちの時間になれ。俺たちの夜になれ。

     そしてようやく日が落ち切った頃、握りしめていたスマホがヴヴヴと震えた。反射的に画面をタップすると、そこには愛しい恋人の名前が。

    『駅で待ってる』

     思わず緩んだ口元を、慌てて右手で隠した。ああ、早く、早くお前に会いたい。
     東神奈川、大口、菊名と来てあと一駅で新横浜だ。あとたった数分で、お前に会える。……と思ったのだが、菊名で扉が開いたまま、何故か電車が動かない。何事かと車内放送に耳を傾けると、

    「――新横浜駅で社内迷惑行為が発生した為、現在運転を――」

     はいクソはいクソはいクソー! 世界が俺とドラ公の邪魔をする! ほんとふざけんなよ何だよ迷惑行為ってブチ殺すぞ! 待ってらんねぇたった一駅だ走ればいい! そう決めると、俺は電車から飛び出した。人混みの中、改札に向かって泳ぐ泳ぐ。ドラ公が! 待ってんだ! 俺の為に! 邪魔してんじゃねぇぞ世界! そしてたどり着いた自動改札に、ICカードをかざして残高不足ではじかれる。邪魔! してんじゃねえ! 世界! チャージをするため乗り越し精算機を探す探す。……人が! 並んで! いる! クッソなんなんだよもう! おとなしく列に並んで、順番を待つ。一人また一人と精算を終えて、次が俺の番だ。しかし目の前のご老人は、中々操作を終えない。……おばあちゃんが! 操作に! 困っている! エーンそれは仕方ないよね! 差し出がましいかなぁと思いながらもドラ公に会いたい気持ちに負けて、おばあちゃんの代わりにタッチパネルを叩く叩く。精算を終えると、おばあちゃんは俺に深々と頭を下げて、お礼にお菓子をあげようねぇさてどこにやったっけと鞄の中を漁り始めた。いやいいです大丈夫です、そう丁重に遠慮したのだが、おばあちゃんは「いいからいいから」と鞄の中身を混ぜる混ぜる。エーンご厚意を無為にはできない!

     それから十分ほど経って、おばあちゃんは鞄の中からありったけの飴とチョコレートを出してくれた。丁重に礼を言って別れると、両手から零れんばかりのそれをポケットにねじ込んで、改札を出た。西口から出て左に曲がって、あとはただ道なりに走る走る走る。早く、早くドラ公の元へ! 

     しかし世界はどこまでも俺たちの邪魔をする。今日に限ってやたらと信号にひっかかるし、犬に吠えられるし、道を聞かれる。いやこんな全力で走ってる人に普通道聞く!? まあちゃんと教えたんだけど! 駅は反対方向だよおじいちゃん! まだまだひたすら走る走る。途中ポケットから飴やチョコレートが零れて慌てて取りに戻ったりなんかしてそれでもひたすら走る走る。握りしめたスマホが汗で滑って落ちてちょっと割れたけど握りなおして走る走る走る。だっていつドラ公から連絡が来るかわからないから! と、新横浜駅が視界に入り始めたその時、突然スマホが振動した。

    「もしもし!?」
    「ロナルド君? いまどこ?」
    「も、もう! すぐ! 駅! つくから!」
    「何で息荒いの? 走ってる?」
    「走ってる!! すぐ着くから!!」
    「あーうん、そうだね、急いだ方がいいかも。北口の改札前にいるからってアーーーー!!」
    「ドラ公ー!?」

     急な絶叫と共に電話が切れた。えっえっえっえっ何!? ドラ公の身に何が!? 畜生世界、どこまで俺たちの邪魔をするんだ! 俺はぐっと歯を食いしばると、耐えてくれよ俺の足とラストスパートをかけた。何故か駅からは大勢の人が悲鳴を上げながら逆走してくるが知ったことじゃねえ。走って走って走って走って俺は! ドラ公に! 会うんだ! 駅構内に入り、階段を駆け上がり北改札口を目指す。何故か逆走してくる人の海の中をかき分けかき分けしながらドラ公を探す。ドラ公、ドラ公、ドラルク――! いた! 吹き抜けになっている大広間の片隅で、愛しい恋人は柱に隠れるようにして立っていた。

    「ドラルク!」

     駆け寄って駆け寄ってぎゅっとぎゅっとぎゅっと抱きしめる。首筋に顔を埋めて胸いっぱいに深呼吸する。五億年ぶりのドラ公の香りに、くらくらと眩暈がする。ドラルク、ドラルク――!

