イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    6月26日【6月26日】


    「お腹空いてるでしょ、あげるよ」

     友人が赤い長方形の包み紙のチョコレートをこちらへ差し出す。ありがたく受け取って、上着のポケットにしまう。溶けてしまわないかが気にかかるが、ここにしか入れられない。
     腕時計は14時56分を示している。
    「ありがとう、後で食べるね」
    「……た……」

     聞きなれない声が返事をした。
     何を言ったのかと友人に尋ねると、彼女は困惑したような表情で何も言っていないと首を振る。

    「……ま…………しい」

     先程よりもはっきりと聞こえる。明らかに、友人の声ではない。脳が警鐘を鳴らした。

    「妬ましい」

     耳元で誰かが囁いた。
     どす黒く、絡みつくような声だった。悲鳴を上げかけたが、人間は驚きすぎると声が出ないものである。
     挙動不審な私を見ていた友人が、思い出したように口を開いた。
    「それってさ、ガンザサマじゃないかな」

     ガンザサマという怨霊がいる。ガンザサマの声を聞いた者は魅入られて、憑り殺されてしまう。姿を見たら最期、逃げることは出来ない。

     友人はそう説明した。
    「そんな、まさか」
    「姿を見てないならまだ大丈夫だよ」

     恐る恐る周囲を見回す。簡素な部屋には、特筆するようなものは見当たらない。

    「お菓子幽霊に助けてもらえばいいかも」
    「お菓子幽霊?」
    「お化けから助けてくれるの。助けに来てくれるときは、お菓子にメッセージをくれるんだって」

     よく分からないが、とりあえず駄菓子を買えばいいのだろうか。

     友人と別れて、駄菓子屋へと一人で移動した。店内には誰もいない。
     それにしても、この駄菓子の山から一つだけメッセージが書かれたものを探し出すのは、至難の業だ。手近にあるお菓子を手にり、確認しては戻す。どれだけ探してみても、一つとしてそれらしいものは見当たらない。

     腕時計は15時34分を示している。
     こんな状況でなければ、のんびりとおやつを楽しみたかったのだが。先程貰ったチョコレートもあるというのに。

     チョコレート?

     慌ててポケットに手を突っ込む。そういえばあのお菓子にはメッセージを書く欄があるじゃないか。チョコレートの包みを裏面にひっくり返す。

    14時24分 はじめまして。このお菓子を手に取ってください。必ず貴方のお役に立つでしょう
    15時2分 おいおい、他人に渡すのかよ
    15時06分 可哀想に
    15時20分 15時38分が時間です。気をつけて
    15時31分 早く気付け、そっちじゃない
    15時33分 時間が来てしまう
    15分34分 知らないぞ

     包み紙の小さな空欄に、びっしりと書き連ねてあった。はみ出してしまって見づらくなっている箇所も多々ある。
     何よりも、気にかかることがある。もう一度時刻を確認する。36分。

     あと2分しかない。
     気付いた瞬間、耳鳴りが始まった。

    「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい」

     動悸がする。耳鳴りはどんどん激しくなっていく。

    「お前の場所、欲しい」
     真っ黒い何かが、ぽっかりと空いた眼孔で私の顔を覗き込んでいた。

     意識が遠のきかけた。震えた声で、絞り出すように声を出す。

    「お菓子幽霊、助けて」
    「了解。ちょっとしゃがんでくれ」

     崩れ落ちるように床にしゃがむと、真上を誰かが飛び越えていった。次の瞬間、なにかが蹴り飛ばされるような鈍い音と、吹き飛んで壁に当たる轟音がした。

     顔を上げると、長い金髪を一つに束ねたスーツ姿の男性がいた。軽く地面に降り立ってこちらを見下ろす隻眼は赤く輝いていた。

    「頼むぜ、姉者」
    「わかっている、弟者」

     ガンザサマに相対した女性が抜刀する。先程の男性と同じ髪、同じ目をしていたのが見えた。
     彼女が刀を振り抜いた。ガンザサマの首が、胴と離れた。真っ黒な瘴気が、形を保てず霧散していった。

     女性は刀を納めて、服についたホコリを払うと、男性を引き連れてこちらへ歩いてきた。

    「この度は、お菓子幽霊ことルスティーサービスをご利用頂き、ありがとうございます。しかし、本来貴方がお客様になるはずではなかったのですが。これも何かの縁でしょう」

     ルスティーサービスと名乗った彼らは、私の無事を確認すると頷いた。こちらに対しての敵意は露ほども無いようだ。

    「姉者はお堅いんだ、許してくれ。でも、会えたのは何かの縁だろうな。それはそれはそうと、そろそろ起きる時間だぜ」

     男性が笑顔で手を振った。待ってくれ、まだお礼も言えてない。視界が真っ白になる。

    「またのご利用をお待ちしております」
    縣 興夜 Link Message Mute
    2022/12/18 18:54:01

    6月26日

    6月26日の夢日記
    #創作 #夢日記

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品