お口が悪いのは愛情の裏返し 最近、深町くんの僕に対する扱いが酷くなっている気がする。
最初は、僕のことを「先生、先生」と可愛らしく呼んでくれていたのに、最近は「あんた」だし、その後ろに「何言ってんですか」「バカですか」「近いです離れてください」「小学生か」などなど冷たい言葉が並ぶ。
「あーあ、何でだろうなぁ。最近深町くんが冷たい……」
研究室の自分の机で、だらっと上半身を投げ出してそう呟くと、資料を読み込んでいた瑠衣子から笑う気配がする。
「わんこくん、アキラ先生のこと大好きですよ?だけどツンデレだから、恥ずかしくて大好き〜って言えなくてトゲトゲ言葉になっちゃってるんだと思いますよ〜」
「そうなの?でももうちょっと優しくして欲しいなぁ」
「態度では十分愛されてると思いますけどね」
「ほんとに〜?」
そう返した高槻に、瑠衣子はふむと顎に手を当ててニヤリとした。
「わんこくんのツン封じのために、アキラ先生からの大好き攻撃を仕掛けてはどうでしょう?」
「……なるほど。瑠衣子先生、是非詳しくお聞かせ願えませんか?」
*****
そしてその日から、高槻による、尚哉のトゲトゲを丸くするにはこっちが丸くなればいい!作戦が始まった。
「深町くん、いつもありがとう。好きだよ」
「…………は?」
「今日も助かったよ。好きだよ」
「え……」
「深町くん、バイトのことなんだけどね。好きだよ」
「いやいやいや」
「……瑠衣子先輩、最近高槻先生いつも以上におかしくないですか?」
「え?そうかな〜どこが?」
高槻のいない研究室で、ヒソヒソと噂話をするように尚哉は瑠衣子に相談を持ちかける。話の種は、いつからかキャラづけのように語尾に『好きだよ』を付けるようになった高槻についてだ。
「会う度に『好きだ』って言われるし……」
「……ふふ」
「先輩?」
「それはね、――わんこくんにだけだよ」
「……俺だけ」
「嫌だ?」
「……嫌、じゃ……ないです、けど……」
そっぽを向くように視線を逸らし口を尖らす尚哉に、瑠衣子がふふーんと意味ありげに笑った。かと思うと、突然尚哉の背後へ向かって身体を乗り出し叫びだす。
「アキラ先生ー!深町くんから『嫌じゃない』頂きましたー!」
「えっな、なに」
「やったー!瑠衣子くんありがとう!!」
「げ、……先生?!どこにいたんですか?!」
マジシャンの消失マジックから生還した奇跡の人のようにどこかから飛び出してきた高槻に、尚哉は後ずさる。
「ずっといたよ。ちゃんと深町くんの告白、聞こえてたからね」
「こっ……?!いや、俺は」
「僕も深町くんのこと好きだよ」
「えっなんでそうな……」
「それじゃあ、ここは若い二人に任せて、私は席を外しますね。アキラ先生、頑張ってください!」
「ありがとう!瑠衣子くん!」
「いや、見合いか?!」
急に現れたボケしかいないこの空間で、一人律義にツッコミ役を買って出た尚哉だったが。いつの間にか勢いに乗せられ、訳の分からないうちに、なぜか、その日から高槻とお付き合いをすることになったのだった。
尚哉をぎゅうぎゅう抱きしめながら、はてと高槻は考える。自分は尚哉とこうなることを望んでいたのだろうか?しかし、今とても満たされているのは確かで。良く分からないけれど、何だか幸せだなぁと思った高槻だったが。
二人は知らない。瑠衣子が一人「計画通り」と妖しく笑っていたことを。
おしまい