イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    母なる島の贈り物大海原の遥か先、そこには伝説の島がある。母なる島テ・フィティ。彼女は海に次いで生まれた。そして、心に秘めた力で数多の命を生み出した。世界を命で満たした女神。その偉大なる島の伝説は海を越え、島々に生きる人間、果ては魔物にまで伝えられている。

    ある日の夕方、母なる島に舟が近づいていた。帆には赤い染料で渦巻きが描かれている。それはテ・フィティの心の周りの模様とよく似ている。舟が波を掻き分けるように浜辺に到着した。そして舟に乗っていた二人の人間……もとい航海士のモアナ、続いて島々に語り継がれる半神半人マウイがテ・フィティに到着した。
    「ここに来るのも久しぶりね」
    モアナは一回転してテ・フィティを一望する。最後に来たときを思い出す。その極彩色の楽園が夕日に染まり、昼間とは異なる美しさを放っていた。

    「ここなら誰もいない。……人間はお前一人だ」
    海、その次にテ・フィティを一瞥してマウイは言った。
    「たぶん、あなたも入るんじゃない?」
    半分人間の彼に対して、モアナは悪戯っぽく笑った。
    「半分神の身だからナシだ」
    そう言ってマウイはココナッツの木々が生い茂る方へ歩き始める。モアナもそれに続いた。

    「この辺りかな」
    座り心地の良さそうな草原にまで来ると、モアナはマウイに言った。彼は胡座をかき、彼女は正座した。
    「さて、愚痴でも聞かせてもらおう」
    マウイは眉を上げた。彼の提案にモアナはしばらく思案した。今のところ愚痴や不満は思い当たらない。彼女にはそれよりも話したいことがあった。モアナは口を開こうとした。
    「遠慮は要らない。もちろん、お礼も要らないからな。ユアウェルカム」
    大袈裟な身振り手振りでマウイは軽口を叩いた。
    「まだ何も言ってないわ」
    提案してきたはずの彼に妨害され、モアナは苦笑いした。
    「愚痴じゃなくて……この前、結婚式があったの」
    「へえ、時間が経つのは早いな。相手はどんな奴だ?」
    マウイの質問に、モアナは肩をすくめた。
    「あ、島の人同士よ?私じゃなくて」
    「へえ。いまはどんな感じなんだ?」
    珍しくモアナが教える立場になる。千年間の空白があるから気になることだろう。彼女は張り切って説明し始めた。
    「そうね、祝いの踊りをしたり、特別な料理を食べたりしたわ」
    モアナは結婚する二人の衣装や、式までの準備などについてマウイに話した。初めて準備の監督を任されたこと、式の進行で緊張して噛んでしまったことなども交えながら。
    「噛むくらい大したことない。俺が見てきた奴のなかに腹壊しちまったのもいた」
    「ええ、式の司会役の人がそんな感じになってたの。その人のほうが苦労したかも」
    マウイの反応を見てモアナは千年前の結婚式について知りたくなった。
    「ねえ。千年前はどんな感じだった?」
    「お前の言った感じと大差ない」
    モアナは口を尖らせる。
    「……見たほうが早いんじゃないか?」
    マウイはモアナから視線をずらして目配せした。モアナは彼の見ていた方向を振り向いた。

    気がつくとテ・フィティが目を開けてこちらを見ている。モアナは頭を垂れてテ・フィティにお辞儀をする。母なる島はモアナを見つめて微笑みを返した。するとテ・フィティの体から花弁が美しく舞い始める。色鮮やかな花弁たちが瞬く星とともに踊る。女神の作り出す絶景にモアナは圧倒された。
    「わぁ……」
    すると、星の間を踊っていた花弁たちがひらひらと降り始めた。自然に降り始めたわけではない。モアナの方へとゆっくり降りてきていた。

    「?」
    立っていたモアナの周りを花弁や葉が埋め尽くす。そして彼女の全身を包んで飾り立てていく。空中で葉が編み込まれたり、スカートとして仕立てられるさまは幻想的であった。幻想的なのはいいが突然の出来事にモアナは瞬きを続けた。

