最愛の君たちへその日が近づいていた。
ジャンとコニーはパラディ島に滞在して大使の仕事を任せているのに対し、ぼくとライナーとピーク、そしてアニは大陸側を拠点に大使の仕事をこなす日々だった。そんな毎日がすっかり板についていたぼくたちにも、平等にその日はやってくる。ライナーとピークは既に数日前にパラディ島に渡っていて、ぼくもぎりぎりになってしまったが、ようやく仕事が落ち着いて渡航に至っていた。〝その日〟は明後日に控えていた。
さすがにちょうど二十年目ともなると、ぼくの中でも少し心持ちが違った。今回はアニを含めた家族みんなで渡航することにして、ぼくの仕事に合わせて、彼らも一か月パラディに滞在する予定にしていた。
子どもたちにはぼくの古い友人の墓参りが目的であることは伝えていたけども、それがあの〝エレン・イェーガー〟のものであるとはまだ伝えていない。……ぼくと彼の関係もいずれ伝えていくつもりであり、賢い子たちなのでもしかしたら察しているかもしれないけど、まだ時期ではない気がしている。
「……やっと寝てくれた」
部屋の中を灯していた明かりを弱めながら、ため息を零すようにアニが小さな声で呟いた。
パラディ島に向かう船の中で、ようやく子どもが寝ついてくれたのだ。……もちろん日中に渡航できる便もあったが、その渡航時間の長さを考えてぼくたちは夜行便を選んでいたので、到着は明日の朝になる。
慣れない環境や、これから向かう新し土地に対する高揚などで、先ほどまで子どもたちははしゃいでいて、それでようやく船室が静まり返ったので、アニは肩から荷を下ろすように呟いたのだった。
「いつもと違う場所は、やっぱり興奮しちゃうよね」
ぼくはそう言って、ぼくのベッドで寝ている七歳の長女の髪の毛にそっと触れた。アニ似の薄い金髪に指を通し、残念ながらぼくに似てしまったその可愛らしい鼻のてっぺんを眺める。……それから今度は、アニのベッドで寝ている四歳の長男の、穏やかに立てる寝息とともに深く息を吸う様子を眺めた。
「……なんで、今回はみんなで行こうと思ったの」
二台のシングルベッドが向かい合わせに配置されている船室の中で、向かいのベッドに座っているアニが、また囁くように尋ねた。……ぼくは毎年この時期になるとエレンに会いに行っていたが、確かに家族をパラディ島に連れていくのは実に三年と少しぶりだった。――あのときは、ミカサたちに長男を紹介をするために連れて行ったのだったかなと思い出していた。
「……まあ、理由はいろいろあるけど……」
ぼくもアニがやったように、声を潜めて囁いた。
「今回は二十周忌で節目なこととか……だから、エレンやミカサにも、ぼくの家族を……ぼくが愛してる家族を、見てもらいたいなって」
「……ふぅん」
アニが鬱陶しそうにその髪の毛を耳にかけた。そうしてまるでぼくからわざと視線を外すように、長男の寝顔を眺めた。
「それに、彼らにも、外国で過ごすのはいい経験になると思うし、ね」
子どもたちについてそう語ると、アニも「まあ、そうだね」とすかさず同意を示してくれた。この子たちには、見たいときには好きなだけ世界を見てもらえるよう、広く視野を持ってもらいと、ぼくは心から願っていた。そして今は、それが叶えられる時代になっているのだ。
「……こんな自由な幼少期を得られるのは、少し羨ましいと、思ったりもする」
アニが、ぽつりと呟いた。
長男を眺めるその眼差しはとてもやさしいものなのに、言葉は少し不安定なようにも感じた。
「……それをぼくたちみんなの手で実現したと思ったら、感慨深いなと、ぼくは思うけど」
「……そうだね」
また同意を示してくれて、今度はふ、と笑んで長男の頬をそっと撫でていた。長男はぼくよりの少し濃い目の金髪で、けれどその鼻の独特のラインはアニのもの、そのものだった。――アニを含めた、その情の深い光景を見ていると、この身体の中に愛おしさが溢れてくる。……抱えきれずに少し苦しささえ浮かぶほどの、愛おしさだ。ぼくは改めて長女のほうにも目をやって、この胸の中を占める温かな気持ちをしっかりと意識した。
「……あとは、」
「うん」
「ミカサやジャンに、家族ってこういうものだよって、見せてあげたい」
アニや、子どもたちのことを考えると、漲る活力がある。それはぼくにとって本当に力になるもので、ぼくはこの溢れる情によってもたらされる様々な感情が大好きだった。愛おしさや、穏やかさや、慈しみ、希望、楽しさ、そして少しの憂いと、それ故の活力。
「それは、余計なお世話ってやつじゃないのかい?」
アニにそう指摘されるも、そんなことはわかっている。……けど、自分の愛しているものを愛している人たちに見てもらいたいのは至極当然なことだとも思うし、ぼくの感じているような気持ちを味わってみてもらいたいとも思う。
