そう呼んで良いのは「……え、ええー、どゆコトー……?」
ケイトは困惑した。
たまたま足を運んだオンボロ寮の門前で監督生があのマレウスと親しげに会話をしているのである。
大半の生徒から畏怖される一方、いざ話してみると案外絡みやすかったりするマレウスと誰が相手でも人当たりの良さと図太さを発揮して最終的には友好的と呼べる関係を築く監督生。
何かきっかけがあれば仲良くなってもおかしくはなさそうな組み合わせではあるのだが、そのきっかけが全く思い付かない。
「──おお、誰かと思えばダイヤモンドではないか」
「えっケイト先輩?」
「や、やっほー、マレウスくんにユウちゃん」
平静を装いつつケイトは二人の傍へと歩み寄る。
「すっごくレアな組み合わせだけどどうしたの?」
「レア……なんですか?ツノ太郎とはちょくちょく話しますけど……」
監督生の思わぬ発言にケイトは目を丸くする。
「ちょっと待ってユウちゃん、今マレウスくんのことツノ太郎って呼んだ?」
「……呼びましたよ?」
「何をそんなに驚いている」
「いや驚くよ!てかマレウスくんそういうのオッケーなの!?」
「好きに呼べと言ったのは僕だからな」
「へ、へー……」
当惑を隠せない様子のケイトに対し、マレウスはふと気になったことを訊ねる。
「羨ましいのか?」
「……は?」
「人の子よ、ダイヤモンドもお前にあだ名で呼ばれたいらしいぞ」
「いやいやちょっと待って!何でそうなるの!?」
「違うのか?」
「ちがっ──」
咄嗟に言いかけた否定の言葉を詰まらせ、ケイトは監督生に視線を向ける。
「えっと……けー、くん?」
「っ、」
「おやこれは……」
「何か物凄い顔してますけど大丈夫ですかケイト先輩!?」
「ゴメン、色々大丈夫じゃない」
手で顔を覆いながらケイトはその場にしゃがみ込んだ。
──ということがあった数日後。
「ねぇユウちゃん、けーくんって呼んで?」
「えっ、嫌だったんじゃないんですか!?」
「その確認も兼ねて、だよ」
いまいち納得がいかない顔をしつつも監督生はケイトの要望に答える。
「……けーくん」
「んー…………アリ」
「じゃあ今後はずっとこの呼び方ですか?」
「それはダメー」
「えっ、じゃあいつ呼べば──」
「今みたいに二人っきりの時だけ、かなー」
意図を理解しきれない様子の監督生に対し、ケイトはにっこりと笑った。