お土産 遠征先での自由行動中、装備の補充帰りに市場を通りかかったベラドンナは、見慣れた大きな人影を見てそちらへと向かった。
「ヘルムート、何見てるんだ?」
店先に並べられているものを覗いてみると、そこにあったのは女性が身に着けるような飾り物であった。このあたりは金属細工で有名であり、なるほど、髪飾りひとつとっても精緻な作りで土産物として人気があるだろうことをうかがわせた。
……言葉は悪いが、ヘルムートという男に似合う場所ではない。
「なんだ、馴染みの娼婦にでも土産か?」
「いや……世話になってる奴にな、ひとつ買って帰ろうかと思って」
ふうん、と相槌を打ったベラドンナにヘルムートが不意に問いかける。
「そうだベラドンナ、お前ならどれが好みだ?」
「ええ? 私? そうだなあ……」
ベラドンナは再び商品たちへと視線を落とす。葡萄が実っているようなイヤリング、妖精の羽根を思わせるブローチ、それから少数ではあったが男性用のシンプルなバングルなど……様々な品が並ぶ中、白い指がひとつの髪飾りを指差した。
「あの月桂樹モチーフのやつ、可愛くないか? 私はああいうのが好きだな」
その答えを聞いて、ヘルムートは小さく頷いた。
「ふうん……うん、俺もあれが気に入ってたんだ。じゃああれにしよう」
「そうか、喜んでもらえるといいな」
店主を呼び寄せてその髪飾りを包んでもらうヘルムートの横顔はどこか優しげで、ベラドンナは助けになれた満足感とは別のなにかが胸の奥でごそごそと動くのを感じた。それが何かを探るより先にヘルムートが振り返り、わずかに首を傾げる。
「俺はもう戻るけど、お前どうする?」
「うーん……私ももう戻るかな、用事は終わったし」
「ん、じゃあ行くか」
歩き出したヘルムートに、ベラドンナも軽い足取りで続いた。
◆ ◆ ◆
宿の部屋に戻り、王都へ帰ってから何をするかだとか残してきた後輩たちはどうしているだろうかだとか話していた二人だったが、ふと話題が途切れたタイミングでヘルムートが改めてベラドンナを呼んだ。そして、見覚えのある包みを取り出す。
「ほら、これ」
差し出されたそれを見てきょとんとしたベラドンナは、包みとヘルムートの顔とを見比べて少し戸惑うように眉を下げる。
「? これ、世話になってる奴への土産じゃなかったのか?」
「だから、いつも世話になってるだろ?」
「え、……もらっていいのか?」
「ああ」
少し間を開けてからベラドンナは包みを受け取り、大事そうに撫でてから開く。月桂樹の葉が連続して連なり、その各所に実を模した真珠様の珠があしらわれているデザインの髪飾りだ。金古美の色合いがデザインの華やかさをうまく落ち着けている。
「つけてみるか?」
「えっ、ああ、うん」
ヘルムートがひょいと髪飾りを取り上げ後ろを向くようにジェスチャーすると、ベラドンナは素直に従った。その紫がかった黒髪を一度解き、改めて結い上げるとそっと沿わせるように取り付ける。そして少し位置を調整してから、鏡を取り出して示してみせた。
「どうだ?」
「うん……へへ、きれいだな」
嬉しそうにそっと手を髪に伸ばし、鏡を覗き込んで表情を緩めているベラドンナを見下ろすヘルムートは満足げな笑みを浮かべている。髪飾りに一筋髪がかかっているのに気付いてそっと指で除けると、ベラドンナが少しくすぐったげに、はにかむように笑った。