迫る不穏の影「えーんユウちゃんグリちゃん聞いてよー、けーくんオーディションに落選しちゃったー」
「その報告をするためにわざわざオンボロ寮まで来るなんて、オマエどんだけ暇なんだゾ」
「いやこれ多分サボり……」
「ふたりとも辛辣でけーくん悲しい~」
あからさまな嘘泣きをするケイトに監督生とグリムはほぼ同時に肩を竦める。
「そういえばユウちゃんは受けなかったんだね、オーディション」
「色々事情がありまして……」
「臨時収入をゲット出来るかもしれないチャンスだったのに?」
「そのチャンスはオレ様が掴む筈だったのに……チクショー!何でエースとデュースは良くてオレ様はダメなんだゾー!」
「はいどーどー、貰う予定の分け前で高級ツナ缶やら何やら色々買おうね」
喚くグリムを雑にあやし、監督生は溜め息を吐く。
「……ケイト先輩、ちょっと相談……というか話を聞いてもらえますか?」
「どうしたのー改まって。遠慮せずに言ってごらん?」
「自分の考え過ぎ、だと思いたいんですけど……」
そう前置きし、監督生は表情を険しくする。
「近い内にまた誰かがオーバーブロットするかもしれません」
「──どうして、そう思うの?」
「グレート・セブンの夢を見たからです」
「えっ何それどういうこと?」
「理由は分かんねーけどこいつが夢を見る時期と誰かがオーバーブロットする時期は重なってるらしいんだゾ」
「現にハートの女王の夢を見た時はリドル先輩が、百獣の王の夢を見た時はレオナ先輩が、海の魔女の夢を見た時はアズール先輩が、砂漠の魔術師の夢を見た時はジャミル先輩がオーバーブロットしました」
「そこまでいくと単なる偶然だとは思えないね。ちなみに今回は誰の夢を見たの?」
「……美しき、女王の夢を」
監督生が口にした名にケイトは目を見開く。
「ってことは次にオーバーブロットするのは……ヴィルくん?」
「その可能性は高いと思います」
「寮長以外でオーバーブロットしたのは今のところジャミルだけなんだゾ」
「ルークくんがオーバーブロットする可能性もあるけどヴィルくんほどは高くない、か……この話、他の人にもした?」
ケイトの問いに監督生は首を横に振る。
「軽率に話して良い内容じゃない気がしたのでまずはケイト先輩の意見を聞こうかと……」
「その判断は正解だよ。無闇に言いふらすとユウちゃんがここ最近立て続けに起きてるオーバーブロットの元凶だと疑われかねないからね」
「ふなっ!?それは言いがかりなんだゾ!」
「だからこの話をするのは信頼できる相手だけにしてね。例えばエーデュースちゃんとか」
「分かりました」
「リドルくんにはオレから話しておくよ。万が一の事態に備えておけるようにね」
「学園長には……話すだけムダな気がするんだゾ」
グリムの意見に監督生がほんの一瞬苦い顔をしたことにケイトは目敏く気づき、訊ねる。
「どうしたのユウちゃん、何か不安なことでもあるの?」
「……これも自分の考え過ぎだとは思うんですけど、学園長は自分とグリムをオーバーブロットの現場に立ち会わせたいんじゃないかなって……」
「どういうことなんだゾ?」
「オンボロ寮での合宿について学園長はあれこれ言ってたけど、どれも嘘臭いというか、建前なのがバレバレというか……」
「んー……学園長の本命がオーバーブロットするかもしれないヴィルくんたちの近くにユウちゃんとグリちゃんをいさせることだとして、そうまでする理由って何なんだろうね?」
「理由……オーバーブロットした人と戦わせるため……は、無いかなぁ……自分は完全に戦力外だし……」
「いくら将来大魔法士になる予定のグリム様でも、オーバーブロットした奴の相手はキツいんだゾ」
「うん、少なくともその線は完全にナシだね。最悪の場合ふたりが死んじゃうし」
「学園長の性格的にそれは嫌がりそうなんですよね、学園の評判が下がるとかって理由で」
「大袈裟に言ってるところが目に浮かぶんだゾ」
「ほーんと、そういうとこがアレだよねー」
学園長への愚痴に一区切りつけ、ケイトは監督生を抱き寄せる。
「わっ」
「──話してくれてありがとね」
「へ?」
「何かあったらすぐ連絡して。なるべく早く駆けつけるからさ」
「──はい、ありがとうございます」
意図を察して表情を綻ばせた監督生の頭を撫でながらケイトは目を細めた。