5月11日【5月11日】
電車に揺られている内に眠ってしまっていたようだ。
寝ぼけ眼を擦って外を見る。車窓には見知らぬ景色が広がっていた。乗り過ごしてしまったのだろう。
頭を抱えていると、電車が止まった。どうやら終点らしい。戻るためには乗り換えなければいけないし、どちらにせよ降りるしかない。
扉の外には駅舎らしきものはなかった。舗装も何もされていないむき出しの地面に足をつけた。
背後で扉が閉まる音がして、電車は再びゆっくりと動き出した。電車が消え去ったあとの地面を見て、気がついた。線路がない。
今まで、何に沿って走っていたのだろうか。線路が無い以上、帰りの電車もないのではないか。
このまま待っていても仕方がない。元来た方向へ歩き始めた。田舎とはいえ、歩けばいつかは駅にたどり着けるだろう。
歩いていると、遠くで人が集まっているのが見えた。不思議に思って人だかりの隙間を縫っていくと、息を飲むような雲海が眼下に広がっていた。
地上を覆い隠すように広がる白雲の中に、ポツリと城だけが突き出ている。さながら、天空の城と言ったところだろうか。こうして人が集まるのも頷ける。
身を乗り出して見とれていると、突然誰かに背中を押された。
驚いて振り返った瞬間、足を踏み外した。雲海も人も消えていた。
柵は無かった。
最期に手を伸ばしたが、掴んでくれる人はいなかった。