「決めるのは、ミカサたちだよ。ぼくは、見てみて欲しいだけ……この生活を、とても好きだと思えるから……一つの選択肢として、見てもらえたらなと思う」
緩やかな光の中で、穏やかに寝息を立てている子どもたちを見て、それからアニに視線を移した。
「だって、ミカサもジャンも、人一倍愛情深いとぼくは思うから、きっと得るものがある選択肢になるんじゃないかなって」
「……そう」
また否定はせずに、ただ静かに肯定してくれる。
アニもちらりとぼくの視線を覗き返してくれて、けれどまた急いでその視線を逸らした。まるで少し照れているようなその仕草に、またしてもぼくの中で特別な感情が沸き立って、
「……アニ、好きだよ」
まっすぐに彼女を見ながらそう教えた。何度伝えても伝え足りないような気がする、この深い情を、彼女は今日も「……知ってる」と静かに受け取ってくれた。
ぼくはゆっくりと立ち上がって、アニの隣に腰をかけた。ベッドが少し揺れて、それでもぼくはお構いなしでそっと顔を寄せた。今、キスがしたくてたまらなくなってしまったからだ。
アニは逃げることはせず、ただ小声でぼくに本気でもない牽制をするだけだった。
「子どもたちが起きたら、どうするんだい」
「キスするだけならいいでしょう」
「……まったくあんたは」
手を握ると、そっと握り返してくれて、それから吐息を重ねる。ぼくたちを照らし出す緩く弱い明かりに甘えて、少しの間ぼくの沸き立ってしまった愛おしさと向き合ってくれた。
次の朝、船は無事にパラディ島に到着した。少し大きめの車を手配していたので、ぼくたちは港からシガンシナへその車で移動した。まずはアニと子どもたちを、今後しばらく使わせてもらう一軒家に連れて行き、それからぼくは大使館に顔を出しに向かった。
そこでジャンとコニーと数か月ぶりに顔を合わせて、ライナーやピークとも挨拶を交わした。明日の大事な墓参りの予定を少し話し合って、あとはまたそれぞれ仕事へ戻っていく。明日はみんな、仕事は休みにしてある。
さらに次の日になった。今日こそが、ぼくが今回の旅程で一番大事にしている日だった。朝から子どもたちに今日は話していた大事なお墓参りに行くからということを言い聞かせて、少しずつ家にも慣れてきてはしゃぐようになっていた二人を、アニと一緒に懸命に準備をさせた。ジャンには昼前ごろに向かうと伝えていたのでそこまで焦ってはいなかったが、やはり子どもというのは思い通りにいかないもので、結局準備はぎりぎりになってしまった。
今でもよく覚えている、懐かしい丘を目指して歩いた。ぼくが今や壁の外の大陸に住んでいて、そこで持った家族をここに連れてくるなんて、幼少のぼくは夢にも思っていなかったことだ。とても感慨深い気持ちになりながら、ぼくの手を握って放さない小さな手のひらをしっかりと包み込んだ。
丘の麓に到着すると、そこからでも〝エレンの木〟が目を見張るほど成長していたことに驚いた。確か前回ここに来たのも数か月前なのでそんなに時間は経っていないはずなのだが、それでも植物にしては驚異的なスピードで大きくなっているような気がした。……気のせいだろうか。もしかしてこの木も、『巨大樹の森』と同じ木だったのだろうかと疑うほどに。
ともあれ、その木の根元のところで、エレンの墓標よりも先に、二人の人影が目に留まった。
「お!」
久々に見たミカサも元気そうで、思わず感激の声を漏らしてしまった。それから長女と繋いでいないほうの手を思い切り上げて、
「おーい!」
こんなに大きな声を出すのは久しぶりだと思うほど、大きな声で呼びかけた。よく晴れた空に吸い込まれていくその感覚は、なんとも言えず爽快で、心地のいいものだった。
ぼくの呼びかけに気づいた二人が、特にミカサが、座ったまま身を乗り出して手を振り返してくれる。
「アルミーン!」
声色もその姿と違わず元気そうで、ぼくの中ではまた高揚のような軽い心持ちが跳ねていた。
「……パパのお友だち?」
隣を歩いていた長女が静かに問いかけるので、ぼくはしっかりとその愛らしい顔を見返して「そうだよ」と教えてやった。女の子のほうはぼくの幼馴染だよ、と付け加えて。
それからようやく丘を登りきるころ、ミカサたちも立ち上がってぼくたちを迎えてくれた。どちらともなく両手を広げて、
「ミカサ、久しぶり」
数か月ぶりの挨拶として軽くハグを交わした。
後ろからはアニと長男が何かを話している声が聞こえていて、ぼくから離れたミカサもそれが気になったのか、ぼくの家族を一通り眺めてから、くすりと小さく笑った。
「また一段と賑やかになったみたい」
楽しそうにそう呟く。そうか、前回は確か、まだ長男は好き勝手動き回れるような年齢ではなかったはずなので、
