切なる想い
「おぉ…!すっかりクリスマス仕様ダネ!」
街のあちこちはイルミネーションとクリスマスのデコレーションに彩られ行き交う人々も何かと忙しない。
メルヘン王国城下町もまた例外ではない。
広場は今年も大きなクリスマスオブジェが設置され、夜にはライトアップもされるとあり多くの人で賑わっていた。
辺りをぐるりと見渡したスマイルは子供のようにはしゃいで、隣にやってきたアッシュに声を掛ける。
「年々は早まってるヨネ、デコレーション。」
「そうっスねぇ。
夏の終わりにハロウィン物出ますからね…。」
「そーそー。
ハロウィン一週間前くらいにはもうクリスマスだもんネ。」
「ちょっと城に篭ってると置いてかれるっス。」
「ソレねー。」
呑気にそんな会話をしながら周囲を見渡せば人集りが出来始めている事に気づき、二人が揃ってにこやかに手を振ると観衆から黄色い悲鳴が飛び交った。
「…人、集まるの早くナイ…?」
「…確かに。
コレはアレですよ。たぶん。」
「「情報拡散。」」
「…されてるネ。」
「…されてますね。」
営業スマイルを貼り付けながらもそんな会話を交わし二人が後方を振り返ると観衆は花道を作っていた。
「へぇ…ここの人達は民度高いネェ。」
「貴族御用達エリアだからですよ。
ここは警備相当厳しいんで。」
アッシュの言葉にああ、そっか。とスマイルは納得する。
そしてその先からやってきた二人に向かって大きく手を振った。
「ユーリー!ひーめー!
コッチコッチ!!」
ユーリはもえの肩をしっかり抱き込み、更に手を取り。
揃ってゆっくりとこちらに向かってくる。
もえは…と言えばどこか浮かない表情でやや下を向きユーリに委ねている様子だ。
「姫、大丈夫?」
「……。」
合流した二人を迎え、顔を覗き込むようにして問うたがやや青ざめて酷く気を張っているのを見てぽんぽんと頭を撫でた。
「…そんなに心配しないで。
ボクらがついてるヨ。」
そんな風に優しく告げるスマイルも
『自分達といるから』こんなにも気を張っていると云う本質にやるせない思いを抱いていた。
彼女が危惧しているのは己の身の危険ではなく自分達の身の危険だという事。
彼女にとって自分達はそれほど大きな存在になれたのだと嬉しい反面、気を張りすぎて体調にまで影響を及ぼす事になりそうなこの状況に憤りも覚える。
「…じゃあ、行きましょうか。」
「ああ、そうしよう。」
そう仕切り直して四人は揃って目的地へと向かった。
その際もアッシュとスマイルは観衆に対し笑顔で手を振るなどのサービスを振りまいていた。
一月下旬、ユーリともえの二人が恋人関係にある事を会見発表してから間もなく一年になるが…その事実は概ね好意的に受け取られている様に感じる。
実際広場で聞こえてきた声は好意的なものであり、もえ個人に対しても『ちっちゃくて可愛い〜!』等の言葉があった。
しかしながらそれを良しとしない者もいるのは事実であり、実際悪意を向けられることが少なくない彼女としてはこんな風にDeuilと共に外を出歩く等さぞ生きた心地がしないのではなかろうか…と面々は何処か落ち着かない。
今日の目的地はユーリともえが初デートで訪れたカフェ併設のパティスリー。
此度そのカフェにVIPルームを設置したとの報せと招待状がつい先日届き、アッシュ馴染みの店であるため息抜きついでにと揃って出向く運びとなった。
店に入るとすぐさまオーナーがやって来てアッシュは懐っこい青年の顔で久方ぶりに会ったオーナーと挨拶がてら会話をしていた。
案内された二階のVIPルームは気品溢れる内装だ。
女性向けかと思ったが決してそうではなく男性でも居心地の良い空間になっており、家具等も一級品で貴族受けが良さそうである。
一部屋につき一組限定で四部屋の用意があるらしい。
各々コートを預け、椅子に腰掛ける。
そこでようやっと落ち着けたのかもえは深く息を吐き出した。
「姫、大丈夫っスか?」
「…ちょっとだけ落ち着けたかも…。」
「身体に異変は無いか?」
「今は、なんともないと思います。」
「辛かったらちゃんと言ってヨー?」
「う、うん…。」
そんな会話をしていると紅茶が運ばれてきた。
「当店オリジナルブレンドローズティーで御座います。」
差し出された紅茶を受け取ってもえは微笑む。
「いただきます。」
