サメ太朗のピクニック見守り記(そのいち)僕がおでかけの紙袋にインしてもらってスタンバイして、しおみゆのリビングの掛け時計は午前九時過ぎ。おめかししてすっかり準備万端なモネちゃんがお出かけ前にお茶飲んでたら、パジャマのすーちゃんが降りてきた。すーちゃん、おっはよー!
すーちゃんが、モネちゃんのおめかし見て、うん、似合ってる、って笑う。ねー!すてきなワンピース、似合ってるよね!さすが、オシャレ番長のすーちゃんのお見立てだよ~。
「菅波先生、こんなかわいいモネのワンピース姿見たらすってんころりんしちゃうんじゃない?」
牛乳をコップに注ぎながらすーちゃんが言う。ねー、ほんとだよ、スガナミはすぐモネちゃんのことですってんころりんするんだよー。
「そんなことないよ。でも、すーちゃんがこれがいい、ってオススメしてくれてよかった」
「うん」
もー、すーちゃんも、モネちゃんが恋するオトメなもんだから、それがうれしいって顔!分かります、わかりますとも!
「どうせ、菅波先生のことだからチェックシャツなんだろうし、チェックのワンピースで勝手にリンクコーデ!」
「先生、たまにストライプだよ」
「そんな、沖縄にも雪が降ったことがある、みたいなレアな話されても」
そー!スガナミはねー、チェック!いっっつもチェック!
そんで、モネちゃんに、チェックの違いを力説する。スコットランド人か。
「今日はデートどこに行くの?」
「なんか、京葉線?っていうので、海の方行ってみませんか、って」
「なになに、先生がサメサメランド行こうって?えー、そんなキャラじゃなさそうなのに、モネのためなら!って感じ?」
なにそれ!サメサメランド?!めちゃくちゃ楽しそう!心の胸ビレぱったぱたなんですけど!
あ、モネちゃんがぶんぶん首振ってる。ちぇーっ。ちがうんだー。
「サメサメランドは今の時期混むから、その手前の公園に、って」
「えー、サメサメランドにそもそも空いてる時期ないから」
「そう…かな」
「まぁ、そりゃ菅波先生は遠距離恋愛のカノジョとは、ゆっくり公園デートしたい、ってもんよねぇ」
うんうん、ってすーちゃんが頷いて、モネちゃんが、もーって笑ってる。
いいお友達だよねぇ~。
「あ、そろそろ出ようかな」
って時計を見たモネちゃんが立ち上がる。
「待ち合わせ、東京駅?」
「うん。12時に、郵便ポスト」
すーちゃんがモネちゃんを見て、掛け時計を見て、モネちゃんを見る。
分かる、分かるよ、すーちゃん。
「…まぁ、菅波先生との待ち合わせだもんね」
あぁあ、このすーちゃんのスガナミ理解度&モネちゃん理解度!
そうなんすよ、スガナミはトンチキ二時間前行動で、モネちゃんはすっかりそのトンチキに適応しちゃってるんですよ。お似合い!
モネちゃんがバッグとぼくの紙袋を持って、行ってきまーすってお出かけ!
すーちゃんが、いってらっしゃーい、って手を振ってくれて、僕も心の胸ビレを行ってきまーす!ってぶんぶん振ったよ!
バスに乗ったモネちゃんは、僕をお膝に乗せてうっきうき。そうだよねー、一か月半ぶりのスガナミだもんねー。いつもたくさん電話はしてる二人だけど、やっぱり会えるって言うのはとくべつだよね!
ね、先生びっくりするかな、ってお口をむにむにしてるモネちゃんがかわいい。
くそう、こんなにモネちゃんをかわいくして、スガナミめ!
でも、スガナミは、このスガナミにもうすぐ会える~、ってワクワクして嬉しそうでほっぺを染めたかわいいモネちゃんは、どうしたって見れないんだよね、それは、見守りサメの僕のとっけん、ってわけ。
トーホク新幹線の改札前に着いても、やっぱりモネちゃんはワクワクしててとってもかわいい。楽しそうに左右にゆれるから、紙袋の中の僕も、ゆらーゆらーってして、ブランコみたいで気持ちいい。そんで、スガナミの姿が見えたら、小さくぴょん、って。もー、ほんとにモネちゃんはかわいい。
そんで、スガナミはやっぱりすってんころりんしかける。いい加減、モネちゃんの可愛さに慣れろ?そんで、モネちゃんがスガナミのトンチキに染まっちゃってることを反省しろ?
「あれ、え?永浦さん?約束は、その、12時じゃなかったでしたっけ」
いや、今10時にスガナミ着いてるしな?東京駅に。
「先生のことだから、早く来るだろうなと思って」
そーだそーだ、お見通しだ!
