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    感電 ロナルド君の電池が切れた。
     それは数か月に一度、もうそろそろかな、と思ったタイミングでやってくる。だいたいその日のロナルド君はいつもより口数が少なくて、こちらが何を言ってもどんなに揶揄っても反応が薄い。そして、感情の読めない表情で、私の名を呼んで、抱き寄せてくる。そうなったらもうおしまい。その日の予定は全てキャンセル。一歩も部屋から出られない。
     最初にそれが起こったのは、私と彼が付き合い始めて一か月が過ぎた頃だった。その日、私はオータム書店の企画のため3日ほど家を空けていていて、ようやく帰れる所だった。料理は作り置きしてあったけれど、きっと五歳児はお腹を空かせているだろうな、などと考えながら事務所の扉を開く。ロナルド君はパソコンで何やら作業中で、私が入ってきても気づいていない様子だった。

    「ただいまー! いい子にしてたか?」

     大き目の声で話しかける。しかしロナルド君は応じない。無視されている? と思い、顔の前で手を振ってみる。するとようやくこちらに気づいたようで、ぼんやりと顔を上げた。

    「……ドラルク」
    「ただいま。どうした? 体調でも悪いのか?」
    「……」
    「ロナルド君……?」

     ロナルド君は青い瞳を見開いて、私をじっと見つめた。その瞳の奥は暗く靄がかかっていて、感情が読めない。どうしたんだろう、お腹がすいたのかな、寂しかったのかな、などと思案を巡らせていると、突然名前を呼ばれた。

    「ドラルク」
    「何?」
    「……ドラルク」

     私の名を呼びながら、ロナルド君はそっと腕を広げた。ああなんだ、やっぱり寂しかったのか。なんだか嬉しいような揶揄ってやりたいような気持に襲われて、仕事用の椅子に座ったままの彼に抱き着いた。
     ロナルド君は私を軽々と横抱きにして、膝の上に乗せた。ちょっと恥ずかしくなる体勢で、ぎゅっと抱きしめられる。大人にしては高すぎる体温がじんわりと伝わってきて、気持ちいい。そのまま存在を確かめるように、ロナルド君の大きな手のひらが背中を撫でる。それがちょっとこそばゆくて、身をよじって逃れようとしたが、がっちりと抱きしめられて身動きが取れなかった。

    「ロナルド君、苦しいよ」
    「……」
    「ロナルド君……?」

     ロナルド君は私の首元に顔を埋めると、じっと押し黙った。沈黙が部屋に満ち、カチコチと時計の音だけが鳴り響く。
    「ロナルド君ってば」

    「……」
    「聞いてる?」
    「……」
    「……そんなに寂しかった?」
    「……」
    「……五歳児、ついに言葉すら忘れたのか?」
    「……」

     いつもならここで拳が飛んでくるはずなのだが、その兆しが一切ない。ロナルド君はただ無言で私を抱きしめ続ける。と、首筋にぬるりとした感触が走った。

    「ひゃ、」

     思わず声を上げる。見れば、ロナルド君が私の首筋に舌を這わせていた。

    「え、やだ、やだ、なにするの」

     冷えた身体に、ロナルド君の熱すぎる体温がぬるぬると重ねられ、肌が粟立つ。いやだ、いやだ、まだお風呂にも入っていないし、隣にはジョンもいる。

    「やだ、やめて、ねえ、ロナルド君ってば」

     聞こえていないのか、ロナルド君はこちらを見もしない。無言でクラバットを外し、器用に服のボタンを外して、首筋を露にされる。首筋から肩にかけてを、じっとりとした感触が這う。背筋がぞわぞわと震えて、思わず変な声が漏れ出た。

    「あ、やッ、」

     すると今度は、首筋にちくりとした感触が走った。ちゅ、ちゅ、と音を立てて、ロナルド君が私に痕をつける。やだ、やめて、変な声が出るから。そう言いながら身をよじるも、ロナルド君は応じない。首筋から鎖骨にかけてを、鎖骨から肩にかけてを、余すところなく、じっとりと執拗に吸い上げられる。きっと鬱血して酷いことになっているはずだ。人間は思慕する相手に、こうやって所有印を付けると聞くが、死ねば消えてしまう私にして、一体何の意味があるのだろう。しかしロナルド君は気にする様子もなく、一心に私に所有印をつけていく。これは自分のものだ、間違いなく自分のものなんだと確認でもするように。