    「会いたかった!」

     人目もはばからず、思わずその唇に口付ける。額に、頬に、顔じゅうにキスの雨を降らせる。足りない、足りない、どれだけしても足りない! 失った一ヶ月を取り戻すように、俺はドラ公を強く抱きしめた。ああ、好き、好き、好きだ。胸の奥からチョコレートのように甘くて飴玉のようにキラキラした感情が溢れて、溢れて止まらない。

    「……どらこう?」

     しかしドラ公は腕の中で、じっと黙っている。……いけない、暴走しすぎた。そっと腕を緩めて愛しい顔を覗き込むと、ドラ公はもの言いたげな目で俺を見つめた。

    「……ドラ公? どうした?」
    「……」
    「寂しかった?」

     そう言うと、ドラ公はこくりと頷いた。かと思ったら、首をぶんぶん横に振った。

    「何……? どうした……?」
    「……」
    「もし、かし、て、会いたく、なかった……?」

     スゥ、と血の気が引く。俺にとってはこの一ヶ月は五億年だったが、もしかしたら、ドラ公にとっては一ヶ月は一ヶ月だったのかもしれない。そうだ、それにこいつは吸血鬼だ。時間の感覚なんて違って当然で、それなのに俺ときたら馬鹿みたいに騒いで――

    「嫌いになった……?」

     そう言うと、ドラ公はまた首を横にぶんぶん振った。

    「なんだよ、じゃあなんで黙ってんだよ」
    「……」
    「……もしかして、電話やめたの怒ってる? いや、でもあれは声を聞くと会いたくなるからで、言ったよな? 俺、会えない時間も、お前の事ずっと想ってるって」
    「……」
    「なあ、なんとか言ってくれよ」

     依然として口を開こうとしないドラルクに、じわじわと視界が滲み出す。あ、いけない、俺もういい歳なのに、またみっともなく泣いてしまう。

    「……俺、ほんと、ダセぇよな……たった一ヶ月会えないだけで、こんな、馬鹿みたいに……いやでも、お前にとっては『たった』かもしれないけど、俺にとっては――」

     情けなくぼろぼろと言葉を溢していると、突然、唇にひやりとした感触がした。

    「……どらこう?」

     ドラルクはゆっくりと唇を離すと、目を潤ませて震える声で言った。

    「……会えなかった時間を埋めるみたいな、ぐちゃぐちゃのセックス」
    「は?」
    「存在を確かめるように背中を撫でる大きな手! いつもよりしつこくて濃厚なキス! 首筋にいっぱいつけられたキスマーク!」
    「何? 何? 何?!」
    「エーン世界一大好きなロナルド君!」

     そう叫ぶと、ドラルクは俺の後ろを指さした。何事だと振り向くと、そこにはクッソ不愉快な笑みを浮かべた黄色い吸血鬼の姿が。

    「君達も既に、我が術中!」
    「アーっ!! 寂しかったよと縋りつかれながら背中に突き立てられた赤い爪!!」

     Y談波をモロに浴びた俺は、性癖を叫びながら黄色をぶん殴った。これでもかという程ぶん殴ってからVRCに引き渡した。もう、何だ? 世界、何だ? 何故俺とドラルクの邪魔をする……? 連行される黄色を眺めながら長い溜息をつくと、ドラルクが俺の袖を引いた。

    「……どうした?」
    「……寂しかったよ。帰ろう?」
    「……おう」

     途端、ついさっきのドラ公の発言を思い出して、思わず口元が緩んだ。

    「……さっさと帰って、存在を確かめるように背中を撫でて、いつもよりしつこいキスをして、首筋にいっぱいキスマークを付けてやらねえとな!」
    「ファー! そうだな! さっさと帰って、寂しかったよって縋りつきながら背中に爪を突き立ててやらないとな!」

     ああやっぱり、この一ヶ月は五億年だった! 俺はドラ公の手を取ると、そっと指先を絡めた。お互い手のひらはちょっと汗ばんでいて、ぎゅっと握るとそのまま溶けてしまいそうだった。……そういえば、ポケットのチョコレートも、溶けちゃってるんだろうなぁ……。

    みりん Link Message Mute
    2022/06/15 21:25:36

    走る走る走る飴とチョコレート

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    #ロナドラ
    30年後ロナドラ。
    一ヶ月ぶりに会う為に、ロがめちゃくちゃ走って走って走ってドをぎゅっと抱きしめる話です。

    表紙はらこぺ様からお借りしました
    https://www.pixiv.net/artworks/84618568

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