「…来なかったらどうするつもりだったんですか、こんな人ごみのところで」
って、スガナミがあきれ顔だけど、モネちゃんが僕で自分の顔を隠しながらテヘって笑ったら、そりゃあもうスガナミはタチウチできないってもんよ。弁慶に薙刀、虎に翼、モネちゃんにサメ(スガナミ限定)。
スガナミの荷物をコインロッカーってのに預けて、スガナミがモネちゃんの手を取って歩き始めた。なんか、ちょっと歩きますって言ってたけど、ちょっとってレベルじゃない距離を歩く。めっちゃ歩く。駅出ちゃわない?だいじょぶ?スガナミもホラ、トメ行って久しいから、東京の事忘れちゃったみたいな?ほらー、モネちゃん不安になり始めてるし。スガナミも首をひねり始めてる。ハラハラしてたら、やっと電車のホームに着いた。さっき地下道だったのに、ダルマザメかな?ってぐらいもっと地下に降りてくもんだから、びっくりするよねー。
電車に乗ったモネちゃんとスガナミが座って、僕はもちろんモネちゃんのお膝の上。モネちゃんが東京はおそろしいですねぇ、なんていうのに、スガナミが表情筋ゆるっゆるになりながら、まったくです、何てオモオモしく同意してて、でもなんせゆるっゆるなもんだからばくはつするしかない。
いいからいっぺんばくはつしとけ、って思ってるうちに、電車が地上に出た。あー!うみー!
やっぱりサメぬいとしては、海をみると、心の胸ビレがパタパタするよね!モネちゃんも海だー、って見てて、あぁ、かわいい。そんでスガナミも、そんなモネちゃんを、あぁ、かわいいなってみてる。うん、一か月半ぶりのきらきらのモネちゃん、そりゃめっちゃかわいいしめっちゃ見るよね。まぁ、僕は毎日見てるけど!フカァ。
意外とすぐに電車を降りた二人が階段を降りようとして、僕気づいちゃった!サメ!サメだよ、モネちゃん!わー!心の胸ビレがぱったぱたしちゃう!スガナミがアカシュモクザメですね、って、さすがちゃんとシュモクザメさんの種類を見分けてる。さすが、僕とサメ棚一同が名誉サメに認定したスガナミなだけある。え、水族のとこ行くのかな、行くのかな?!わーい!
「え、これ、押していいんですか?」
って、すごいモネちゃんのテンションが上がってるー!え、なになに?普段は押しちゃダメなボタン?
そんなん絶対押したいやつー!
そりゃモネちゃんのお顔もわくわくしゃーくってなもんだよー。
そんでスガナミもソワソワしてるー。まぁ、押したいよなー。
いざという時はこうやって押してくださいね、って言われて、二人してシンミョーに頷いてるのが面白い。なー、大事なー。二人でおんなじことやって、おんなじドキドキを分けっこしてるのがうれしい、って二人の空気がうれしい。こんなお出かけ、最高じゃない?あ、涙出そう。涙腺ないけど。
駅の階段降りて、ひろびろした公園につながってそーなとこにでた。きもちいーね!これから行くとこどんなとこカナーっておもってたら、何かいる!青色のなんかがみょーんってしてて、オレンジ色のおおきいなんか!えー、まわりにお巡りさんもいるー、なんだなんだ。あ、こっちに手を振ってお誘いしてる!
「先生、私、ピーポ君、初めて見ました!」
って、めっちゃモネちゃんのテンション上がってる!へー、ピーポ君っていうんだ!こんちは!僕はサメ太朗です!
ん?スガナミはそんなテンション上がってない。え、スガナミ的には珍しくない、みたいな?
わー、ってモネちゃんが、ピーポ君とハイタッチしてニコニコしてる。そんでハイタッチで僕の紙袋もめっちゃゆらゆらして楽しい気分!ピーポ君、いいやつだ!
