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    ももねのおつかい東京駅に向かうバスの中でスマホを取り出した百音は、『汐見湯女子会』のグループメッセージを開いた。これは、百音と明日美、それに菜津と菜津の母の光子が参加しているグループで、光子は主に読む専門だが、日々の連絡だけでなくちょっとした雑談にも折々に使われているのである。

    百音が、菅波に御遣い物を頼まれた話を告げると、菜津と休憩時間とおぼしき明日美から早速返信が来た。

    なつ:やっぱり個包装で食べやすくて日持ちがするもの、よね
    Asumi:ていうか、そういう買い物をモネに頼むとか、先生が彼氏感めっちゃ出してくるね!
    Asumi:やるじゃん!
    百音:すーちゃん、今それはいいから~!
    なつ:東京、って感じがするものがいいのかしら
    Asumi:それはそう!「東京で人気の」ってのに弱いんだから
    なつ:和菓子?洋菓子?
    百音:それは全然お任せします、って先生が
    なつ:どういったところにお持ちするもの?年齢層や人数は?
    百音:提携先の個人病院とか、介護施設とか。私も知ってるところが多いけど、ご年配のお医者さんがやってるところもあれば、介護施設だと若いスタッフも多いかな。
    なつ:おばあちゃんが、ご年配の方には、やっぱりとらやさんとかが安心なんじゃない?って言ってるけど、ベタすぎ?
    Asumi:大丈夫、だいじょーぶ!
    Asumi:なんだったら、どこかに「限定」って書いてあるの買っとけばいいから!
    Asumi:自由が丘の知る人ぞ知るショコラティエより、とらやの限定の方がウケるから!
    なつ:すーちゃんらしい
    Asumi:だってホントだもーん
    Asumi:後は若い人多いとこには、ミルフェボンのバトンとか?
    Asumi:どっちも仙台にしかお店ないから、県北だと喜ばれるよね。
    なつ:仙台にしかないのね
    Asumi:そうなの!あ、リンク送るね~

    画面上でわいわいとやりとりをしているうちに、バスは東京駅に到着する。百音は菜津や明日美とのやりとりを頭に入れつつ、百貨店1階の和洋菓子の足を踏み入れた。菅波の挙げた訪問先のいくつかは、百音が登米にいたころに森林組合の仕事を通して知っていることもあり、御遣い先の顔や施設も何となく思い浮かべながら、ぐるりとフロアを回る。

    百貨店の菓子フロアは見ているだけでも楽しい場所で、あれこれと見ていると百音の心もふわりとなる。それが菅波からの頼まれごととなるとさらに楽しく、よいものを選ばねば、と心の中で腕まくりの気分である。

    明日美が勧めたタルトの店のバトン詰め合わせは春のパッケージで彩りもよく、数もよさそうだと購入し、隣にあるTOKYOを名に冠したショコラティエのチョコブーケも、人数が多い介護施設向けにと購入する。ふと、タルト生地に鮮やかなイチゴジャムが華やかなドライケーキに足が止まり、これはサヤカももらって喜んでいたな、とサヤカとも親しいクリニック向けにジャムのドライケーキとリーフパイとの詰め合わせを一つ注文した。

    あとは、と足を向けるのは光子に勧められた鉄板の和菓子屋である。古今和歌集所収の歌にちなんだ名前の小倉羊羹などが竹皮に包まれた重厚な定番ものから、竿もの、最中、季節の菓子などよりどりみどりで、洋菓子のエリアとはまた異なる華やかさがあった。定番の小倉や黒糖、抹茶などの羊羹に加え、百音の目をひくのは季節の羊羹である。桜色と緑が配色された羊羹は山里の風情で、東京より春が少し遅い登米にも合うし、他にも、桜と梅をかたどった最中は紅白で何かを始める挨拶に向く気がする。いくつか心中でピックアップしつつ、ゴルフボールの形の最中にも目が留まる。その昔、サヤカが骨折の折に菅波と二人で搬送した整形外科の院長がそういえばゴルフ好きだった、と思い出し、そこにはこれがいいかも、とリストに加えて。

    カウンター越しに、あれこれと注文をすると、心得た店員がとっていたメモから顔をあげて百音に聞く。
    「ご進物ですか?」
    「はい。仕事の着任の挨拶用です」
    「熨斗はどうしましょうか」
    「あ」

    問われて、どうしたものかと百音が悩む。菅波から熨斗の有無などはもちろん言われていないし、あった方がいい気もするが、表書きまですると仰々しい気もする。ならば無地熨斗か、いやしかし熨斗不要だったら…。

    百音が悩んでいる様子に、店員が助言の声をかけた。
    「ご挨拶にお持ちになるのはお客様ではなく?」
    「そうなんです。それでちょっと悩んでしまって」
    「なるほど…。そうしましたら、無地熨斗と、書入れ熨斗とご用意させていただきまして、別にしておきましょうか。必要に応じて贈り主の方にご判断いただいてお使いいただければと」
    「そうしてもらえると助かります」
    「承知しました。後ほど、おうちでできるように、熨斗紙のかけ方はご紹介させていただきますね」
    「おうちで、あの、住んでるとこちがっあ、いいや、えと、は、はい。かけ方教えてください」

    百音がどぎまぎしているうちに、店員がメモをもう一枚手元に出した。
    「ご挨拶の熨斗でよろしいでしょうか」
    「あ、はい」
    「熨斗に書くお名前を伺えますか?」
    「菅波…です」

    別に名乗っているわけではないものの、こういった場で菅波の名を自分が言っていることが面映ゆい。
    「スガナミさま、こちらでよろしいですか?」
    「はい」
    「かしこまりました。他のご進物もおありのようですし、いずれも少し多めに支度いたしますね。少々お待ちください」

    店員はてきぱきと品物を用意して下がっていく。菅波の身内然としたふるまいを取らざるを得ない状況に、なんだか不思議な感じがする。苗字が変わることへのあこがれなど全く持ったことがない百音にとって、金輪際予想もしていなかった状況で、店員が戻るのをそわそわと待つ。

    落ち着かなくてディスプレイに目をやると、和菓子屋に似つかぬ瓶詰があった。見ると、あんペーストと書いてある。こしあんのペーストで、餅に添えるだけでなく、トーストやヨーグルト、グラノーラにパンケーキなどいろんな食べ方が紹介されていて、バターとの相性も抜群と書いてある。おいしそう、と手に取って、これは自分用に買おう、と心に決めるのだった。

    お待たせしました、と戻ってきた店員に熨斗紙のかけ方を教わり、あんペーストもひと瓶注文して。他のものもまとめましょうか?という申し出もありがたく受ける。折れないようにまとめられた熨斗の紙袋と合わせて二つ提げると、重さはずっしりと手にかかった。

    店員に見送られて辞し、ミッション完了と安堵しながら出口を目指す。その道中で目に付いたプリンを汐見湯への土産に買い求め、これは先生と食べたい、とベイクドチーズケーキも買い求めて、百音はほくほくと築地方面へのバス停を目指すのだった。
    ねじねじ Link Message Mute
    2023/03/30 16:15:45

    ももねのおつかい

    #sgmn

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