判事と狐の誤解※※ご注意※※
・キャラ崩壊(かっこいいロロもフェローさんもいません)
・モブがちょっとだけ出てる
・捏造しか無い
・フェローさんのお行儀が悪い
それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
デスクに就いて、さて今日の仕事はと確認していると、これまたいつも通りにバイトの女の子がコーヒーを渡してくれる。それを「ああ、ありがとう」と受け取ってまだ少し寝ている脳を覚醒させようと、口を付けた時だった。何か思い出したのか、バイトの子が「あ」と声を上げ、言った。
「そういえば、フェローさんってドギツイ性癖持ちって聞いたんですけど、ほんとですかぁ?」
「ンブゥヘェェエエ工エエ工エエイッ!!?」
口に含んだコーヒーはそのまま射出され、デスクの上に小さな池を作る。あまりにも綺麗に出来上がり、今日の仕事で使う書類が茶色く染められていく様を見つめて、フェローは現実逃避特有の乾いた笑いを零した。
「ファハハハハハハ…………ふぅ。――それ、どこで聴いたんです?」
「ここの学生さん達が噂してましたよ。何だっけ…………あ、そうそう。フランム君っていう子が言ってたから間違いないって」
「……そっ、うですか。いやいや、困ったものですな。子供の悪戯には」
「あ、やっぱり違うんですか?」
「もちろんですとも! 私、フェロー・オネストは至ってノーマル趣味でして……いやはや、朝からこんな話をしてすみません。ちょっと何か拭く物を」
言って貼り付けた笑みのまま給湯室に直行し、誰もいないことを確かめたフェローはドアを閉めて頭を抱えた。
「あんのガキィいいいいい……っ!!」
ドアの向こうに漏れないように小さく呟く。ロロの差し金によって一気に覚醒した脳内に、勝ち誇った笑みを浮かべる彼の姿が浮かぶ。確かに自分への態度を改めろとは言ったが、その仕返しに普通ここまでするかっ!? と驚きを宥めようと狭い給湯室内をうろうろする。こうでもしないと、腹立たしさで頭がおかしくなりそうだ。いや、それより重要なのは、既にこのありもしない噂が学園中に広がっているということだ。ふざけんじゃねぇぞ、職場に居場所無くなるわ!
頭に来過ぎてうろうろする他に貧乏ゆすりも追加されるフェロー。仕事をするには昂り過ぎている精神状態は、喫煙でもしないと沈静化しない。デスクも片付けなければならないし、朝から本当に最悪である。一瞬、喫煙所に駆け込もうかと思ったが、まだ朝礼も始まっていないのに行ったら変な目で見られるし、勤務評価に響く。ここで吸ったら最後、天井にある煙感知器に見つかってしまう。畜生がと思いながら、フェローはポケットから煙草の箱を入れたり出したりして何とか落ち着きを取り戻そうと努力したのだった。
ばんっ、とほぼ蹴り開けてフェローはオンボロ寮へ帰って来た。ずかずかと談話室へ入る。珍しく気が立っている様子のフェローに、ソファに座って読書をしていたロロは訝しげに眉を寄せる。
「帰ったか。どうしたのだね? ドアはもっと静かに閉めないか」
どっかりとロロの向かいへ座ったフェローはポケットから煙草を一本取り出し、オイルの少ないライターで火を点けた後、煙を吐き出してから切り出した。
「てめぇ、ふざけんなよ」
「げほっ……いきなり、何なのだ。煙草を吸うなら窓際でというのがここの決まりだろう」
漂ってきた煙に咳き込み、迷惑そうに懐から愛用のハンカチを取り出して口に当てるロロ。不快そうに歪められた険しい表情で空いた方の手で煙を払う。それに構わず、フェローはぴくぴくと勝手に動く米神を押さえつつ、続ける。
「うるせぇ。よくもやってくれたな、このクソガキ」