     そして今日、またロナルド君の電池が切れた。一度こうなると、一晩は復活しない。その間、充電するように私を味わい続ける。それは首だったり、背中だったり、腕だったり。それ以上何かをされる訳でもなく、一晩中一点を責め続けられる。正直参っていた。しかし一度こうなると、何があろうと絶対に離してくれないし、次の日になったら猛烈に謝罪されるから、なんだかんだ許してしまっている。
     最近ではなんとなくもうすぐかな、と予測ができるようになって来たので、今日はジョンには出かけてもらっている。水槽も移動させているし、メビヤツはおやすみモードだ。

    「……ドラルク」

     五歳児が私の名前を呼んだ。さあ、今日は何をされるのやら。
     ソファに座ったままの五歳児が、両腕を広げる。私はその膝の上に跨ると、広い胸に身体を預けた。がっちりとした腕が、腰に回される。ああ、この瞬間は好きだ。彼から体温を分け与えられる、最初のこの瞬間が一番好きだ。ロナルド君は暫く無言で私を抱きしめると、やがてゆっくり身体を離し、私の顎に手を添えた。え、と思う間もなく、唇が重ねられる。そのまま形を確かめるように、やわやわと唇を食まれる。ああ、今日はここなのか、まいったな。
     角度を変えて、触れるだけのキスを何度も繰り返す。と、ロナルド君の熱い舌がぬるりと入り込んできた。

    「ん、」

     一本一本数えるように歯列をなぞられ、塗りつぶすように、頬の粘膜を舐められる。いつもより丁寧に執拗に、口内を弄られる。

    「や、あ」

     口の端から唾液が零れた。ロナルド君は一旦唇を離すと、それすら勿体ないとでも言うように、ちゅ、と音を立てて、唾液を掬う。身体にじくじくと熱が溜まる。ああ、いやだ、いやだ、これが一晩中。
     息をつく間もなく、再び唇が重ねられる。私の舌に、ロナルド君の分厚い舌が絡められ、じゅ、じゅ、と唾液を搾り取られる。ロナルド君はそれを飲み下すと、やっと唇を離した。
     ぷは、と息をする。いつの間にか視界は涙で滲んでいて、腰は砕けて力が入らない。身体は火照って、頭がくらくらする。

    「ロナルドく、」

     もうちょっとゆっくり、と言おうとして、言葉を飲み込んだ。火照った身体と反比例するように、底冷えするような青い瞳が、私を見ていた。

    「……ドラルク」
    「……うん」
    「ドラルク」
    「うん」

     ロナルド君は時折、こういう目をする。青空のような綺麗な瞳。それが偶に、夜の海を思わせるような、仄暗い闇をぼんやり映す。夜の海は、じっと見ていると引き込まれそうで、恐ろしくなる。それと同じだった。はじめ、この瞳を向けられた時は、恐怖で身が竦んだ。空気中の酸素が一気に薄くなったように感じて、息が詰まった。怖かった。いや、本当は、今だって怖い。

    「ロナルド君、好きだよ」

     私は膝立ちになると、腕を伸ばして、ぎゅっとロナルド君の頭を抱きしめた。そのまま、安心させるように、耳元で何度も囁く。

    「好き。好きだよ。誰よりも君が一番好き」

     不意にジョンの事が脳裏をよぎったが、今だけは許してくれと頭の中で言い訳をして、ロナルド君のための言葉を紡ぐ。君が欲しいと、言葉には出さないけれど、君がいつも渇望している言葉を、言い聞かせるように、あやすように、吹き込んでいく。

    「私は君のものだし、君は私のもの。どこにも行かないし、どこにも行かせないよ」
    「好きだよ。世界で一番。君は特別。私には君だけ。ねえ、ずっと一緒にいてくれる?」

     ロナルド君は答えなかった。ただ、私の肩に濡れた感触がして、彼が声もなく泣いているのだけは分かった。ロナルド君、ロナルド君、ロナルド君。

    「愛してるよ」

     心の奥から漏れ出た息に乗せて、囁いた。本心だった。いつの間にか、ロナルド君は私の心の大部分を占有していた。こんなのは自由じゃない、私らしくない、と思うのだけれど、時間が経つにつれ、それが心地よく思えるようになっていった。

    「愛してるよ」

     何度も執拗に囁く。ロナルド君は嗚咽を漏らし続ける。心臓がぎゅっと鎖で絞められたようになって、言葉にできない感情が込み上げる。200年以上生きてきて、初めて知った。愛する、とは、きっとこういう事なのだろう。


    みりん Link Message Mute
    2022/06/23 16:33:25

    感電

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    #ロナドラ
    壊れかけのロと壊れかけのドの話。
    共依存。薄暗いです。
    リクエストありがとうございました
    ※時系列バラバラ

    表紙はらこぺ様からお借りしました。
    https://www.pixiv.net/artworks/85202305

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