狐の反撃※※ご注意※※
・ユウ呼びあり
・キャラ崩壊
・捏造いっぱい
・ロロ→監要素あり
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
厨房に逃げ込んだフェローはよく掃除された床に足を取られ、盛大に転びそうになったが、流し台に体をぶつけながらも何とか転倒だけは回避してどこか隠れられそうな場所は無いか物色しようとした。ギデルは階段を降りてすぐに反対側へ逃げ、ロロは真っ先にそのままフェローを追って来た。何か対抗策はと探すが、それより早くロロが厨房へ入ってくる。既に全身は燃えていなかったが、殺意の込められた顔はそのままだ。部屋の隅に追い詰められたフェローは、とうとうロロと対峙しようと腹を括った。いくら学歴で劣っていても、自分も魔法士の端くれ。逃げられないなら、立ち向かうのみだ。厨房に入ってきたロロは、いつの間にか帽子も被っており、いつもの厳格な生徒会長様といった出で立ちで杖を手につかつかと近付いてくる。魔法の腕は正直、向こうの方が上。ならば、自分の武器を使うかとフェローは口を開いた。
「まぁまぁ、待てって。坊ちゃん。早まるなよ。さっきのは……ほら、あれだ。若気の至りってやつ。俺にも覚えがあるぜ?」
「黙れ。悪いが、卿にはここで消えて貰う」
全然、悪いって顔じゃねぇんだが。全く取り付く島も無く、今にも杖を振り上げて殴りかかって来そうな鬼気迫る様子だが、ここで諦めたら本格的に試合でなく、人生終了である。とにかく口を動かせ。今までもそうやって生きてきたんだとフェローは尚も話しかける。
「黙れなんて、酷いな。俺達は同じ屋根の下に住む者同士じゃねぇか。ほら、そんな怖い顔してないで、仲良くしようぜ?」
「煩い。誰が貴様のような者と手を取り合うか。特に魔法士などとは……」
「良いのかい? さっきのことをお嬢ちゃんにバラされても」
ぴく、とロロの肩が震え、足が止まった。相手の動きを封じたら、こっちのものだ。一瞬の隙を見逃さずにフェローは更に畳みかける。
「まさか、俺達より先に一緒に住んでいた頼れる先輩が、自分の制服にあんなことをしてたなんて聞いたら、どう思うのかねぇ? 俺ならとてもじゃないが、一緒に住むなんてのぁ、無理だね」
「う……う、るさい……」
効いてる。監督生に拒絶されることでも想像しているのか、明らかにロロから怒りの空気が抜けていく。狼狽し、一歩下がった。その動きを目敏く捉えたフェローはいつものようにステッキをくるくると回し、魔法を掛けた。
「まぁ、落ち着けよ。このことは黙っててやるからさ。お前がある条件を呑んでくれれば、な。大丈夫だって、怖いものなんて何も無いさ」
星が瞬く。目の端に一瞬しか視認できないそれは、相手の意識に入り込む小さな魔法。ほんの少しで良い。ほんの少しでも意識を反らせれば、付け入る隙は絶対に生まれるのだから。フェローの魔法に当てられたロロは一瞬杖を強く握り締めたが、やがてゆっくりと下ろし、未だ眉間に皺が寄った顔で呟いた。
「……ふん。些か気に入らないが、その条件とやらを聞こう。話はそれからだ」
ロロから敵意も害意も無くなったことを察して、フェローはステッキを下ろし、にこやかに近付く。
「おお、流石はノーブルベルの生徒会長殿。話が早くて助かるぜ。条件ってのはな――」
ロロの目の前まで来ると、そのままフェローは彼の胸倉を掴み、ぐるると喉から威嚇音を出して低く言った。
「俺への態度を改めろ」
「くっ……何を」
「おめぇ、出会った時からそうだよな。ずっと俺を……いや、魔法士か。いっつもクソ生意気な目で睨み付けて来やがって。てめぇの過去に何があったかなんて、知らねぇし、知りたくもねぇが、他人に対する分かりやすい態度ってのは社会に出てから苦労するぜ? ロロお坊ちゃん」
「あのお嬢ちゃんの厚意に感謝しろよ」それだけ言ってフェローはぱっと手を放す。次の瞬間にはいつものお調子者のような、へらへらした笑顔がそこにあった。
「とまぁ、お節介な狐の助言です。今後に生かすかどうかはあなた次第」
豹変したフェローの様子に呆気に取られ、次いで何か発しようとしたロロの口は、慌ただしい足音に閉口する。監督生が非常に慌てた様子で入って来た。
「わぁ~! わぁ~! ごめんなさい~! すぐお夕飯の準備しますね。――って、ロロ先輩とフェローさん? 何してるんですか?」
「あ、いや……」
「おお! 飯だ飯だ! ユウちゃん、今日の晩飯は何だい?」
「今日は前に下の町で買った鮭を焼きます」
「あのちょっと良いやつか! そいつぁ楽しみだ。どれ、ギデルも呼んで手伝わせよう。ギデル~!」
そのまま何事も無かったかのようにギデルを呼びに行ったフェローの後ろ姿を見送り、ロロはさり気なくフェローに掴まれた襟元を払い、直す。
「忌々しい魔法士め」
「ん? ロロ先輩、どうしたんですか?」
はっと監督生がいることを思い出したロロは取り繕おうと咳払いをし、「何でもないのだよ」と言って、杖を戻して来るよう伝えると自室へ向かう。その道中、先程言われたことが頭の中をぐるぐると渦巻いていた。
確かに少々失礼だったかもしれない。今までの自分の態度を思い返してみると、あまり良い印象は持たれないものばかりだ。いや、しかし、魔法士に好かれても良い気分ではないのも事実で――。胸の辺りを渦巻くもやもやとした葛藤は暫く居座りそうだとロロは疲れた溜息を零した。