    「えっと、彼女はなんて言ってる?」
    モアナは植物で飾り立てられて困惑しきっていた。
    「ん?ああ、『楽しい』ってさ」
    マウイはニヤリと笑う。しかし彼の言葉はモアナの望んでいた答えではなかった。
    「い、いや、そうじゃなくて。彼女は何しようとしてるの?」
    モアナが困惑する間も衣装は細かく仕立て上げられる。
    「昔の結婚式で見た衣装でも作ってるんじゃないか?お前の話聞いて思い出したのかもな」
    マウイは呑気そうに頬杖をつく。
    「テ・フィティのセンスはいいぞ。なんてったって命を生み出した張本人ときている」
    女神のセンスをそんな風に褒められるのは半神半人ぐらいだろう。確かに植物などの命を生み出したのはテ・フィティではあるが。人間には上手く返せないコメントだ。モアナは口をつぐむことしかできなかった。

    花の塊がモアナの肘の内側をつつく。彼女は恐る恐る腕をあげた。胸当ての上から植物が巻かれていく。蔓で胸当てが固定される。腰の葉をまとめていた蔓にも花が添えられた。彼女の柔らかい髪が纏められる。燃えるような赤い花で毛先が纏められた。大きな炎のようだ。そして編み込まれた髪の間にいくつかの花を挿し込まれる。夕日のような色の花、淡いピンクの花。挿し込まれた花は小さく可愛らしかった。

    「素敵……」
    モアナは出来上がった衣装をくるりと見回す。摘みたての植物で施された美しい装飾だ。緑と花の色が調和していつまでも見てられそうだ。纏められた髪も素晴らしいものだった。この島でしか見たことのない花がふんだんに使われている。嬉しいが、こんなにしてもらっていいのだろうか。滅多にない貴重な体験を受けてモアナは改めて萎縮しそうになった。

    ふとマウイと目が合う。彼がいたことも忘れて衣装に見惚れてしまった。モアナは誤魔化すように姿勢を正した。
    「どう?」
    きっとからかってくることだろう。モアナは彼が冗談を言うことを想定して、わざと自信満々の表情を取り繕った。しかしマウイの言葉はモアナの予想を裏切った。

    「綺麗だ」
    マウイの言葉に、モアナの大きな目がさらに開いた。長い睫毛に縁取られた目が何度も瞬きする。思いがけない言葉だ。珍しく率直な彼の言葉に、モアナは戸惑いを見せた。遠回しな言葉に慣れていただけに彼女はどう返すべきか悩んだ。真面目に返すか、冗談で返すか。モアナは唇をきつく閉じて顔を俯かせる。なかなかこういうときに限って上手い言葉が思いつかない。沈黙が流れていく。波の音も風の音もしない。彼女が考えあぐねていた矢先、マウイはこう続けた。

    「……テ・フィティのお言葉だ。女神のお墨付きだな。俺でさえなかなか褒められたことないぞ」
    マウイは大袈裟に肩を竦める。モアナは安心したような拍子抜けしたような気持ちになった。冗談か。彼女は気が抜けて口が緩ませる。緊張が解けた反面、血が巡って全身が温かくなった。モアナは照れくさくなって目を泳がせる。泳がせた視線の先にテ・フィティの顔が見える。モアナはテ・フィティにお礼を言おうとした。

    だが、当のテ・フィティは呆れたようにマウイに視線を投げかけていた。まるで悪戯した子供を嗜める母親のようである。マウイは後ろにいるテ・フィティの視線に気づいているのだろうか。モアナは見抜くことができなかった。少なくともさっきの彼の言葉は女神が発した褒め言葉ではなさそうだ。モアナはふたりの様子を見て目を細めた。そして、今度はモアナがテ・フィティに対して目配せした。
    「……花婿の衣装はどんな感じだったのかな?」
    「え?」
    マウイが聞き返した瞬間、彼の後ろから花弁が舞い始めた。
    mith0log Link Message Mute
    2018/06/22 7:32:30

    母なる島の贈り物

    テフィティに昔の花嫁衣装を仕立てられるモアナ ##二次創作 #moana #moaui #モアナと伝説の海 #マウモア

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品