「はは、そうだね。走り回れるのが増えたから」
そう思った理由を憶測して伝えた。
「最後に会ったのは三年くらい前だったから……、」
その時期は長男はどれくらいだっただろうと記憶を遡っていたら、
「下の子が生まれてすぐくらいだったと思う」
ミカサのほうからぼくに教えてくれた。毎日顔を合わせているぼくより、ミカサのほうが印象があったかとそれを聞いてわかった。
ぼくも長男がまだ這いずり回っていたときのことを思い出して、少し面白く思ってしまった。長男はずり這いの時期が長かったのだ。目にも止まらぬ速さで這いずり回っている様子は面白くて、よく家族内で笑ったものだった。
「もうそんなに前か。時間が経つのが早いよ」
ミカサはまた笑みを浮かべて「うん」と返してくれて、それから一目だけぼくが手を繋いでいた長女を見やった。そろそろ挨拶でもさせるタイミングかなと見計らっていると、
「……アルミンは、元気そう」
ミカサからそんな言葉が届いた。
それはぼくもミカサを見つけたときに思ったことで、
「ミカサもね。それを見られると安心するよ」
高揚した心持ちのまま、言葉を止められずにそこまでを言い上げた。
もちろんミカサが元気そうなのは彼女だけの努力ではなくて、ぼくは隣に控えていたジャンに感謝するような気持ちも込めていた。するとそこでちょうど視線を向けたジャンが一歩前に踏み出してきて、「おう、アルミン」と声をかけられた。ぼくとジャンは昨日会っていたので、簡単に「ジャン」と名前を呼んで返した。
すると今度はジャンがぼくの後ろへ視線をやり、「アニも、大変そうだな」と声をかけ、アニのほうからも「まあね」と落ち着いた語調で聞こえた。
「……しかし大きくなったな」
先ほどミカサがやったように、ジャンもぼくの子どもたちを一通り眺めてから言った。
ぼくはこの子たちを見てほしい――いや、もう見せびらかしたい気持ちを強く持っていたので、それを隠しもせずに鼻の下を伸ばして破顔した。
「うん。やんちゃ盛りで、はは、体力のないぼくには追い回すので精一杯だよ」
元気よく走り回っているところを見せてあげたいくらいだった。ぼくが休日どれだけゼエゼエしながらついて回っているから、見てほしい。……ぼくがそんななのにアニは、短めにしているとは言え、仕事を終えて家に帰ってから、ぼくよりも長い時間彼らと接している。子どもたちのために走り回っているアニを思い浮かべたら、また、ああ、好きだなあという情緒が溢れて、
「――アニは、とてもがんばってくれてる」
思わずそんなことまで口にしていた。本当に、彼女への感謝も愛おしさも止まらなかった。
「うん。そう思う」
それを察してくれたようにミカサも少し眩しそうな眼差しでそう応えてくれた。どうやらぼくの気持ちが少しでも伝わったみたいで、安堵のような気の抜け方をした。
それから、ふと思い出して、今ならいいだろうと、長女と繋いでいた手を少し引っ張った。
「ほら、挨拶をして」
長女はおずおずとぼくの前に歩み出て、家で笑い声を上げているこの子からは想像もつかないほど、か細い声で「こんにちは」と呟いた。それを聞いて、今度は長男にそれを促そうとしたら、それより先に「こんにちは!」と半ば叫ぶような声で聞こえた。……うん、少し緊張感が伺えたけども、これは割と普段通りだ。
ジャンがすっと自然な動作で身を屈めて、ぼくの長女に視線を合わせてくれる。それから「あぁ、こんにちは」と丁寧に返事をして、ミカサも「ちゃんと挨拶できて、えらい」そう言って長女の頭を撫でてやっていた。後ろに控えた長男への目配せも忘れずに。
頭を撫でられて少し照れてしまった長女を見て、どこか感慨深い気持ちになる。こんな風にしっかりと周りに挨拶ができるようになっていて、次はいったい何ができるようになるのだろうと、また胸いっぱいに温かさが広がった。
「……じゃあ、子どもたち見ててやるからよ、話すだろ? エレンと」
不意にジャンが声をかけてくれて、その言葉の通りに長女の前に手を差し出してくれた。
ぼくがエレンと挨拶をしている間、子どもを見ててくれるのはありがたい、そう深く考えずに思い、
「うん。じゃあちょっと、お願いしようかな」
と長女の手をジャンに差し出そうとしたとき、ぎゅっといっそう強く手が握られた。断固としてぼくとの手を放すまいという長女の意思が伺えて、
「やだ! ママといるぅ!」
後ろからも一丁前に一人の意見を主張する声が響き上がった。
そこまでして離れたくなかったのか、と少しまた満更でもない気持ちになってしまい、けれどぼくが何かを言う前に先に諦めたのはアニのほうで、
「……もう、しょうがないね」
浅くため息をついて、その手を握ったまま歩き出したようだった。
