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    アプリルシェルツうまく休みを組み立てる事ができた百音が登米の菅波に会いに東北新幹線に乗り込んで。最寄り新幹線駅への到着予定時刻を知らせるメッセージをいつも通り送る。すぐに既読がついて、ポコンと返信が届いた。

    『了解です。時間に合わせて迎えに行きます』
    『よろしくお願いします。楽しみです』
    『僕も。待ってます』

    簡素なやりとりの中にお互いのワクワクが滲むのを感じて、百音の頬がゆるむ。桜の盛りの公園の横を走り抜ける車窓を眺めていると、春の華やかな雰囲気がまた気分を盛り立てられる。北に向かうにつれ、桜も盛りの前という風情になり、それもまた登米の地に向かっているのだという実感がうれしい。

    新幹線の駅に着くと、ホームの端に長身の見慣れた立ち姿が見え、百音の口許がほころぶ。が、同時に何か違和感を覚えた百音は、内心首を捻りつつ、それでもすぐにバッグを手に会いたかった人の元に駆け寄った。

    「いらっしゃい」
    と笑う菅波はいつも通りの笑顔で、いつも通り大袈裟なハグなどはできない二人は半歩の距離ではにかむのである。
    「じゃあ、行きますか」
    百音の提げたボストンバッグをさらりと手に取って、菅波がもう片方の手を百音と繋ぐ。はい、と答えて歩きながら、隣の菅波を見上げて、モネは自分が覚えた違和感に気づくのだった。髪型と服装がいつもの菅波と違う。

    分けるようになって久しい前髪がおろされていて登米夢想で出会った頃のような髪型だし、服装もいつもの青チェックシャツとチノパンではなく、最近の内田が着ているようなカジュアルだがシルエットのよいダークカラーのセットアップを着ている。

    先月に会った時とはまるで違う髪型と服装に訝しい顔をしてしまっていたか、エスカレータで百音の下に立った菅波が、何事もないようにとてもナチュラルに、どうかした?という目線を向けてくるので、菅波にとって自明すぎることなら、今取り立てて聞くのもおかしなことか、と百音は小さく首を横に振る。

    改札を出て、駐車場に向かって歩きながら菅波を見上げると、いつもと違う格好よさになんだかドキドキしつつ、かすかな寂しさも覚えていて、どうやらそれは自分の知っている菅波の『よさ』が消えたような気がしているからだ、と百音自身が自覚しているかどうか。

    まったく車が通る気配などない横断歩道の信号を律儀に守って駐車場に入り、百音が菅波の車を見つけようと場内を見渡すと、菅波はこっちですよ、と奥に向かう。たどり着いた先の車を見て、百音はあれ、と声を上げた。
    「先生、車変えたんですね」
    「ええ、ちょっと気分転換にと思って」
    と当たり前のように返事をしながら菅波は荷物を積み込む。

    菅波が荷物を積み込んだその車は、百音でも分かる赤色のイタリアの車でもちろん左ハンドルである。どうぞ、とこれまた当たり前のように普段運転席の側の助手席のドアを開けて誘われ、はい…と乗り込めば、菅波が運転席に乗り込む。

    シートベルトを締めた百音がリュックを膝の上に置いて準備ができたのを確認して、菅波がエンジンをかけながら百音に言う。
    「いつもは道渡ったところのスーパーに行きますが、今日は別のところに行きませんか?街向こうにもう一つあるでしょ、あそこがリニューアルしたから、今度百音さんが来たら一緒にいけってみんなが言ってて」
    どうかな?と首を傾げてこちらを見る菅波に、ぜひ、と笑う。じゃあそうしましょう、と菅波も笑って頷き、右手でガチャリとシフトレバーを扱って車を前に滑り出させる。

