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    それはとても静謐な 所属は魔導騎士部隊。国外出身者。騎士ディミトリエ・フェニングの養子。得意とするのは光の魔術による身体強化、およびその強化した能力を利用した狙撃行動。入団から二年目の見習いだが戦闘技術に問題はない。座学、精神面にはまだ不安が残る。……騎士団内の資料を信じるならば、その騎士は以上のような人間である。
     アデルベルト・フェニング。
     その若き騎士は、その性質上様々な部隊へ派遣されていた。部隊がスムーズに任務を遂行できるように随伴し、援護を行うのが彼の仕事だった。逃げ出そうとした敵の足を止めたり、味方を狙う剣を先に落としたり、アデルベルトの矢は的確に放たれては的を射落とした。
     ……その日、アデルベルトはとある黒騎士の援護につくことになった。サイモン・リドフォール、アデルベルトより年下ではあるが騎士としては先輩である。今回の任務で初めて顔を合わせた二人は、特にもめることもなくスムーズに打ち合わせをしながら任務へと向かった。
    「サー・リドフォール、合図を決めておきましょう」
     道中アデルベルトがそう切り出すと、サイモンは首肯した。妥当な提案である、彼らは今回組むとはいえおてて繋いで二人で現地に赴くわけではない。アデルベルトはサイモンの位置からは視認出来ない──あるいはしづらい──場所に位置取ることになる可能性が高い。
    「では、こう……」
     すい、とアデルベルトが指で空中に円を描くと、サイモンの手首のまわりを風が渦巻いた。
    「左の手首で二度風が吹いたら、狙撃可能位置に俺がいる合図です」
    「わかった」
    「離脱する場合は右で二度」
    「ああ。……こちらからは?」
    「普通のハンドサインで構いません、俺の方からは『見える』ので」
    「了解」
     彼らの会話は静かで、湖面に似ていた。凪いでいて、底知れない。黒騎士と魔導騎士という畑違いの二人ではあったが、その気質は今のところ対立するような様子はなかった。
     もうすぐ目的地である。恐らく作戦は成功に終わるだろう。


      ※  ※  ※


     ──あの時は確か彼がほとんどすませてしまったんだったか。
     アデルベルトは以前の出来事を思い出していた。あれから何度も彼……サイモンの援護を命じられた。相性が良いと判断されたのか、黒騎士との作戦も増えた。アデルベルトはそれに不満はなかったし実際仕事はやりやすかったが、じくじくと胸の奥でなにかが疼いていた。
     この日もアデルベルトはサイモンの援護についていて、月明かりを避けるように移動していた。
     ヨートゥン砦。今回の目的地はそこである。エレイーネが交戦寸前となっている砦であり、規模こそ大きくないが深い堀に囲まれた堅牢な砦である。現在進軍中の部隊よりいくらか先行しているこの二人は、この砦に対する作戦を命じられていた。
     砦が遠くに確認できるようになった頃合いで、二人は別れた。サイモンは砦へ、アデルベルトは砦全体を見下ろせる場所へ向かう。
    「ご武運を」
    「お互いな」
     短くそれだけやり取りし、振り返らずに移動する彼らの背は、どこか似ていた。
     ……ここからはサイモン・リドフォールの仕事である。
     砦に接近し、身を隠しながら堀へと向かう。そして静かに爪先から堀の水へ沈み──このために今回のサイモンは鎧を着ていない──、頭だけ水上に出すと水面に闇の魔力を溶かし込んだ。薄く広がった魔力は本当の水面の少し上に膜を作り、黒々とした夜の水面のようになる。
     静かに水を蹴り堀を渡ってゆくサイモン。広範囲の目眩ましは長くはもたない。慎重に、だが素早く渡りきってしまわなければならない。……対岸に辿り着いた次の瞬間、闇は周囲に散った。
     濡れた服は脱ぎ、下に着ていた装束──水を通さない素材を間に挟んでいたため少し湿り気を帯びている程度で済んでいる──になる。脱いだ服については足がつかないものを着てきているので、丸めて重石をつけ堀に沈めた。
     無事堀を越えられたとはいえ、ここから先は敵の懐の内である。速やかに目的を達成しなければならない。サイモンは足音どころか呼吸まで調整し身を潜める。武器は最低限の暗器程度しか持ち込んでおらず、見回りの類いは素手で闇に引きずり込み無力化した。
     順調に砦を進んでいたサイモンだったが、中庭を横断する寸前で足を止める。射程外だが視界内という微妙な位置に見張りの兵士がいた。迂回しようにもそちらはそちらで見回りの巡回ルートになっており、サイモンは柱の陰で少し考え込む。
     その時、ひゅ、と左の手首で二度風が渦巻いた。
     サイモンは空に向かって僅かに片手を挙げると、見張りの方を人差し指と中指を揃えて指し示す。少し間を空けた後、飛来した矢が見張りの喉を貫いた。倒れたそれに駆け寄ると引き摺って物陰に隠し、痕跡を消してから先へ進む。
     目的地は近い。そちらの様子を窺ったサイモンは、見張りの数に眉を寄せた。三人。想定より一人多い。だが既に見張りを殺したり無効化したりしてきている以上、侵入は遠からず露呈する。出直すことは出来ない。
     まだ右手首で風が渦巻いてはいない──彼は離脱していない──。サイモンは頭上に遮蔽物がないことを確認してから片手を挙げ、それから目的地目掛けて飛び出した。
     闖入者に気付き笛を鳴らそうとした兵士の腕を矢が貫く。怯んだその間にサイモンは最も手近にいた兵士に飛び掛かり、手元から飛び出した小型の刃で喉を掻き切った。その腕を掴んで盾にしてもう一人の兵士の攻撃を防いだところでもう一度飛来した矢が今度こそ笛を持っている兵士の胸を射る。最後の一人は仲間の死体ごと体当たりされバランスを崩しサイモンとの間合いを広げたところで、頭に矢が、胸にナイフが生えて絶命した。
     それからサイモンは少し周囲の気配を探ったが、静かだ。気付かれた様子はない。小走りに目的のものへと近付く。両手を伸ばし、ぐっと持ち上げる。


     そうして閂は外され、砦の裏口は開け放たれた。
    新矢 晋 Link Message Mute
    2019/07/07 13:13:21

    それはとても静謐な

    #小説 #Twitter企画 ##企画_オルナイ
    とある黒騎士と魔導騎士の任務の話。

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    オルナイ_アデルベルト
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