そこまで離れたくないなら仕方がない、と長女のほうへ視線を戻すと、さきほどのようなか細い声で「私も……」と聞こえた。……長男に便乗した『私も』だったことはすぐにわかったので、嬉しいような、鼻の下を伸ばすことを必死に隠すような、そんなだらしのない気持ちを抱いてしまい、
「あはは、この子はぼくに似て少し引っ込み思案なところがあって」
そのか細い声と、おどおどした仕草を弁解していた。ああ、なんてかわいいのだろうなんて思っているぼくは、父親としてそうとう甘いのかもしれない。
「お前に似て?」
ジャンから訝し気に聞き返されて、そうか、ぼくとジャンは訓練兵時代からの付き合いだったかと思い出し、「ぼくの子どものころの話だよ」と付け加えた。――そう、長女はその鼻のてっぺんだけでなく、その性格も少しぼくに似ているのだ。
「読書も好きなんだ、ねえ」
「……うん」
長女が小さくこくりと頷いて見せた。ほらね、と見せびらかすような気持ちでジャンを見てしまい、ジャンのぼくの子どもたちに向けてくれるやさしい眼差しに気づいた。……ぼくはまた、それだけで嬉しくなる。
「じゃあ、少し行ってこようか。ミカサ、ジャン、ありがとう」
そう伝えて、ぼくは長女の手を放さないように、しっかりと握り直した。ゆっくりと歩き始めると長女もしっかりとついてきて、
「いや、ゆっくりしていけ……できるならだが」
ジャンはぼくの背中に向けてそんな気遣いを寄越してくれた。ぼくは簡単に振り返って笑って見せ、エレンの墓の前で既に何かを話していたアニと長男の横に並んで立った。
ぼくがエレンに家族を紹介して少し経ったあと、予定通りコニーたちがピクニックの準備を済ませて到着した。
コニーが持っていたピクニックシートを木陰の下で広げて、ライナーが持っていたサンドウィッチや飲み物の入ったバスケットをそのシートの真ん中に置く。
そこでみんなで楽しく過ごしている間も、甘えん坊の長男はずっとアニの膝の上に乗っていたし、人見知りの長女もずっとぼくのそばを離れなかった。ただ、時間が経つにつれて場所にも人にも慣れていったようで、昼もだいぶ過ぎたころにはコニーやライナーにせがんで遊んでもらっていた。……ジャンは、だいぶ柔らかくなったとは思うけど、その悪人面のために誘われなかったのかもしれないが、まあ、それは言わないでおいた。
ぼくはきゃっきゃと楽し気な声を上げる子どもたちを見てから、一人ゆっくりと腰を上げた。きっと二人きりで話すなら今しかないと思って、そっとエレンの墓標の近くへ歩み寄る。
「――どうだ、エレン。ぼくの家族、みんなかわくていいだろ?」
静かに、落ち着いた心持ちで話しかけた。きっと君も、そこからぼくたちのことを見守ってくれていることだろう。それを確信していたぼくは、その場で腰を落として、少し心の中で語りかけた。
どうかぼくが掴んだような幸せを、ミカサも見つけられますように。今が幸せだというのなら、それがずっとずっと続きますように。エレンはそこから、しっかりミカサを……そしてジャンも、見守ってあげていてくれ。ぼくはずっとはそばにいられないから、それができる君に、その役目を託すよ。
そんな風に、言葉を並べた。
そうやって、この日は無事にみんなでエレンの墓参りを終えることができた。家に帰ってからは、よほど疲れたのか、四歳の長男なんかは風呂に入っているときには既にうつらうつらとしていた。……今晩はぐっすり寝てくれそうだ。
それから次の日。
ぼくらは全部で一ヶ月くらいここに滞在する予定ではいるものの、ぼくはほとんど毎日仕事がある。アニと子どもたちは一週間の休みののち、アニはこちらの大使館で少し仕事を手伝ってもらい、子どもたちはこちらの学童教室に通わせるつもりだ。……これは子どもばかりを相手しているアニを気遣ってそう段取りをした。アニは思いの外、仕事をしていることが性に合ってあるきらいがあるので、本人にも尋ねてこういう形にした。
ともあれ、墓参りの次の日だ。アニと子どもたちはまだ休みが続いていたので、家や近場の観光地へ出向いて遊んでもらっている。
ぼくは先述した通りに仕事があるので、こちらの大使館に赴いていた。ぼくがこちらに滞在しているときに使わせてもらっている書斎にしばらくこもったあとのことだった。
そろそろ少し休憩でもするか、とコーヒーを思い浮かべていたとき、ぼくの書斎の扉がノックされた。
「……はい?」
その扉の向こうにいる人物に向けて声をかける。するとそこから帰ってきた声はよく見知ったもので、
「……アルミン、ちょっといいか」
「あ、うん。どうしたの?」
それはジャンのものだった。
昨日会ったときは特にそう感じさせなかったのに、何かを決断したような、いや、まだ少し迷っているような……そんな顔つきでぼくの書斎に入ってくる。
