主催が全部書く誰デザ有山 敬一郎(ありやま けいいちろう) 男 20代後半 メディック
「……これでよし。あとは水分をきっちりとって休んで下さいね」
柔らかく笑う青年は、二十代後半に見える。かなり長めの髪を三つ編みにした穏やかそうな見目の青年で、私は彼についてのとある噂を思い出しながら治療を受けていた。彼が私の腕の傷に触れる度、じんわりとそこが熱くなるような感覚がした。終わった頃には傷はほとんど塞がっており、代わりに喉の渇きを感じた。差し出されたミネラルウォーターのペットボトルを受け取る。
彼はこの組織でメディックをしている。異能は治癒、正確には対象の体力や水分と引き換えに細胞を急激に増殖させる能力である。この能力を彼は自他の傷の治療に使っている。その彼が、以前は前線で戦闘員をしていたというのだ。その戦いたるやおぞましく、彼と戦った相手は見るに堪えない姿となったという。
彼の異能でどうやって敵を倒すんだ、と思ってその噂を聞き流していた私は、あるとき、その噂が真実であることを知った。
戦闘員がほとんど出払っている状況で、支部が過激派異能者の襲撃を受けたのだ。研究員や事務員たちを避難させている最中、異能を起動した状態の襲撃者が追ってきたそのとき、彼が風のように飛び出していった。
彼が伸ばした手が、敵の体に一瞬触れた。その瞬間、触れられた部位がぼこぼこと膨れ上がり、傷を負った後のみみず腫れや胼胝のたぐいをもっと酷くしたような様相になる。突然体が変形したせいでバランスを崩した敵に、彼が馬乗りになった。敵の手足が変形し、ごつごつとした岩のような形になったかと思うと、動かなくなった。……「対象の体力や水分と引き換えに」「細胞を急激に増殖させる」。
彼がゆっくりとこちらを振り返る。ちらりと見えた敵は醜い肉の塊のように見えた。思わず息を飲んだ私を見る彼は、どこか悲しそうな、困ったような顔をしていた。
葛之葉 要(くずのは かなめ) 女 女子高生
過激派の異能者による襲撃があるという情報が入り、事前にそれを潰すべく彼らは動いていた。戦闘員同士の密やかな衝突の後襲撃は阻止され、戦闘の決した廃ビルへ一人の少女と男がやってくる。
少女の方はまだ高校生かそこらに見える。ボブカットの内側に鮮やかなピンクのインナーカラー。セーラー服に、短いスカート。派手な柄のタイツ。片手でスマホを操作しており、もう片方の手は……存在せず、空の袖がゆらゆらと揺れていた。
「……命ちゃんを殺した奴らに関係あるかもしれないってホントなんでしょうね」
「そういう情報ではある」
少女はむすっとした表情で男を見た後、その場を見回す。既に敵戦闘員は無力化されており、一人の青年が気を失って床に転がっている。指で示され、少女はけだるげな足取りでその青年に近付いた。
「さて、じゃあちょっと『借りる』か。後はお願い」
後ろに立っている男にそう告げてから、気を失っている青年の頭を抱く少女。静かに目を閉じると、その場の空気が一瞬止まったような感覚が走った後、ふっと少女の体から力が抜ける。男がその背を支えると、今度は気を失っていた青年が体を起こした。
「うーん、なるほど……」
初めて人間に変身した狐か何かのように自分の手足を眺め、拳を握ったり開いたりしてから立ち上がった青年は少女のような表情をしている。……うつわは青年で、なかみは少女なのである。「狐憑き」、そう呼ばれる異能だ。少女は他者の意識を乗っ取ることが出来る。便利ではあるがその間少女の体はからになる為、何らかの対処が必要ではある。
「アタシの体、大事に扱ってくんないと後で怒るからね」
「わかってるよ」
男に釘を刺してから青年――少女――は伸びをし、作戦開始の合図を待っている。
勅使川 天子(てしかわ あまこ) 女 女子高生
「わ、わ、わー! ちょっと退いてくださーい!」
空から天使が降ってきた。
慌てて身をかわした少年の隣に着地したのは、高校生くらいの少女であった。セーラー服を着たその少女の背からは翼が生えていて、頭上には光輪が輝いていた。きらきらと輝く目をした少女は、少年を見て快活そうに笑った。
「お待たせしました、勅使川天子と申します! あなたの援護をしに来ました!」
……勅使川天子は、「顕現」させる。言説上の存在をその身に投影し、この世界に引き下ろす。彼女のその姿は絵本に出てくる「天使」に似ている。が、その表情や態度はどこにでもいる女子高生のそれである。相手が怪訝そうな顔をしていることに気付いたのか、少女はむっと頬を膨らませてから人差し指を立てた。
「大丈夫ですよ、なにせ『天使』のバフですからね! ではでは早速」
むむむと何やら考え込んだ少女は、ぱちんと手を叩いてからにっこりと笑った。
