1月26日【1月26日】
迷宮が出現した。
迷宮とは言うものの、見た目は十階建てのビルのようである。謎解きや罠がそこかしこに仕掛けられており、各階にはボスが配置されている。
迷宮に入るまでにも多くの敵を倒す必要があった。人の一部が溶けて混じりあったような外見の敵をバールで殴りつけていると、ビスケットの欠けらのようなものが落ちた。三十個ほど集めたとき、迷宮の入り口が開いた。
迷宮の入り口をくぐると、エレベーターの前に昔捨てたぬいぐるみ達が並べられていた。一緒に来ていた仲間とぬいぐるみを直してやると、エレベーターの電源が入った。
そこからは何人かずつに別れて進むことにした。十階分、全て攻略するには時間がかかりすぎると踏んだからだ。
私は七階の探索を担当することになった。
綺麗に整頓された机が立ち並んでいた。教室のようにも思えた。しかし、もし敵が来て逃げるとなれば、この机は障害物になるだろう。念の為に、全員で机を端に寄せた。
結果的には、その選択は大正解だったと言える。一番奥まで進んだ時に曲がり角の先から敵が現れた。
「逃げろ!」
私が叫ぶと、仲間達がエレベーターの方へと走り始めた。
時間を稼がなければ。試しに敵に話しかけた。少し灰色に近い黒い長髪を、後ろで綺麗にアレンジしている大柄な男。乾いた唇と隈の濃い虚ろな目が印象的だった。例えるならば、売れないバンドマンのようだった。
敵対するよりは穏便に済ませた方がいいだろう。外見を褒めちぎれば、男は照れたように笑った。
男が言うことには、この人型は本体ではないらしい。本当は包帯の巻かれた、黒い球体なのだと言う。
そうやって話してる内に、無事に絆されてくれたようだ。ぶっきらぼうな口ぶりではあったが、色んな階層にある罠とか鍵の在り処を教えてくれた。
他の仲間達は、皆一足先に迷宮を踏破していたらしい。君が最後だと言って、男は私を最上階まで連れて行った。
大きな画面いっぱいにエンドロールが流れていた。
ドット調のキャラクターたちがそれぞれの台の上に立っていた。各階のボス達だった。感慨深いような気持ちで眺めていると、左端のひとつの台がぽっかりと空いていることに気がついた。
男の居るはずだった場所を奪ってしまったのか。
男を見ると、優しい目で困ったように笑われた。やはり、世界から弾かれてしまったらしい。
行き場を失ってしまった男は、私と一緒に帰ることになった。
「ごめん」
「別にいい。気にするなよ」
罪悪感は拭えないままだった。