Who are you?「みーつけた」
頭上から響いた声に監督生はぽかんとする。
「何してるのー?」
「っ、」
膝の上で爆睡していたグリムを抱え、監督生は後退る。
「あれー?どうして逃げ──」
「──誰ですか、あなたは」
明確な拒絶の意思にソレは不気味な笑みを浮かべる。
「どちらでもない子」
「あわいの子」
「おいで」
「おいで」
「こっちにおいで」
一つの口から響く複数の声に監督生は冷や汗をかく。
「……グリム、起きて」
「ふなぁ~、まだ食い足りないんだゾ~」
「起きて!」
「んん~うるさいゾ……ってギャー!」
監督生に叩き起こされたグリムは眼前の光景に絶叫する。
「おいユウ!何だゾあれ!」
「何かヤバそうってこと以外は分からない、かな……」
「おいで」
ソレが一歩前に踏み出す度に監督生は一歩後退る。
「こうなったらオレ様自慢の炎で──」
「まぁ待て」
「ギャー!」
突然目の前に上下逆さまの状態で現れたリリアにグリムは再び絶叫する。
「あれはお主たちの手に負えるものではない」
「っ、」
地面に足をつけ、監督生とグリムを庇うように立つリリアに怯えた様子をソレは見せる。
「──疾く去れ。我らが王の怒りを買いたくなければな」
「っ!」
リリアの圧に屈したソレは一瞬でその姿を消した。
「……うむ、もう大丈夫じゃな」
リリアの一言で緊張の糸が切れた監督生はその場に座り込む。
「ユウちゃん!」
「ユウ!」
「──っ、ケイト先輩にカリム先輩……」
「大丈夫?怪我とかしてない?」
「は、はい……リリア先輩のお陰で……」
「おいこらー!ユウばっかりじゃなくてオレ様のことも心配しろー!」
「悪い悪い!グリムも無事で何よりだ!」
賑やかな空気に安堵しつつ監督生はリリアに訊ねる。
「あの、リリア先輩。さっきのは……」
「幼子を拐うタチの悪い妖精じゃよ。これに懲りて二度と出てこなくなれば良いのじゃが……」
肩を竦め、リリアは監督生の方に向き直る。
「しかしよくあれが偽物だと見抜けたのう、お主」
「えっ?」
「あれは獲物が心を許した相手──親兄弟や友人、愛するものに化けて誑かす。人間の幼子には見分けなどつかないと思っていたのじゃが……」
「あー……それはたまたまですよ」
「ほう?」
監督生の返答にリリアは興味深そうに目を細める。
「何となく、って言った方が良いんですかね」
「……ほほーう」
笑みを深くしながらリリアは視線を監督生からケイトに移す。
「ん?どったのリリアちゃん」
「良かったのうケイト、お主相当愛されておるぞ」
「へっ!?いきなり何の話!?」
「くふふ、さてのう?」
「いやはぐらかさないでよ!」
「よく分かんないけど楽しそうだな!」
「そう……ですかね?」
じゃれあってるようにも見えるケイトとリリアの姿を遠目に眺めながら監督生は首を傾げた。
「──探しましたよ」
声の主を見た瞬間、ケイトは真顔になる。
「どうしたんですか?そんな──」
「──誰」
「っ、」
「今すぐその姿を止めるか、どっか行ってくんない?さもないと──」
マジカルペンを構えるよりも先に突然発生した緑の炎が声の主を包んだことにケイトは怯む。
「……む、逃げられたか。まぁ良い、次に現れた時は──」
「ちょっとマレウスくーん!助けてくれたのは嬉しいけどー、出来ればもうちょいマイルドにやってほしかったかなー!」
「これでもかなり加減したのだがな」
肩を竦めるマレウスに呆れつつもケイトは本命の質問を投げ掛ける。
「ところでさっきのあれ、何?」
「人を食らう妖精の一種だ。心を読み、獲物が心を許した相手に化けて近づくのだが……何故見抜けた?」
「それはねー……愛の力、かなー?」
「ほう、愛の力か」
「いやいやマレウスくん、そこ真に受けるところじゃないから」