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    心躍らせとある島のファレの中。太陽の照りつける屋根の下、モアナと村人たちが寄り合いを行なっていた。
    「踊りの直後は休憩入れたほうがいい。語り役と兼役なんだし」
    「そうね。休憩なしだと厳しいかもしれないわ」
    話の内容は祭事の進行についてだ。数週間後、モアナのいる島では先祖を祀る祭事が行われる。新たなカヌーが作られ、子供達が加工したココナッツの殻に顔を作る。今年はモアナの旅の物語が大人数で演じることとなった。大人数で、旅で出会った女神や魔物に扮して物語を聞かせられるのは感慨深いものだ。島の活気づいた雰囲気に彼女は安堵した。寄り合いを進めるなか、モアナは登場する者たちの木彫りの人形を確認した。自分やヘイヘイ、半神マウイの三体の人形だ。さすがにマウイの全身のタトゥーは彫られていない。どちらかというとミニ・マウイに近い造形かもしれない。
    「タトゥーの場面もこの人形にしましょうか?」
    人形を動かす村人の提案にモアナは頷く。そして彼女は改めて木彫りの人形を見つめた。
    「それにしても……そっくり。彼と会ったことある?」
    モアナは冗談交じりに人形を作った村人に微笑んだ。
    「モアナの伝え方が上手いんだよ。語りも上手いし……あの子も怖がってたよ。これも見たくないって」
    モアナはその言葉を聞いて苦笑いする。以前、話の途中でこの村人の子供が泣いて外へ走り出したことを思い出す。
    「あー……申し訳ないことしたわ」
    「いや、怖がらせるなんてすごいよ。血筋かもしれないな」
    「ありがとう。そういえば、タトゥーの場面で太陽の人形も要るかも」
    モアナは村人たちと打ち合わせを重ねる。女神や魔物は村人数人で演じる形だ。海はタパ布で再現する。人形の確認、タパ布の長さの確認、動きと語りを合わせたり、楽器のリズムの調整も行なった。予想より大がかりなものになりそうだ。モアナの心に不安と興奮が入り混じる。成功するだろうか。彼女は頭を振った。成功も大切かもしれないが、楽しむことが優先だ。自分が楽しくないと、きっと他の人も楽しみにくくなるだろう。モアナは自分の心に言い聞かせた。

    モアナは寄り合いを終えて、村人たちとともにファレから出た。モアナは浜辺に歩き始めた。他の役者と話し合いをする予定が入っているのだ。
    「モアナ!」
    浜辺にいた子供達がモアナのもとに近づく。子供達は背中に何か隠し持ってソワソワしている。
    「見て!カカモラ!」
    子供達は楽しそうにココナッツの殻で顔を隠してみせる。それはカカモラの鎧を模したものだった。鎧の顔の部分には荒々しい表情が描かれていた。なかには貝殻やカニの甲羅で作ったタマトアの人形を持った子供もいた。仮面を早く作り終えて作ったらしい。モアナは近くにあったオールをつかんだ。小さな海賊たちに対して戦闘態勢を整えるためだ。
    「こわいでしょ?」
    子供達は嬉々として完成品をモアナに見せつけてくる。
    「ふふ。でもね、ここにオールがあるの。私を倒せるかしら?海賊さん」
    モアナはオールをかざして子供達に冗談を言った。彼女は海賊の真似をする子供達とじゃれあう。オールの先がココナッツの殻を優しく撫でた。
    「本物のココナッツを大切にね。襲いかかってくる場合は別だけど」
    モアナは優しく子供達に語りかけた。子供達はそれぞれ頷いたあと他の人に見せに他の場所へ向かった。テ・フィティに扮した子供がおずおずとモアナに話しかけた。花冠をつけて植物でできた長いローブを身に纏っている。
    「わぁ。テ・フィティが小さくなって会いにきたかと思っちゃった」
    「……心も持ってるの」
    子供は首に下げていたものをモアナに見せた。この島で採れる翡翠だ。どうやら近場で拾って、穴を開けて紐を通したらしい。衣装、そして心まで用意する子供の熱意に対し、モアナは息を呑むしかなかった。
    「心、盗まれないようにね」
    嬉しそうに走り去る子供を見送り、モアナは再び村人たちと話し合いを始めた。祭事の翌日は舟の進水式を行う予定だ。舟は完成しているようだ。明日、舟の状態を確認することとなった。話し合いが終わり、劇の練習が始まる。動きを合わせる練習の日々だ。テ・カァの迫力ある動き、海役とヘイヘイ役の動きのタイミングなど課題を徐々に乗り越えていく。テ・カァの衣装のつなぎ目がほつれることもあった。そしてマウイのタトゥーの動きの練習は何回も行われた。テ・フィティの花びらを落とすタイミングも最難関だった。風と海の神に力を借りたいところだ。モアナは前回、会う時間がないと彼に言ってしまったことを後悔した。いや、言わなくても時間がないことには変わりないだろう。彼女は気を取り直して再び練習を始めた。

