3月7日【3月7日】
痩せぎすな老人に頼まれて、料理の手伝いをすることになった。伴侶は既に亡くなっているらしく、婆さんに供える為の料理を作るのだという。
料理を始めるまで、自由にしていていいと言われた。散歩がてら家の中を回っていると、やけに広い部屋に行き当たった。普通の民家ではありえない大きさだった。
背丈よりも高い仕切りの間を抜ける。部屋の中は妙に重たい空気と、嫌な薄暗さに支配されていた。
一際大きく分厚い仕切りに区切られて、7つの長テーブルが置かれている。仕切りにはそれぞれ、月、火、というように曜日が書かれている。ひとつを除いて、全てのテーブルに料理が並べられている。
料理の内容は曜日ごとに異なっているようだ。どれも見事な出来栄えで、そこだけやけに明るく見えさえする。皿を触れば、まだぬるく温かさを保っている。一見すれば、至って普通の料理だった。しかし、気づいてしまった。
料理の中に、毛髪や骨のような物が見える
背筋が凍りついた。そういえば、空いたテーブルの曜日は、今日のそれと同じではなかったか。
呻き声のようなものが聞こえた気がして振り返る。真っ黒いもやに、人の顔が浮かび上がったものがいた。老人の執着心と、被害者達の集合体のように思えた。
私もここに加わるのだ。
そう理解した。もやに浮かんだ顔達が、笑顔になった。