静かに扉を閉めて、それから部屋の脇に置いてあった予備の椅子を、ぼくのデスクの向かいに置いてそこに座った。
「……実は……その……」
あまりに深刻そうな顔をしているものだから、いったい何があったんだと勘ぐってしまった。何か仕事上で重大な失敗でもしてしまったのか。それとも、何か深い悩みでもあるのだろうか。
何も言わずに続きを待っていたぼくに向けて、ジャンは意を決したように言葉を続けた。
「ミカサと……籍を、入れることになって」
それを聞いて、ぼくは内心とても驚いた。
……いや、確かに家族はいいものだよと見せたいと思っていたが、それを実行できたのはまだ昨日の話で、ジャンは昨日の今日で、籍を入れる報告をしてくれたのだ。
「……そうなんだ、おめでとう」
なるべくこちらの驚きを悟られないように冷静にその言葉を伝えた。ぼくのところにわざわざ来て、二人きりのところで報告してくれたことを考えると、あんまり騒いで周囲に知れてしまうのも、おそらくジャンの本意ではないとも思ったこともある。
「あぁ、式とかは、挙げないことになった」
それを少し慌てたように付け加える。
ぼくとアニも、結婚したときは大々的な式は特に挙げなかった。仲間内で簡単なパーティをしたくらいだったので……今となってはときどき、ちゃんと式を挙げていてもよかったのにと思うこともある。
だから、ジャンが式を挙げないと言ったときは、少し残念な心待ちになってしまった。――ミカサとジャンには、あの華やかな〝結婚式〟というものを、しっかりと経験してみてほしかった。
「そうなんだ。……それは少し残念だけど……」
だから、そう素直な気持ちを前置きした上で、
「でも、籍を入れることは、すごく嬉しく思う」
それでも祝福の言葉は忘れない。
確かに式は挙げないのだろうけど、これでミカサとジャンは名実ともに〝家族〟になれるのだ。
「よく決断したね」
二人が恋人として付き合いを始めてどれくらい時間が経っていたかを知っていたぼくは、二人の気持ちを推し量ってそう発言していた。
「あぁ、あんまりこだわってたわけじゃねえんだが……」
やはり、あまりこだわってはいなかったらしい。そんな気はしていて……それでも、今、籍を入れることにしたことは、どんな気持ちの変化だったのだろう。
「ミカサが、養子をもらいたいって、言い出して」
ぼくはさらに驚かされた。
まさか、本当に?
「……そう。それは……うん、なるほど。それで」
ぼくが家族を二人に合わせたことが影響したのかはわからない。もしかしたら、もうしばらく前から二人の中で考えていたことなのかもしれない。……それでも、このタイミングで二人が家族を迎えようとしていることに驚きと、嬉しさと、期待とか、そう言ったさまざまな気持ちが込み上げた。
つまり、養子を迎えて二人で育てていくことの前提として、ジャンとミカサは籍を入れることにしたらしかった。
「おう。一応お前には、報告しておこうと、思って」
ジャンが少しだけ照れてそんな風に言う。
ぼくがミカサの幼馴染で、今はジャンたちの仕事の取りまとめをしているから、ぼくには先に報告をしてくれているということなのだろう。ジャンからぼくに対する個人的な信頼もあるのだと思うと、それも少しばかり嬉しい。
ぼくはジャンのために何か言わないとと気を張って、
「……大変なことだと思うけど、ぼくは誇りに思うよ」
しっかりとジャンの目を見てそう伝えた。
それから抑えきれなかった本心の部分が顔を出して、
「……アニにも、伝えていいかな」
とっさに尋ねていた。
早くこの吉報をアニにも伝えたい。きっとアニも、喜んでくれる。
ジャンはまた少し照れ臭そうに頬を掻きながら、
「あぁ、それは問題ない」
ぼくの書斎の中を見回しながらそう言った。
けれどそのあとはしっかりと視線をこちらに戻してくれて、
「コニーたちには、け、結婚の話はしておくが……養子のことは、まだいろいろと決まってから、伝える、つもりだ。何せまだ、昨日の今日だからな。……最終的に、やっぱり難しいかもって、なるかもしれねえし」
「うん」
簡単に相槌を打って、まだ続くらしい話を促した。
ぴ、とジャンの背筋が伸びる。
「養子を迎えるなら、その子の人生を預かることになるから、そこは慎重に、しっかりと見極めたいと思う」
その様相から、本当に真摯に向き合っていることが窺えて、また少し嬉しさのような感情を抱いた。……ぼくは誠実さや優しさの面において、ジャンをこの上なく信用している。だから、
「……そうだね。でも、ジャンなら……君たちなら、きっと、大丈夫だよ」
背中を押せるように、そう一言を選んで応えた。
ジャンも少しくすぐったそうに笑って、
「おう、ありがとうな」
そうぼくに返したあと、簡単に挨拶をして、逃げるようにぼくの書斎をあとにした。
