バレンタインの憂鬱・後編
1月の末から周囲の女性たち中心に何やら落ち着かないと感じる。
浮き足立っている…とでも言うのか。
2月の半ばに控える『バレンタインデー』がその理由だろう。
いつの世も恋する乙女たちの悩みは尽きぬものであるし…想いを伝える手段としてこじつける理由があるのならなんでも利用するに越したことはない。
…勿論それは女性に限った話でも無いが。
この時期、意中の相手がいる乙女たちはバレンタインデーと云うイベントに向けて一喜一憂するがここ三年ほどそれがよく目立つ上に何やら微笑ましいとさえ思えている自分自身に対し酷く驚きを覚えたのはつい先日の事だ。
『それは姫の影響デショ。
キミが姫にガチ恋してるカラ
余計その目に映るんダヨ。』
嬉しそうでもあり、しかし呆れもあり。
そんな様子を滲ませて指摘するスマイルの言葉は的を射ている…と妙に納得したものだ。
『あのねぇ…
ボクらどれだけの付き合いだと思ってるワケ?』
うっかりと先の言葉を漏らしてしまい、スマイルは子供のように拗ねてしまっていたが…
その様に時折見せる子供じみた表情や態度は何やらとても懐かしくて愛らしいとさえ思う。
これも彼の言う『ガチ恋』とやらの影響によるものなのか…。
勿論本人には言ってやらないが。
しかしバレンタインデーが近付くにつれ、困った問題も増える。
公式当てに届くものならまだしも城へと直に届くファンレターやら贈り物の数々。
日に日にそれは増えて行き、今では一時保管として使用していた客間には収まり切らず
いよいよパーティールームにその場を移す事となった。
『…露出が増えましたからねぇ…』
そんな風に零すアッシュも困惑の表情を隠しきれていなかったが、増えた贈り物の数がどうこうと云う話よりも問題なことがある。
それは大量の贈り物が届く度に浮かない表情が増える姫君の事だ。
彼女は自分たちの知るような『女』ではないのだ。
故にその浮かない表情が送り主への『嫉妬』と言った浅はかなものでない事はこちらも良く解っている。
『Deuil』と云う存在の大きさや影響力
そんなものをそれらの品々から感じ取り気後れしているに違いない。
またそう言ったものを改めて目に見える形で提示され、自分たちの身を案じている…とそんな所だろう。
そしてそこには己への劣等感も含まれているに違いない。
「全く…難儀するな。」
「ソレ、キミが言うノ?」
「…ホントそれですよね。」
「どう言う意味だ?」
「「1番多いでしょ。」」
「…それはまぁ………確かに。」
「流石リーダーっスね。」
「ホントにネー。
公認の恋人が出来てもお構いナシ!
最早信者ダネ。」
「…公認の恋人になったから余計なんじゃねぇっスかねぇ…
まぁ、純粋なお祝いと完全なる嫉妬との違いはあるでしょうけど。」
「オンナノコって怖いヨネ。」
「…ですね…。」
「………。」
「姫のケア、しっかりしたげてヨ?」
「最近顕著ですもんね。」
「あぁ、解っている。
一先ず姫君が帰る前にこれらを移動させねばならぬな。」
「姫に手伝わせるワケには行かないもんネ。」
「じゃ、始めましょう。」
特にこの数年、良くも悪くもこの二人の意思疎通は早い。
こちらが思っている事をこれでもかと言い当てて来るようになった。
特にスマイルに関しては姫君が来る以前、わざわざ口にして指摘してくる様な事は無かったのだが…今は揶揄う気も大いに込めて居るのだろう。格好の玩具だ。
時々度が過ぎる程に。
しかし奴は奴で自分に対しても姫君に対しても…否、特に姫君に対しての憂いをアッシュ以上に抱えている様子だ。
『ケアをしろ』等と言いつつ、自分が率先してするに決まっている。
それはそれで何やら悔しい気持ちもあるが、姫君が嬉しそうにしているのならそれでも良いか。と…
そんな風に思うのだ。