サメのしりとり先生のおうちで、おひるごはんを一緒に食べて、食後の気怠い時間。ダイニングテーブルに向き合って、あったかいお茶を飲みながらまったりしてる。先生はまだちょっとお茶が熱すぎるみたいで、指先でマグをつついては、熱そう、って顔をしてる。
「ね、せんせい、しりとりしませんか?」
やっと一口お茶を飲んだ先生に声をかけると、いいですよ、って返事。
「じゃあ、先生、はじめてください!」
「僕から?普通は『しりとり』からはじめるんでしたっけ」
「なんでもいいと思いますよ」
「じゃあ…『とめむそう』」
「『う』… ウバザメ!」
私がサメの名前を出すと、先生の目が嬉しそうにきらっとする。先生、かわいい。
「『め』… 『メジナ』」
「『な』…『ナースシャーク』」
「またサメですね。『く』…『くじら』」
「『ランドセル』!」
「『る』…『る』って単語少ないですよねぇ。『ルクセンブルク』」
それなんですか?って聞いたら地名だって。私はしりとりで『る』ときたら『ルビー』しかないのに、先生さすがだなぁ。
「『く』…『クロヘリメジロザメ』」
「『め』…『めだか』」
「『か』…『カスザメ』」
「『め』…『メンチカツ』」
「『つ』…『ツラナガコビトザメ』」
「『め』…『メリーゴーランド』」
「『ど』…『ドチザメ』」
「『め』…って、永浦さん、さっきからずっとサメ終わりなので、僕がずっと『め』なんですが…」
フムフムってしりとりをしてた先生がやっと気づいて、なんとも言えないチベスナ顔。てへって顔をして見せると、自分の後ろのサメポスターを振り返った。先生の後ろのサメポスターからサメの名前拾ってるのバレちゃった。
「あれを見てたんですね、っていうか、あれをそこから読めるのすごいな…」
って感心して呟いてる先生が面白い。
「せんせい、『め』ですよ、『め』」
って促すと、なんだかんだ負けず嫌いな先生は『め』の言葉をひねり出す。
「『めざし』」
「『シロシュモクザメ』」
「『めだま』」
「『マオナガ』…あ、『め』で終わらない!」
先生がニヤリとして、次の言葉を言う。
「『ガラパゴスザメ』」
あー、今度は私に『め』ばっかりにするつもりなのかな。
うーん。あ!
「『メジロザメ』!」
メで始まるサメを見つけて、ドヤ顔をして見せると、先生がむむって顔になった。
「じゃあ…『メガマウスザメ』」
あー!『め』が返ってきちゃった!もう『め』で始まるサメがないー。してやったりみたいな顔してる先生がなんだか憎たらしくなって、両手を伸ばしてほっぺをむにーってしたら、にこにこ笑うもんだから、私も笑っちゃう。
「じゃあ『めがね』!」
「『ネコザメ』」
「『めんこ』!」
「『コクテンサンゴトラザメ』」
「『めざましどけい』!」
「『イモリザメ』」
「『めいぎ』!!」
「『ギャリックガンジスメジロザメ』」
どんな単語を返しても、サメポスターも見えないのにサメの名前がスラスラでてくる先生が、なんだかにくたらしい。うぅう~、ほんとにもう『め』ではじまるサメさんいないのかなぁ…ってサメポスターに目をこらしたら、あ!あった!
「『メガロドン』!!!」
…ん…?
「あぁああ!」
私が口を覆うのと、先生が吹き出すのが同時。もー!
うぅう…。
先生がくすくす笑う。もー!
「思わず読んじゃったんですね」
ツボに入ったみたいに笑い続ける先生に、私ははっきりチベスナ顔。先生が腕を伸ばして、テーブル越しに私の頭をぽんぽんってしてくるから、そのチベスナ顔も続かないんだけど。
「それにしても」
ってひとくさり笑った先生が後ろを振り向く。
「あれがよくそこから読めますねぇ。まぁ、僕も知ってるから読めなくはない、ぐらいだけど…」
感心しきりの先生に、エヘンって顔をして見せる。私も先生も裸眼だけど、私の方が視力いいもんね。だからついサメポスターからサメの名前を拾い出しちゃったんだけど。
「ねぇ、先生」
「なんですか?」
「メジロザメとメガマウスザメ以外にはメで始まるサメって他にないんでしょうか」
「そうですねぇ、心当たりはないけど…。調べてみましょうか」
って立ち上がって、サメ図鑑を持ってきてくれる。私の疑問にはいつもまっすぐに向き合ってくれる人。
二人で額を突き合わせて索引を調べてみるけど、やっぱりメジロザメとメガマウスザメしか見当たらなかった。ところで先生がさっき言ってた、『ぎ』?で始まる長い名前のサメどれですか?って聞いたら、そのサメのページを開けて詳しく説明してくれる。先生のサメの話はいつ聞いても面白いし、それを話してる先生の楽しそうな顔はもっと楽しい。
今日の午後なにしましょう、なんて話してたけど、こうやってのんびりサメのお話でもいいな。それで今度は先生にサメしりとりで勝つんだ。…うん、道のりは長そうだけど。