「『むかしむかしのお話です。』『天と大地もしろしめす』『尊い神様のお話です。』」
歌うように囁いた言葉はある絵本の一節で、少女が幼い頃母親に読み聞かせて貰ったもののそれ。その言葉を聞いた少年の体がぼんやりと輝き、全身に力が満ちてくる。「福音」と呼ばれるそれは、少女の詩によって付与される。
「よし! 頑張りましょうね、これもお仕事お仕事!」
少女は翼を羽ばたかせるとふわりと浮き上がり、行きましょう!と前を指差した。
日差しが逆光にきらめいて、その姿はやはり天使のようだった。
緋田 錠而(ひだ じょうじ) 男 33歳 フリージャーナリスト
「あー……大丈夫かい、お嬢ちゃん」
そこには紫煙の名残がある。
たそがれどき、人気のない路地裏で、一人の男が煙草を携帯灰皿に押し込みながら立っていた。その足元に座り込んで震えている少女を、どこか困ったように見下ろしている。男は三十歳そこそこの年齢に見えるが、老人のような白髪であった。ふわふわとした癖っ毛を無造作に遊ばせており、褐色の肌はどこか日本人離れした雰囲気を感じさせる。肩を跳ねさせ男を見上げた少女は、助けを求めるような表情をしていた。地面に座り込んでいるせいか制服のスカートは汚れており、膝には擦り傷がある。
「何があったか話せる?」
少女は迷うように何度か口を開いたり閉じたりした後、恐る恐る語り始めた。炎を撒き散らす若い男を見たこと、彼が自分に襲いかかってきたこと……。よほど恐ろしかったのか、語りながら何度も少女は口ごもり、そのたび男が優しげな相槌を打った。
そっと、男の手が少女の頭に優しく触れる。少女がぼんやりと男を見上げる。
「その人が、『炎』を出していた?」
「……はい」
「『炎』……『炎』ね……ああ、ちょっとそこを見て、ライターが落ちてる」
「え?」
少女が一瞬男から目を離し、地面に落ちているライターを見てから、また男を見る。不思議そうな顔をしているが、その表情から怯えが大分薄れている。
「そういえば『炎』についてだけど」
「……? 何の話ですか?」
「いや、僕の勘違いかな。気にしないで」
少女は不安げに周囲を見回した後、おずおずと立ち上がった。男も続いて立ち上がる。そこへ路地の奥から女がやってきた。女は男と目配せしあうと、少女へと笑いかける。
「いやー、こんなところで不審者に絡まれるなんて怖かったでしょ? 警察に任せたからもう大丈夫だからね」
少女は一瞬夢見るような眼差しをしたが、すぐに我に返って頷いた。大通りまで送るね、と女が少女を連れて路地を出て行く。それを見送った後、男は地面に落ちているライターを拾い上げて背広のポケットへと放り込んだ。
彼が「抑圧」した
炎はもう燃えない。少女が悪夢にうなされることはないだろう。
伏見 ペトラ(ふしみ ――) 女 20歳
「やあやあハロー、ご機嫌いかがかな?」
片手に何かの菓子箱を持った女がにこにこと笑っている。まだ二十歳かそこらだろう、少女の名残がまだ表情や手足に残っている。それを見た相手の男はどこか痛みに耐えるように目を細め、それから別の方向を見た。
ここは組織の支部の一つ、その廊下にある自動販売機横の休憩所だ。
「……もう三年だぞ」
男が囁くように言うと、女は不思議そうに瞬いた。すらりとした体系と垢抜けたファッションのせいか、その仕草ひとつとってもどこか様になっている。だが男はそれを見ようともせず、飲みかけの缶コーヒーを握ったままだ。
「ペトラがいなくなってもう三年だ……モリス、お前もいい加減に、」
「違う!」
女が声を荒らげた。菓子箱が手から滑り落ちて床に落ち、中身が散らばる。カラフルな、それは、ゼリービーンズだ。それがみるみる変形し、小さなハンマーとなった。色とりどりの小さなハンマー。痛みを与えることのない、小さなハンマー。
「違う、違う、私はペトラだ、モリスじゃない」
女が頭を振る度、白混じりの灰色の髪が揺れる。それを男は見ないようにしている。
「……あ、」
視界の端に散らばるカラフルな色彩……己がハンマーへと変換したゼリービーンズたちを見て我に返ったのか、女はひゅうと息を吸ってからゆっくり己の頭から手を離した。崩れかけていた表情が戻る。飄々とした、穏やかな、何ら動揺などしていない表情。その目はサングラスの向こうで笑った。
「ペトラ」の顔で、笑った。
「私はペトラだよ、間違わないでくれよ?」
正解発表
有山敬一郎氏
@rararaSamhain さん
葛之葉要嬢
@lord_of_unko さん
勅使河天子嬢
@tanorum5 さん
緋田錠而氏
@HAL9000th さん
伏見ペトラ嬢
@TomoyaKihara さん