    今まではAT車だったので、MT車を運転する菅波を見るのは初めてで、なんだかそれも不思議である。今日は初めて見る先生ばっかりだ、と百音が思っていると、料金ゲートで一時停止した菅波が、左ハンドル故に、一度シートベルトを外して、百音の前に上半身を乗り出して腕を伸ばして精算を済ませる。

    百音がまた、その仕草と近さにドギマギとしているうちに、菅波は体勢を戻してシートベルトを掛けて車を出した。いつもは、車に乗り込めばすぐに百音が「あのね、先生」とあれこれ話始めるものだが、どうもいつもの調子が出ない百音が唇をむぐむぐさせていると、菅波がギアチェンジをしながら百音に声をかけた。

    「何か、ありましたか?いつもは道の向かいの駐車場までもあれこれ話を聞きますが…」
    「ん…なんでも、ないです」
    「そうですか?」

    答えあぐねる百音に、菅波は相槌を打ちつつ、そこに追い打ちをかける様な事もなく。そもそも、なんだかいつも通りじゃない菅波に百音がどぎまぎしているのに、菅波はいつも通りに百音の変化に気づいていて、これって何なんだろ、と百音の頭の中はぐるぐるである。

    ハイスペックな車ながら、車通りが多いところは極めていつも通りの安全運転で、しばらく走った先で山端にかかるような道では少しスピードも出しつつ。菅波が薄く窓を開けると、心地よい春の風が二人の髪を揺らした。結局、ほとんど言葉を交わさないまま、目的地の大型スーパーにたどり着く。駐車場の端に車を停める時に、後ろを振り返りながら、後ろが見えづらいのはなぁ、と眉を寄せながらつぶやく菅波に、こういう時にこういう独り言も珍しい、と百音はリュックをきゅっと抱えたまま、その後ろを向くその横顔を見上げるのだった。

    エンジンも完全に止まって、さて行きますか、と菅波がシートベルトを外すのに、百音もそれに倣いつつ、ふと心を決める。車を降りると、菅波がぐるりとボンネットをまわって百音と手を繋ぎに来た。その手を繋いだところで、百音が決意の顔で菅波を振り仰いだ。

    「あの!」
    「はい」
    百音の言葉を菅波が受けて、見上げるその視線を受け止める。
    「今日、先生、変…じゃないですか?」
    「…そうですか?」
    何を?という顔の菅波に、百音が言葉を重ねる。

    「だって、だって…。いつもはおでこ見えてるのに、今日はみえないし、お洋服だって青くないし、むしろなんかシュッとしてるし。車だってこんな私にも分かるカッコイイ車なんて絶対乗らなさそうなのに、ひょいって運転しちゃうし、なんか、見ててドキドキするけど、やっぱり、いつもの先生がいいなぁって思うし、でも、先生がこれでいいっていうなら、それは先生が一番いいようにしてほしいし、でも、うーん、いつもの先生がいいなぁって思っちゃうし、でも、そう思っちゃう自分がやだなぁ、とか、とか…」

    百音がえっと、とつまりつまり言い募るのを、手を繋いだまま菅波が話を聞きつつ、じわじわと口許が緩むのを必死にこらえ、それに言いたいことを考え考え言っている百音は気づいていない。百音の言葉が少し途切れたところで、菅波は繋いだ手をつんつんと引っ張った。

    「百音さん、ももねさん」
    「…え、あ、はい!」
    「覚えてる?サバの話。ちょうど去年の今頃の春に話をしたでしょ?」
    「サバ…」
    「四月のサバ。今日は、何月何日ですか?」

    菅波のその二つの言葉に、しばし思考した百音の頬にぱっと朱が散る。
    「しがつ、ついたち…」
    ぼそりというそれに、菅波が頷く。

    うわぁ、と繋いでいた手を離して百音が顔を両手で覆って地面にしゃがみ込む。それに合わせて菅波もしゃがみこみ、「百音さん?」と声をかけると、百音が恨めしそうな顔で菅波を見上げ、その顔があまりにかわいらしいので、菅波は申し訳ないやらかわいいやらで、仕掛けておきながら情緒が忙しい。