    祭事当日。先祖霊を祀る踊りが始まった。力強い男性の鼓舞と、女性の優雅な舞いは圧巻だった。モアナは踊りと語りを両方こなすことになっていた。踊りが終わり、モアナは深呼吸した。あれだけ練習を重ねたのだ。大丈夫。彼女は息と気持ちを整えた。

    太鼓の音とともに旅についての語りが始まる。モアナの迫真の語りと太鼓の音で村人たちは息を呑む。タパ布でできた海からテ・フィティが現れる。その瞬間、神々しい姿に村人たちから息が漏れる。マウイが現れると、子供達が声を上げた。エイの形のタパを纏った村人が布の海を泳ぐ。人形の動きや楽器、モアナの迫真の語りが紡がれる。モアナが海に落とされる場面、サメ頭の人形が登場してモアナが驚く場面、ヘイヘイが海にぞんざいに扱われる場面で笑いが起きる。観客側でプアの隣にいた本物のヘイヘイが首を傾げた。タマトアの場面は甲羅代わりのタパを反転させて、表面が削られた貝殻で埋め尽くされたタパに感嘆の声が上がった。変身の練習の場面は年齢問わず興奮した表情だった。テ・カァの場面では泣き出す子供が現れた。太鼓の音楽と役者の演技の賜物だろう。テ・フィティが復活する場面で花びらが舞った瞬間、村人から多くの歓声が上がった。花びらが上手く舞い、モアナは安堵した。木彫りの船団が海を旅する場面で物語が終わる。練習以上に息の合った大がかりな物語となった。

    夜、祭事を終えて多くの村人が余韻に浸っている。その一方でモアナは浜辺に向かって歩いていた。村人の許可をもらい、三体の人形やタパ布の小道具を大きな布に包んで。モアナは大荷物を抱え、浜辺に到着した。砂浜には誰も来ていない。心地よい風で汗が引いていく。彼女は荷物を砂の上に置いた。荷物をそのままにモアナは波打ち際まで近づく。彼女は歩を止めず、海に足首まで浸からせた。そしてその体を優雅に踊らせ始めた。腰が揺らめき、しなやかな腕を滑らかに動かす。水平線の彼方から、巨大なエイが数匹のエイを率いて泳いでくる。巨大なエイの体には光り輝く模様が描かれている。モアナはエイの姿を見て心と体を躍らせた。そして鷹の鳴き声も遠くから聞こえた。
    「……まさか仲良くなるとは思わなかったよね。おばあちゃんも」
    どちらが先に着くだろう。モアナは生前の祖母の舞いを再現するように踊り続けた。
    mith0log Link Message Mute
    2018/06/22 7:33:52

    心躍らせ

    先祖霊の祭事に参加するモアナの話 ##二次創作 #moana #モアナと伝説の海

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