ぼくはジャンが去ったあと、その話を反芻して身体を伸ばした。……なんて素敵な報告を受けてしまったのだろう。……もし、ぼくの〝余計なお世話〟が効いたのなら、少し嬉しいし、鼻が高い。……最終的に選択をするのは二人だし、どうなるかはわからないけど……エレンも見守っていることだ。二人の人柄を考えても、きっと上手くいくように思って、胸の高揚感を抑えられなかった。
それから数日後、ジャンとミカサの入籍を知ったコニーたちが、ミカサの家での祝賀会を企画した。みんなで久しぶりにお酒を飲んで、ぼくと家族はそんなに遅くならない内にと撤退した。……結局その祝賀会が何時くらいまで開催されていたのかはわからないけど、聞いた話によると日は跨いだようだった。……ハメを外し過ぎたコニーはミカサ宅の床で寝ていたらしい。
そうしてさらに二週間くらい経ってからだろうか。ぼくと家族が大陸に戻るまでの期間も半分くらいが過ぎたころ、ジャンから正式に養子を迎える決断をしたのだと話をしてもらった。このタイミングでコニーたちにもそれを報告しているようだった。
聞いた話によると、現在妊婦であるとある女性と直接会い、その女性が産んだ子どもを養子として迎えるよう取り決めをしたらしかった。……つまり、ジャンとミカサは、いきなり赤子を家に迎える決断をしたそうだ。……その決断と覚悟は並大抵ではなかっただろうなと心中を察して、それでもさらに一歩を踏み出したことに心から祝福した。
ぼくやジャンが仕事をしている日中、アニは何度か時間を見つけてはミカサの自宅へ赴いていた。いつも、仕事から帰ってから聞かせてもらっていた話だが、子育てについてや、母親業についての話をミカサとしているらしい。できるアドバイスをしてやりたいと、アニなりに気にかけているようだった。――ぼくはミカサとアニが並んでお茶をしながら子どもの話をしている光景を思い浮かべて、なぜか身体の深くから和むような、とても楽しく誇らしい気持ちになった。幼いころの彼女らは、環境のせいもあったけれど、決して〝仲がいい〟とは言えなかったと思うと、なおさらだ。
*
月日は流れる。ぼくたちが大陸側に戻ってから二ヶ月後くらいだっただろうか。その日は唐突にやってきた。
「……おかえり」
「ただいま」
いつものようにぼくが仕事から帰宅すると、いつものようにアニもぼくを迎えてくれた。ただ、いつもと違って、今日は少し残業が長引いてしまい、
「子どもたちは?」
「もう寝てるよ」
ぼくが帰宅するのが遅くなってしまった日だった。
「……そうだよね」
仕事が立て込んでいるときは珍しいことではなくて、それでもぼくは明日のための活力をもらうため、
「顔、見てくるよ」
「うん」
そっと電気の消された部屋に忍び込む。
廊下から漏れる明かりを頼りに子どもたちのベッドに近づき、その安らかな寝顔を少しの間眺めている。――そう、ぼくはこの寝顔を守るために仕事をしている。……明日も、ふんばらなくては。心にはっきりと思い浮かべてから、ぼくは小声で「おやすみ」と呟いて部屋を出た。
リビングに戻ってからのことだった。ぼくがネクタイを緩めながらダイニングの椅子へ腰を下ろしているときに、
「……ところで、あんた、ジャンから手紙来てるよ」
そう言って、そばのカウンターにもたれかかるように立っていたアニから、一通の手紙を手渡された。
「……え!? あ、ほんとだ!」
――ジャンからの、手紙。
大使館宛でなく、自宅に届いた手紙の内容は、おそらく仕事とは関係のない個人的なことだろう。今、〝個人的なこと〟でジャンから手紙がくるとしてら、内容は限られる。――二人が迎える予定だった、子どもの話だ。
「私も気になるから、早く読んで」
「うん、ちょっと待ってね」
アニもぼくと同じように思っていたらしい。
果たして、無事に赤子の母親は出産できたのか。無事にジャンたちの元に赤子は迎えられたのか。女の子か男の子か、名前はなんとしたのか。開封している間にたくさんのことが頭の中に溢れて、あわあわと慌てて手紙を開いてしまった。
まず目に留まったのは、二枚の写真だった。
ジャンたちは、まだ決して安くはない家庭用のカメラを買っていたのかと知り、なんだ張り切ってるではないかと少しからかいたい気持ちになった。
その二枚の写真を眺める。一枚は、腫れぼったい目をして子どもを抱いて笑っているミカサと、同じく目が真っ赤になってるジャンの写真だった。裏を見ると『赤子がきて初めての写真』と記されていた。二人とも赤子と一緒に大泣きでもしたのかと思ったら、またそんな二人が愛おしくなって頬が緩んでしまった。
