【刀剣】連隊戦出陣前の話【典鬼】 今年もこの季節がやって来た! と本丸内が活気づく中、日焼け止めは塗ったか? と朝から会う男士会う男士全員に言われ、鬼丸はその都度「何年前の話だ」と淡々と返す。
顕現後、初参加であった夏の連隊戦でなんの対策も施さなかった為、日焼けという名の火傷を負い、本丸への強制帰還が言い渡され早々に脱落したのは苦い思い出だ。
腕や足が出ている者はそれなりに居るが、背中や脇がほぼノーガードなのは鬼丸以外に居ない事も、未だに言われ続ける理由なのだろう。
これはもうさっさと終わらせるに限る、と鬼丸は朝方まで居た部屋へと再び足を向ける。
畑の水やりを終えてきた鬼丸とは違い、内番が割り振られていない大典太はまだ寝ているかも知れないが、そろそろ起こしても良い時間だ。
それでも一応遠慮して極力音を立てないよう襖を開き、室内へと足を踏み入れる。
布団の中の大典太は鬼丸が出て行った時とほぼ変わらぬ寝姿だ。
「おい、そろそろ起きろ」
ゆさゆさ、と肩を揺すれば低い呻きと共に僅かに眉が寄る。見た目の印象に反して大典太の寝起きが悪くないことを知っている鬼丸は、それ以上揺さぶることはせず相手の耳に口を寄せた。
「待った所でなにもないぞ」
息を吹き込むように低く囁けば、片目を、ゆうるり、と開けた大典太は、なんだつまらんな、と口角を上げる。
「こういう時は接吻で起こすのが定番なんじゃないのか」
「生憎とそのような定番は知らん」
顔を寄せたまま鬼丸が、ふん、と鼻を鳴らせば、片肘をついて軽く身を起こした大典太から唇を合わせてきた。
その際、ふわり、と鼻腔を擽った石けんの香りに気づき、大典太の目が細くなる。
「朝食の前にこれを塗ってくれ」
大典太の様子に気づいていない鬼丸は持参した日焼け止めを畳に置き、直ぐさまジャージのファスナーを下ろしながら背中を向けた。
「朝風呂か」
「畑に行って少し汗をかいたからな」
きれい好きな鬼丸のことだ。仮に畑当番ではなかったとしても、他者が触れるのに身綺麗にしないのは良くないと、そう思ったのだろう。
目の前にさらされた眩いほどに白いこの背中に、大典太は数時間前まで触れていたのだ。
情事の気配など微塵も残していない健全そのものな鬼丸の態度に、少々悪戯心が頭を擡げる。
日焼け止めを両の掌で捏ねるように伸ばし、首筋に触れるか触れないかの絶妙な塩梅で掌を滑らせた。
途端に、びくん、と跳ねた肩に大典太は唇だけで笑む。
すぅ、と流れるように背を降りる掌に反応してか、僅かに反り返る動きを見せた鬼丸は、ぐぅ、と喉奥で低く呻いてからいきなり立ち上がった。
「どうした」
まだ途中だぞ、となにも気づいていないふりをして怪訝な声を出せば、鬼丸は背を向けたままジャージを拾い上げた。
「そのいやらしい手つきをやめろ」
僅かに語気を荒くし、そう言うや振り返りもせず大股に出て行ってしまったが、大典太はしっかりと目撃していたのだ。
照れ隠しか、はたまた夜のことを思い出したか。
鬼丸の首筋と耳は茹で上がったかのように赤く染まっていたのだった。
2024.07.05