そっと含んだ紅茶と薔薇の香りが優雅に鼻腔を抜けるのを堪能して頬が緩んだ。
「…美味しい…。
あの、この茶葉購入は出来ますか?」
「はい。ご用意がございますよ。」
「あの、それじゃお願いします。」
「畏まりました。ご用意しておきますね。」
「ありがとうございます。」
そう言って嬉しそうにまたティーカップを傾けた。
そんなもえの様子に三人は穏やかに微笑むばかりだった。
例年クリスマスはメルヘン王国国王主催のクリスマスパーティが開かれ、ここ二年ユーリはその招待を受けていた。
一昨年はレディ・メアリーに扮したもえを伴い神やミミ、ニャミ、ポエット、そしてDeuil揃って参加をし大いに話題となった。
そして昨年は王からユーリが。
王妃からもえが直々に招待を受けて参加した。
その際王妃から参加した貴族にレディ・メアリーについての種明かしがされ、もえは特に貴族の婦人方から一目置かれる存在となっている。
そして今年。
今年は神とユーリがとある計画を企てた。
王城で開催されるクリスマスパーティでサプライズライブをしよう…と。
サプライズとは言え主催の国王や王妃には早々に打診をした訳だがDeuilファンとして名の通る王妃からの返答は勿論了承との事だった。
そんなこんなでハロウィン前後から何かと忙しない日々を過ごしていたのだが、クリスマスパーティも目前に迫り…いよいよ当日を待つばかりでようやっと余裕が出てきたところだ。
「楽器はもう王城に運んで貰ってるし
ボクらの衣装もバッチリだし☆」
「我々側は抜かり無いな?」
「そうっスね。」
「あーでも、姫の衣装まだダネ?」
「ミミさん達張り切ってたっスけど…」
「当日のお楽しみ〜!って…
教えてくんないんダヨネ〜。」
「…実は私自身もまだ知らないんですよ…」
「「え!?」」
「…一体何を考えているのやら…」
「昨日、候補五着まで絞ったよ。って教えてくださったんですけど…」
「「「五着…」」」
「イヤ、着るの一着デショ!?」
「…二着じゃねぇっスか?」
「ナンデ?」
「パーティ用とライブ用で」
「ああ、ナルホド。」
「…案外三着着せる気なのかもしれぬな。」
「「えぇ??」」
「一つ、パーティ開幕からライブまでの衣装
二つ、ライブ衣装
三つ、ライブ後からパーティ閉幕までの衣装
…と。合計三着だ。」
「うーわぁ…ありそう…」
「否定は出来ねぇっスね…。」
三人の推察を聴きながらもえは苦笑する。
「ミミさんやニャミさんも何かとお忙しいでしょうに…
なんだか申し訳ないですね。」
「え?ソンナコトなくナーイ?
姫の衣装決めるなんて特権でしかナイジャン。」
「そうだな。」
「ですよ。」
優雅に紅茶を啜りながらスマイルの言葉にさも当然と言わんばかりの様子で深く頷くユーリとアッシュにもえは思わず苦笑した。
スマイルは片手で頬杖をついてニコニコしながらもえを見遣る。
「姫は最近城の外でも『お兄チャン』って呼んでくれたり、タメ口で話してくれる様に頑張ってくれてるし〜。
もーーー、優越感半端ナイネ〜♪」
「それそれ。
お二人が悔しがってましたねぇ。」
アッシュもアッシュで何処か誇らしげに頷いている。
「そんな所でも小競り合いをしているのか、お前達は。」
「「大事なことなんで!!」」
以前に比べれば幾分慣れてしまったとは言え…彼らのこの溺愛ぶりは大袈裟が過ぎると思えてしまう。
…勿論、嬉しくはあるのだが…。
だからこそ余計に怖いと思うのだろう。
『大切』だと認識してしまうからこそ…
どんどん自分の手で『守れる』範囲を超えていってしまいそうで。
「……モエ。」
隣からの静かな声にはっとする。
彼は自分の考えなどもう手に取る様に理解しているのだろう。
顔を上げ、視線を向けると彼は穏やかに柔らかく微笑んでいた。
それは余りに美しくて言葉を無くしてしまうほどに。
「姫君。甘いものは心の栄養と言うだろう?」
そう言って真っ赤ないちごの乗ったフォークを目の前に差し出される。
聡い彼はどんな言葉を並べてたとて気休めにもならぬと理解しているのだ。
「さぁ。」
その美しい笑顔が語る。
『何も心配要らない』と。
そうであったらいい。
そうであって欲しい。
いつだって自分の大切な人達には
『幸せ』であって欲しい。
そう思わずに居られないもえだった。