そしてもう一枚は、ミカサと赤子以外にコニーやヒストリア、ライナーも一緒に写ってる写真で、その裏には『赤子が来てから三日目。みんなが会いに来てくれたときの写真』と記されていた。ここにぼく自身がいないのが悔やまれたが、次パラディ島にいったときは、引かれるほどの贈り物を抱えて会いに行こうと心に決めた。
それらの写真を机の上に置き、ぼくは二つ折りになって入っていた手紙のほうを広げた。
そこに連ねられた、らんらんと踊るジャンの文字を追っていく。まるでその文字が紙面から飛び出して情景を作っていくようで、ぼくまで目頭が熱くなってしまう。……ああ、そうか、ジャンたちはついに。
手紙を読み終えたぼくは、この胸に溢れていた、窮屈なほどの愛おしさに胸がいっぱいになっていた。
写真と同じように、その手紙もテーブルの上に置いて、ゆっくりと席を立ってアニのほうへ歩み寄る。
「……どうしたの」
ぼくが唐突に彼女を抱きしめたものだから、アニから驚いていることが伝わる声色で尋ねられた。
「……ジャンの手紙読んでいたら、長女(あのこ)が産まれた日のことを思い出しちゃって……、」
ぼくの声は震えていた。浮かんでいた思い出の日に引っ張られて、こんなにも胸がいっぱいなのだ。ああ、本当に、今はぼくを取り巻くすべてが愛おしくてたまらなかった。
「あんたが、めちゃくちゃ泣いてたあの日?」
アニから冷めたような一言が返ってくる。
そうだ。あの日、ぼくはこの溢れてきた気持ちに耐えられずに、声を上げて泣いてしまっていたのだっけ。
「うん。看護師さんにも静かにしてくださいって言われちゃったし、アニにもあとから、うるさかったって散々怒られたの覚えてるよ。はは……」
空笑いを付け加えても、ぼくはアニを抱きしめる手を放さなかった。別にアニからも離れてほしいという意思が見えなかったので、ぼくはそのまま甘えていた。
そっと、アニの手もぼくの背中に回る。それがまた、心地よくて、愛おしくて……さらに熱すぎるほどの感情が沸き立った。
「……うん。産んで、死ぬ思いをしたのは私なのに、何をそんなにわんわん泣いてるんだって、思ったよ」
言葉とは裏腹に、抱き返してくれたその手のように、アニの声は優しかった。
「う、うん。あのときはごめんね」
だから、アニが大して気にしていないことをわかった上で、会話を繋げる意味でそう返事をした。
アニは体勢を変えることもなく、そのままの状態で続けた。
「いや、いいよ。そのあと……私もなんとなくだけどわかったから。あんたが帰ったあと、病院で私も一人で泣いてた」
今さら聞かされた事実に少し驚いたけど、納得する気持ちのほうが強かったので、「……そうだったんだ」と静かに返すことに留めた。
「うん。それで、ジャンはなんて」
アニが声色を変えてぼくに尋ねる。
そういえばアニも気になっていると言っていたことを思い出して、ぼくは要点だけをまとめた。
「ようやく、無事に子どもを迎えられたって」
「……そう、それはよかった」
けど、要点だけで終わるのは勿体ない。そこに書いてあることを、ぜひアニにも読んでほしくて、
「手紙、アニも読んでいいよ」
ぼく宛ではあったけど、内容に問題はないことを伝えた。
「うん。じゃあ読もうかな」
アニは早速と身体を動かそうとしたけど、ぼくはそれでも彼女を放すことができなくて、ぎゅっとまた力強く抱きしめた。
心地がいいのだ。アニがそばにいてくれること。こうやって、ぼくのわがままを許してくれること。どれだけぼくが救われているのか、ちゃんとわかってほしい。伝わってほしい。
「……アルミン?」
「アニ、ぼくのそばにいることを選んでくれて、本当にありがとう」
「……どうしたの急に」
訝しげな言葉は当たり前だろう。普段からアニへの気持ちは口にするようにしているぼくだけど、こんなに溢れた感情に乗せるのはそんなに多くはない。今はただ、この溢れる気持ちのままにアニと触れ合っていたかった。
「……ぼくがつらかったり、思うように上手くいかなくて大変な思いをしたり……まだまだ課題は山積みだと無力感に打ちひしがれても。どんなときでも、君たちが――君が、そばにいてくれるから、ぼくはこの日々を愛せるんだ」
どうしても伝わって欲しくて、ぼくはこの抱えたものを言葉に換えようとした。上手く伝わってるといいなあと心の底から願う。
「だから、アニ、本当にありがとう。大好きだよ」
そこまで言って、抱きしめる腕にまた力を込めた。アニはさわさわとぼくの後頭部を撫でてくれて、それがまた心地がよくていけない。
「……相変わらず大袈裟だね」
そう言うアニだって、相変わらずの照れ隠しの返事をするから、また愛おしさが重なる。
「――ジャンやミカサにとって、この転機が、そんな風に二人を繋ぎ止めてくれるものになるよう、願わずにはいられない」
