ケチャップ! U公園のホットドッグスタンドのホットドッグは何かの奇跡かと思うくらいにクソまずい。食べる度に後悔するのに通りがかると毎回買ってしまい、一口かじってから「そういえばここのホットドッグはクソまずいんだった」と思い出す。
パンにソーセージとピクルスを挟むだけでなにをどうしたらここまで不愉快な味になるのかわからない。食材が腐っているというわけではないし、調理法も普通に見えるのに。
だというのにそのホットドッグスタンドは潰れず営業し続けていて、でも俺は今の今までそれを不思議だと思わなかった。……世界の真実を知るまでは。
「わあ……」
抑揚のない悲鳴をあげた黒スーツの男は、目の前の光景に顔をひきつらせていた。コードネームは“Mr.S”、この世界の真実を秘匿するための組織“SIDE HUMAN” のエージェントである。
「こいつは食いでがありそうだ」
その隣で肩をすくめた男もまたMr.Sと似たような格好をしており、Mr.Sと同じくエージェントでありそのコードネームは“Mr.P”である。
さて、現在彼らは神秘を秘匿するためのミッション中であったのだが、既に神秘は露呈していた。悲鳴をあげながら逃げ惑う人々と、それを追い回す巨大なソーセージ。
巨大な、ソーセージ。
のたうちながら跳ねるそれは生々しい肉色をしており、粘液のようなもので濡れている。
「男としてはなかなか攻撃しづらいと思わないか?」
「やめてくれ! あれはソーセージ、ソーセージだから」
ぶんぶんと頭を振ったMr.Sは、大きな火炎放射器のようなものを背負うと気合いを入れなおすように自分の頬を叩いた。それを見て、Mr.Pも同じような装置――こちらは少し細身だ――を肩からかける。
「こっちだ、デカブツ!」
言うや否やその装置のトリガーを引くMr.P。ホースの先端から迸ったのは炎、ではなく、赤く粘りけのある液体だった。巨大ソーセージが蛇のように頭をもたげて振り返る。
次の瞬間凄まじい勢いでこちらへ向かって突進してくるそれの目当ては赤い液体――トマトを煮詰めて酢やスパイスその他野菜を加えたもの、つまるところケチャップ――であり、地面ごと抉りながらケチャップを体に擦り付けていた。
「S!」
「オッケー!」
闘牛めいた動きでなんとか突進をかわし、周囲にケチャップを撒き散らしてソーセージを撹乱しているMr.Pは、鋭い声で相方を呼ぶ。それに答えたMr.Sは、よじ登っていた街灯の上から装置を構えて思いきりトリガーを引いた。
迸った炎がソーセージをこんがりと焼き上げるまで、そう時間はかからなかった。
「処理班寄越してくれ、五十人規模で目撃者がいる」
通信機で本部に連絡を入れてから、Mr.Pは隣でぼんやりしているMr.Sの背を思いきり叩いた。
「なにしょぼくれてるんだよ、今日のお前イケてたぜ?」
「そう? え、そうかな、俺イケてた?」
ぱっとMr.Sが表情を明るくし、Mr.Pは悪戯小僧のように笑う。
「イケてたイケてた、後でホットドッグ奢ってやるよ」
「……あんたのそういうところ、俺どうかと思う!」
ぶすくれた顔でそっぽを向いたMr.Sに、Mr.Pは今度こそ声をあげて笑った。