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    3月21日【3月21日】


     木で組まれたアスレチックの頂上で座り込んでいた。

     下では大型の犬が私に向かって激しく吠え立てている。犬の顔面は爛れていて、片方の眼球がブラブラと外で揺れていた。
     アスレチックには囲いがされており、その外側からは絶え間なく銃弾が飛んでくる。

     きっと、死ぬのだろうな。

     何度か銃弾が肩を掠めた。太もも以外に直撃していないのが当たってないのが奇跡的なくらいだ。

     犬が遠吠えを上げたかと思うと、飛びかかってきた。
     もう逃げ場がない。諦めて目を瞑った。

     しかし、いつまで経っても衝撃は襲ってこない。
     恐る恐る目を開けると、水しぶき上げながら犬が深い池に落ちるところだった。
     代わりに、見知らぬ生き物が目の前に立っていた。

    「怪我はないか?」
    「大丈夫です。あ、でも、太ももが」
    「それじゃ走れそうにないな」

     置いていって大丈夫ですよ。そう伝えたのだが、誰とも分からない不思議な生き物は首を振った。彼は小さな体で私を背負って走り始めた。

     街は火の海だった。人が溶けていた。建物は崩れていた。逃げ惑う人々の中を、駆け抜けている。

     原型を保てなくなった噴水は、溶けだした人々を押し潰した。歪な形のオブジェが、新しく出来上がったようだった。

     ふと、後ろから声をかけられた。これまたおかしな髪色の男がこちらに駆け寄ってきた。

    「知り合いかい」
    「おそらく」

     返事を聞いていたであろう男は、少し怒ったようだった。思い出せないことを申し訳なく思った。
     背中から降りて地面に足をつけた。太ももが絶えず痛むが、歩くことくらいはできるだろう。

     先程の男性と生き物は話がついたのか、軽く挨拶を交わしている。
     男性に腕を引かれる。頭を下げて礼を言えば、生き物は照れたように笑っていた。そうして、またどこかへと走り去ってしまった。

     悲鳴と炎ばかりが世界の全てだった。

     まともに動かない右足を必死に動かして、前を行く彼の背中を追いかける。
     火の粉に触れれば、溶けてしまうのではないか。そんな不安に押し潰されそうだった。

    「こっちにはまだ火が来てない。行くぞ」
    「待って、足が動かしづらいんだ」

     彼は驚いた顔をした。ずっと前だけを見て、私の手を引いてくれていたのだから、気付かないのも無理はない。
     安全になったところで、彼が私の前に膝立ちになった。彼はズボンに隠れていた太ももを見て、顔を顰めた。

    「なんでもっと早く言わないんだ」
    「足でまといになりたくなかったんだよ」

     溜め息を吐かれた。
     再び体が宙に浮いた。また走り始めた。

     走って走って、暗い山の中を抜けて、足場の落ちた公園を飛び越えて、ずっと先を目指した。

     辿り着いたのはどこかのサービスエリアだった。炎は及んでいなかった。
    「中のコンビニで駄菓子でも選べ。欲しいのが決まったら呼ぶんだぞ」
     男は休憩所のような場所に入っていった。
     そういえば、ずっと飲まず食わずだった。有難くお菓子を選んでいると、何か賑やかな声が聞こえてきた。

     声のする方へ視線を向ければ、ガラス張りの休憩所の中で五人ほどの大人が騒いでいた。その中には先程の男も混じっている。
     自分を置いて楽しそうにしているのが少し悔しかった。嫉妬かもしれない。

     沢山買って困らせてやろうと思った。大量のチョコレートと炭酸飲料を腕に抱える。

     いっぱいになった腕で、更に飴の袋を取ろうとしたが、上手く取れない。しゃがみこんで困っていると、大きな手が伸びてきて、飴の袋を私の腕に押し込んだ。
     顔を上げると、先程の男とよく似た顔の、優しそうな男が居た。

    「危ないでしょう。落としたらどうするの」
    「ありがとう」
    「ほら、買いに行くよ」

     連れられるままに会計を済ませた。手渡されたレジ袋は重くて、もう少し加減するべきだったと後悔した。

     集まっていた大人達と外に出ると、とっくに夜が更けていた。
     岩の上に立って見下ろした街は、真っ赤に照り映えていた。遠くからでは、地獄絵図は見えなかった。心のどこかで安堵した。

     ここまで火の手は来ないようだ。

     あの様子では、きっと誰も助けられないだろう。
     そもそも、どうしてあんなことになったのだろうか。
     あの生き物は大丈夫だろうか。

     どれだけ考えても、もう分からない。
    縣 興夜 Link Message Mute
    2023/01/22 15:03:50

    3月21日

    3月21日の夢日記
    #創作 #夢日記

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