スガナミも追いついてきて、まぁ、うん、ピーポ君だね、みたいなテンションで、でもそれにはしゃいでるモネちゃんはかわいいなぁって内心デレてるのがわかる。ばくはつしろ。てかさー、ちゃんとピーポ君さんにテンションあげろよなー。せっかくモネちゃんがよろこんでんだしさー。
「そういえば、どうしてピーポ君って言うんですか?」
ってモネちゃんのどうしてなんでがここで炸裂する。さすがモネちゃん。聞かれたお巡りさんが、えー、そういえばどうしてなんでしょうね、って首を一緒にかしげてる。知らんのかーい。
「えっとですね、東京都民の『ピープル』と警察の『ポリス』の頭文字をとって、両者のかけ橋のような存在になれるように、という由来だ、と聞いています」
おぉ、ちょっとエラい感じのもう一人のお巡りさんが教えてくれた。へー、ってモネちゃんだけじゃなくてスガナミも感心してる。知らんかったんかーい。ピーポ君さんなんか全然珍しくない、みたいな空気感醸し出してたわりに。
勉強になりました!ってモネちゃんが笑ったら、一緒に写真撮りましょうか、ってお巡りさんナイスお申し出!もちろん、モネちゃんはぜひお願いします!って言って、スマホをお巡りさんに預ける。ピーポ君さんの右側に、モネちゃんと僕、左側にスガナミで写真を…って、ピーポ君さんがモネちゃんの肩抱いてるー。これアレじゃん、あとでスガナミがチベスナるやつ。
ピーポ君さんとお巡りさんたちにお礼を言って、モネちゃんとスガナミはまた歩き出す。そんで、モネちゃんがスガナミに写真みせたら、ほらー、やっぱりスガナミがチベスナったー。なんかもう、分かりやすすぎて涙ちょちょぎれるよね。涙腺ないけど。そんで、スガナミが、次は自分はモネちゃんの後ろに立つようにしようって決心した顔をしている。狭い。モネちゃんのことになると、ほんとーにスガナミは心が狭い。セトナイカイぐらい狭い。
水族エン(カンじゃないんだって。おもしろ!)に入った二人は、早速サメ見る。もー、ほんと、モネちゃんのスガナミ理解度のフカさには感謝しかない。うん、サメはいつだって見ておもしろいよ、だってサメだし。でもさ、モネちゃんは最初はそんなでもなかったじゃん、サメに。BRTのバスではスガナミのサメ語りにドン引きだったし。だのにねぇ、いまやこうやって一緒にシアカシュモクザメさんとかツマグロさんとかキラキラのお顔で見てくれるんだから尊い。マジ尊い。サメの天使。
スガナミが垂れ流し続けるサメ知識をずっとふんふん、って聞いてくれて、質問もしてくれて、ほんと、スガナミはモネちゃんに感謝しろ?いや、してるのは知ってるけど、感謝しても、感謝しても、し足りないからな?って話しね。ロレンチーニ器官の名前を憶えてるだけじゃなくて、なにをどうしてる器官なのか覚えてくれてるとか、当たり前じゃないからな!ほんとモネちゃん尊い。
深海コーナーに行ったら、ノコギリザメさんがいた。かっこいいよねー、ノコギリザメさんの吻!吻のとげは長いのと短いのが交互になってるんですよ、ってまたスガナミが言うもんだから、モネちゃんもしっかり観察して、ほんとですね!なんて。吻が上にむいてるのも面白いですね、って、モネちゃんの着眼点がサメ愛にあふれてきてるよね。なんかもう、ふんたかだかな気分ですよ。ノコギリザメさんにちなんで。
サメの水槽も、そうじゃない水槽も、スガナミも知らないことは解説を読んだり一緒に調べたりして、目いっぱい楽しんで、周りの人の倍ぐらいの時間をかけて、二人は水族エンを堪能してる。ほんと、いいよね!はー、ほんと、この二人のサメでよかったなーって思う。時々、スガナミがモネちゃんの肩を抱いて小さい水槽覗き込んでる時とかはばくはつしろ!って思うけど。
お土産物やさんにたどり着いた二人は、いろんなサメグッズを見ては、あーでもない、こーでもない、これは持ってる、あれも持ってる、って話でまた楽しそう。モネちゃんが、シュクモザメの形のタイピンを見つけて、シュモクザメですよ!ってめちゃくちゃ嬉しそうにスガナミに見せてる。スガナミの胸元にあてて、うん、素敵なので、これ、先生にプレゼントです!って、もー、カホーモノ!スガナミがカホーモノすぎる!いや、カホーモノすぎなのはそうとして、そのゆっるゆるの顔はもうちょっとなんとかしろ?
じゃあ、僕はこれを、どうかな、って、この水族エンオリジナルらしいシュモクザメの柄の布をモネちゃんに見せたら、モネちゃんもまた嬉しそうに頷いて。スガナミにしては気の利いたチョイスじゃない?二人でオカイケーして、スガナミが小さな紙袋受け取って、お店を出たとこで、いい買い物ができました、ってにっこにこ。
もー、こんなけ目いっぱいスガナミとサメ(と水族)を満喫してくれるモネちゃん、かわいすぎか。
このあとどこ行くのカナー。公園って行ってたけど、どんな公園なんだろ。
滑り台あるかなー。あったらモネちゃんと一緒に滑るんだー。