    立ち上がった菅波が、百音の両手を取って立たせて車の前に誘う。指さす先のナンバープレートを見れば、「わ」のひらがな。レンタカーの印に、え、あ!と百音が声をあげた。
    「そういえば、去年、百音さんにエイプリルフールを仕掛けられたことを思い出して、先月、その話を登米夢想でしたんです。そしたら、みんなが、何かお返しをしないと、って言いだして…」

    スポーツカーレンタルの手配は翔洋さんがしてくれました。あと、この服と髪型は、実は野村さんです。と寝耳に水の菅波の告白に、えぇえ!と百音の声が駐車場に響き渡る。
    「正確には内田さんと野村さんなのですが。車を替えた、とはいえナンバープレートにすぐ気づくかもしれないし、服装も替えろ、と椎の実のみなさんがノリノリで、それでおしゃれな気象キャスターの内田さんと知り合いなんだろう、相談しろ、とけしかけられまして…」
    「え、だって、すーちゃんは何も…」
    「まぁ、共謀者は事前には白状しないですよね」
    「ううう、そりゃそうですね…。え、じゃあ、この服は内田さんの?」

    そんなに身長も違わないので、と頷く菅波に、あぁあ、と百音が改めて両頬に手を当てた。もー!みんなして!と、他愛もない、しかし自分ばっかりドキドキさせられたエイプリルフールに恨めし気な目を菅波に向ければ、菅波がくしゃりと百音の髪を撫でた。

    「僕も、なんだかんだ落ち着かなかったです。こんな車、運転するの初めてだし。昨日、おっかなびっくりで練習しましたよ。MT車に乗るのも久しぶりだし。まぁ、段々と楽しくはなったけど、やっぱりあなたを乗せて走るとなると」
    この服も、よいものなのは分かりますが、どうも…と眉根を寄せて見せる菅波に、それでも着てるじゃないですか、と百音が口をとがらせて見せると、はい、ごめんなさい、と菅波が笑って頭を下げる。

    「もー、ほんと、先生はなんでもないって風だし、でも、いつもと違ってドキドキするし、でもいつもの先生じゃなくて寂しいし、パニックだったんですから!」
    百音の言葉に、菅波がにやにやとする。
    「ドキドキ、してくれたんですね?」
    その菅波の顔に、百音は頬も膨らませてぷいっと横を向く。

    「もういいません!」
    と拗ねる百音に菅波の頬は緩みっぱなしである。
    「あの」
    という菅波の声に百音が顔をあげると、菅波が自分の前髪を指さしている。
    「久しぶりにこの髪型にしてみたのですが、どうも落ち着かなくて。前髪、いつもの感じにしてくれませんか?」

    その言葉に、百音がまだ唇を尖らせながらも、両手を伸ばして、そっと菅波の前髪を左右に分けると、見慣れた額が現れた。その額をそっと人差し指でなぞって、うん、なんかこれで落ち着きます、と百音が笑い、菅波もうん、と笑う。

    「あーもー!すっかり忘れてました!」
    改めて二人で手を繋いでスーパーを目指して駐車場を歩きながら、百音が悔しそうに言うのを、菅波がこれでおあいこです、と笑う。
    「もう、来年はなしにしましょうね!」
    「僕も、もうこりごりです。ナシでお願いします」
    「約束ですよ?」
    「約束します」

    繋いだ手を、小指を繋ぐ指切りげんまんの形にして歩きながら、まぁ、今日の晩ご飯はサバの塩焼きにしますかねぇ、デザートにシュークリーム食べたいです!などなど、やっといつも通りの他愛のない会話にたどり着いて。来年の四月一日は平穏でありますように、と二人は心の底から願うのであった。

    ねじねじ Link Message Mute
    2023/04/01 23:08:28

    アプリルシェルツ

    #sgmn

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