ぼくは、最愛の友人たちのことを思い浮かべてそう続けた。この苦しいくらいの、泣きたくなるほどの幸福感を、彼らにも味わってほしい。彼らにも、それを経験する権利があって、機会だってあっていいのだ。きっと、それは彼らにとっていいことでしかないから。
「ミカサやジャンや、その子どもの未来が、愛情で溢れていることを、願わずにはいられないよ」
気持ちのままにそう言葉を発して、ああ、アニが好きだとまた気持ちが溢れる。
アニはようやく少し疲れてしまったのか、ぼくに離れるようにと仕草で合図をして、
「……そうだね。私にとってのあんたのような、そんな存在に、二人がなっていけるといいね」
そうして目の前に立ったぼくの瞳へ、しっかりと眼差しを繋げた。
「……アルミン、私こそ、その……ありがとう」
最終的にはまた耐えられなくなったのか視線を逸らしていたけど、ぼくのためにはっきりとそう伝えてくれたことは事実で、ぼくはまた胸を高鳴らせていた。
なんてったって、アニからそんな言葉を聞けることは、
「……あはは、珍しいね」
胸が高鳴ってしまうくらいには稀有なことで、つい嬉しくてからかってしまった。
アニは顔を真っ赤にしながらぼくを甘い瞳で睨みつけて、
「いちいちうるさい」
そう叱った。それでもぼくにとってのアニのかわいさは留まるところを知らなくて、「ごめん」と言いながら、また強く抱きしめていた。
こんな気持ちに、世界中の人がなれたなら、きっと争いごとのない希望に溢れた世界になるだろうなあと思って、それはさすがに綺麗事すぎるだろうかと自問が重なる。
……それでも、そう思ってしまうくらい、ぼくは幸せになって、ぼくを取り巻くすべてを大事にしたいと思えているのだ。
『アルミンへ
相変わらずバタバタと忙しい日々を過ごしているのか?
数日前、ついに我が家に、愛おしくて危うい、新しい命が、やってきてくれた。
産まれたとの報を受け、病院にミカサと初めて会いに行った日。病院でどの赤子がそうなのか教えられたとき、横目で見たミカサは今にも崩れ落ちそうな、泣き出しそうな目をしていたよ。そうして看護師の勧めで赤子を抱かせてもらったとき、ついに決壊したように、ミカサはぼろぼろと泣き始めてしまって。まるでこのまま洪水にでもなるのではと思うほど泣いていて、それがなんだか俺にもわかるような気がして、俺も、泣き止むことができなかった。病院の廊下で、ふわふわとした命を抱き抱えて泣くミカサ。そんなミカサと、新しい命を俺も抱きしめて、看護師も、しばらくそうやって過ごす時間を許してくれた。
無事に産まれて、俺たちの元へ来てくれたことが嬉しくて泣いたのだろうか。理由はきっとそれだけではなくて、うまく言葉にできない、この新しい命への感情が溢れて、止まらなかった。
赤子が退院するまでの間、ミカサは度々病院に赴いて、授乳の仕方やおしめの変え方、抱き方なんかを教わっていたようだ。
そうして赤子が退院する日、俺は仕事で休みをもらって、ミカサと一緒に迎えに行った。そのときは病院でしたように決壊することはなかったが、俺たちは家には寄らず、赤子を乳母車に入れたままエレンに会いに行った。ミカサは赤子を抱いて見せたり、俺たちで決めた名前を発表したり、木陰で少しの間、そうして過ごした。
ミカサはここ最近、口にしないようにしていたであろうことを、久しぶりに言った。「……もしこの瞬間を、エレンと迎えていられたらと、思ってしまう」それから少し、また凪ぐ川面のように泣いていた。俺は赤子にも、ミカサの身体にも障るといけないからと宥めて、三人で家へ帰った。
ミカサはこうも言っていた。「これから、ジャンと二人でこの子を愛して、三人で生きていく。だからエレンも、見守っていてほしい」と。
俺はミカサとこの子を、きちんと、幸せにしたいと……そう思った。そのために、よりいっそう、気を引き締めないとと覚悟をした。
今日も家に帰ればミカサと、ふわふわとした新しい命が俺を待っている。そう思ったらなんだか、不思議な気持ちになる。身体の底から何かが漲るような。……アルミン、お前もこんな感覚を味わってきたのか。
いろいろと相談に乗ってくれてありがとう。アニにもそう伝えて欲しいとミカサが言っていた。
赤子の名前は、今度直接会ったときに教えようと思う。家族全員、身体には気をつけて。また会える日を楽しみにしている。
ジャン』
おしまい
あとがき
いかがだったでしょうか!
ジャンミカちゃんを応援しているアルミンくんのお話でした。
このアルアニちゃんの二人もきっと、拙作の「ぼくたちの罪と罰」とか、そんなような経験を経てここまできているのかと思うと、もう……私は……私は……(;ω;)
まじで登場人物全員幸せになってほしいいいい
(そう考えると、今度はコニーくんの話とか書いたくなってくるから恐ろしい)
ともあれ、ご読了ありがとうございました!