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    告白 勤務時間終了後、自分の上司である男……レナード・フロスト大佐に呼び出されたユーインは、絞首台へ向かうような気持ちでその部屋へと向かっていた。……用件は薄々わかっているのだ。いくら瀕死で意識が朦朧としていたとはいえ、あんなことを言っては追求されるのも仕方がない。

      ※  ※  ※

     ああ、これは駄目だ。俺はここで死ぬ。もう足の感覚がないし、視界が狭まってきた。周囲の喧騒もなんだか一枚布を隔てたように聞こえる。
    「ユーイン! ユーイン、聞こえるか!」
     だがこの声だけは聞き間違えない。手を握られたような感触があり、あのひとのよく通る声が聞こえる。
    「以前、私の命令ならなんでもきくと言ったな、覚えているか?」
     覚えています。貴方が困ったような顔で笑って、その時が来たら頼むとはぐらかしたことも。貴方と交わした言葉は一言一句もらさず全部覚えている。
    「死ぬな。いいな、これは命令だ、死ぬんじゃない……!」
     そんなことを命じてくれるんですか。俺のために、そんな声を出してくれるんですか。嬉しいのに貴方の顔がよく見えない。手を握り返すことも出来ない。どんどん命がこぼれおちていく。
     いやだ。死にたくない。だが、そう、このまま死ぬなら……どうせ死ぬなら、最後に白状してもいいんじゃないか?
    「……ぃ、さ」
     消え入りそうな声で呼ぶと気付いてくれたらしく、ぐっと体が近付く気配がした。
    「どうした? 何が言いたい?」
    「……ぉ、れ、……たを……」
    「うん?」
     一度息を吸って、なんとか声を絞り出す。
    「……あなたを、愛して、います……」
     やっと言えた。安堵した俺の意識は急激に遠ざかっていって、すぐになにもかもが消えてなくなった。

      ※  ※  ※

     その後一命を取り留めたユーインは、己が暴露してしまった想いに青ざめた。親子ほども年の離れた上司──それも同性の!──に愛を告白するなんて、正気の沙汰ではない。それからしばらくの間病院に入院していたユーインの元にレナードが来ることはなく──彼の気質からすれば見舞いに来て然るべきなのに──、きっと軽蔑されてしまったのだとユーインは絶望した。
     そして仕事に復帰したその日、こうして呼び出されたのである。
     扉を叩こうとしたユーインの手は少し震えていた。深呼吸して震えをおさえてからノックすると、中から許可の声が聞こえる。久し振りに聞いた相手の声に思わず気持ちが浮き立ってしまうが、同時にこの後起こるだろうことを想像した心臓の痛みに耐えながらユーインは扉を開いた。
     レナードはどこか緊張した面持ちで待ち受けていた。久し振りだな、傷の具合はどうだ、と相手を気遣う言葉をかけてきながら手遊びをしている。そして一言二言やり取りをしてから、彼はゆっくり言葉を選ぶように話し始めた。
    「……この間、死にかけただろう。あの時のあれは……どういう……」
     ユーインはぎゅっと拳を握ると、なんとか弁解するべく口を開いた。彼は頭の回転も速いし冷静で理性的だ。自分の気持ちさえ殺してしまえば、今まで通り忠義だけを捧げれば、傍にいられる。
     ……だが。
    「あなたを愛しています」
     想いを殺せず、そう告白するユーインの頬に涙が伝うのを、レナードは息を飲んで見詰めた。
    「ごめんなさい、この気持ちだけはどうしても捨てられなかった、あなたを、俺は」
     はらはらと続けざまに涙がこぼれ、翠色の目を縁取る睫毛が震えている。神が愛したであろうその造形は、レナードが今まで見てきた何よりも美しく、けれど痛ましく見えた。
    「……ごめんなさい」
     ──好きになって、ごめんなさい。
     そう絞り出して、ユーインは黙り込んだ。ひっ、と喉が鳴る。しゃくりあげてしまいそうなのを堪えているのだろう。レナードが一歩近付くと、僅かにユーインの体が強張った。
    「ユーイン……」
     迷うようにレナードがユーインの二の腕に触れ、労るように擦ると、彼は堪えきれなくなったのか大きく喉を引きつらせてレナードを見た。涙を一杯にためた目は怯えと悲しみに支配されている。
    「優しくしないで下さい、お願いですから、俺をきちんと殺して……」
     レナードはユーインをしばらく見詰めてから何かを決意したように唇を引き結び、そして、ぐいと相手を抱き寄せた。一瞬硬直したユーインは、すぐに身をよじってレナードを押しのけようとする。
    「やめて下さい、こんなことしなくていいんです、俺、これからもちゃんと仕事はしますから……フォローしなくても大丈夫ですから……」
    「君を愛している」
     レナードがそう言うと、ユーインは今度こそ動かなくなった。何も言わずに──言えずに──黙り込んでいるユーインを抱き締めたまま、レナードは静かな、けれどどこか切実で熱っぽい声で言い募る。
    「君を愛しているんだ、誤魔化しや冗談じゃなく……私も、君を愛している」
    「……たい、さ」
     なんとか喉の奥から漏れたユーインの声は常日頃のそれとはかけ離れたみっともなく震える声で、恐る恐る持ち上げられた手がレナードの背に回される。
    「俺、あなたを好きなままで、いいんですか……?」
    「ああ」
    「大佐……ああ、大佐、好きです、愛してるんです……!」
    「嬉しいよ、ユーイン。私もずっと……ずっと前から、君のことが好きだった」
     ユーインは感極まった様子で縋り付くように相手へ回した腕に力をこめ、先ほどまでとは違う種類の涙を零す。その髪を撫でるレナードの手付きは優しく、そっと肩を掴んでユーインの頭を己の肩から離させて、泣き濡れている目をじっと覗き込んでからもう一度距離を詰める。
     口付けられているのだ、と気付いたユーインは全身が痺れるような心地がした。レナードの親指がそっと下唇を撫でる感触に身震いし、薄く唇を開くとより深く貪られて目眩さえ感じた。夢中でキスに応え、喘ぐように息継ぎをする。レナードはぐっとユーインの腰を抱き、長い時間をかけて口付けを終えた。
    「たいさ……」
     蕩ける瞳でレナードを見るユーインに、レナードは小さく苦笑するとその額にかかる前髪を指先で横に払った。
    「……こういう時は名前で呼んでくれないか」
    「え、あ……レナード、さん……」
     少しはにかみながら相手の名を口にしたユーインは、好きです、と何度目かの告白をして、そしてようやく笑った。
    新矢 晋 Link Message Mute
    2020/06/28 22:12:42

    告白

    #小説 #オリジナル #BL ##TRI活動記録 ##レニユーレニ
    想いが通じ合った二人。

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