「なんと下品な物言いだ……。何をそんなに怒っているのか分からないが、無闇に突っかかって来るのは止めないか。卿は私より年上だろう」
「おお、おお。やっぱり、平気で他人を社会的にぶっ殺すお坊ちゃんは言うことが違うねぇ」
「……? 何を言っている」
どかっと目の前のテーブルにフェローの足が乗せられる。否、乗せたというよりもフェロー自身が半身乗っていた。靴も脱いでいないまま上がった彼に、ロロは益々顔をしかめる。開いたままの本に栞を挟んで閉じ、自分の後ろに避難させる。ロロとしては単に本を汚されたくなくて移した行動だが、フェローは話を聞く体勢を作ったと思い、今朝あったことをつらつらと語り出す。
「恍けてんじゃねぇぞ、お坊ちゃま。魔法士嫌いのお前のことだ。どうせ俺の評判を落としゃ、嫌がらせになるとでも思ったんだろ? 流石は良家のご子息サマだ。やり方が陰湿極まれりってやつだな」
「…………本当に何のことか全く分からないが、おおよその予想はつく。そして、卿は私が犯人だと思ったのだね。それは何故だ? 私には本当に身に覚えが無いのだが」
「ちっ。ああっ! 言ってやるよ! ったく、めんどくせぇな」
非常にイライラした様子のフェローは今朝あったことをかいつまんで説明すると、そこで漸く合点がいった様子のロロは「なるほど」とだけ呟いた。当然、その他人事という態度にフェローの怒りが再発する。
「なぁにが『なるほど』なんだっつの。どうせてめぇが犯人なんだろ? ロロ。お前、陰湿そうだもんな」
「黙れ。証拠も無く、他人を犯人呼ばわりするものではないのだよ。…………いや、確かに卿の人生経験については少し話したが――」
「ほぅらな。やっぱりてめぇじゃねぇか」
「待ち給え。私はただ訊かれたことにしか答えていないのだよ」
「あ? あんだよ、訊かれたって」
ロロは昨日のことを思い出しつつ、真実を述べる。
「昨日、卿の人生経験について質問されてね。それについて私は『フェロー氏は私より遥かに世間というものを知っているし、何かと経験豊富なのではないか』としか答えていないのだよ」
「証人もいる」とロロは監督生に連絡を取る。彼女経由でエースから確かにロロが言っていることが正しいと証言が取れたところで、フェローの頭に今度は『?』がいっぱいになる。
「じゃあ、なんでその回答が今回の噂になってんだよ?」
「――おそらくは……考えたくはないが、私の回答を曲解して理解したつもりになっている輩がそういった噂を流したのではないかと思う。この学園の悪癖だろう。災難だったな」
真実を知ったフェローはテーブルから足を退けて、そのままソファに沈み込む。もちろん、手に持っている煙草の火に気を付けながらだが。拍子抜けし、落ち着きを取り戻したフェローはロロに「煙草を吸うなら、窓際へ行ってくれないか」の一言に「へいへい」と返しつつ、素直に一番近くの窓を開けて煙が外へ流れていく様を眺める。
フェローがソファから離れて窓際へ行ったので、ロロはテーブルに付いた汚れを台布巾で綺麗にしてから本の続きを読み始める。携帯灰皿を取り出したフェローは早々に一本目を吸い終わり、続けて二本目に火を点ける。その様子を視界に収めつつ、ロロは遅れて込み上げてくる笑いを押し殺し切れなかった。
「それにしても……ふっ。卿が…………そのような……んふっ」
また本を閉じて「んふふふふふふ」と口元をハンカチで押さえてフェローに背を向け、前のめりの姿勢で笑いを漏らすロロの背中に、がしがしと自分の頭を掻いたフェローは口から煙草を放して恥ずかしさを誤魔化す為に大声で言った。
「うっせぇぞ、ボンボン! 笑うなっ!」
遂にだんだんっ、と笑いを発散させるために地団駄まで踏み始めたロロに、フェローは改めて舌打ちをした。フェローがロロに掴みかかるまで五秒前。