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    冬のある日の シャンプーの登米夢想でにぎやかなクリスマスを過ごした冬。結局、あのクリスマスの後は、お互いに東京で勤務が立て込み『あけましておめでとうございます』の言葉を電話で交わしたのも、元旦はとうにすぎた1月1日の20時頃、翌日も新年特別編成の中継に成田山まで出る予定の百音は就寝前、日勤当直日勤後の超過勤務後にやっと菅波が職員用出入口から寒風に吹かれたころ、というありさまで。会えないのは寂しいが、お互いの仕事を大切にしたいのも本心という二人は、元日中に声が聞けて良かった、と笑いあう。

    次に二人が会えたのは、百音と菅波の勤務明けの時間帯が重なった日の昼過ぎだった。11時半の定刻の退勤になった百音が洗濯をしていれば、菅波は約束の13時より30分早く顔を出す。
    「先生、こんにちは」
    「永浦さん、こんにちは」
    これを以前明日美に聞かれた時には、なんで二人まだそんなに他人行儀な挨拶なの?!とも言われたが、なんだかそれが二人にはしっくりきていて。

    菅波の手にもランドリーバッグが提げられている。
    「永浦さんの洗濯時間あとどれぐらいです?」
    「あと11分です」
    「そうしたら、僕のは後にして、それが終わったら出ましょうか」
    「はい」

    段取りが決まって、百音が座るテーブルの反対側に菅波が座る。関係性が変わってから、当たり前になった位置関係に、ようやく二人も慣れてきた気がする。菅波が着座して、あの、と口火を切ったのは百音で今日、面白い狛犬を見たんです、とスマホを操作して写真フォルダを繰った。

    「そこの大きなお寺、今までお参りしたことなかったなーと思って帰りにちょっと寄ってみたんです」
    「あぁ、インドっぽい石造りの」
    「そうそう。そしたら、ご本堂の入り口にこんな狛犬?でもないか、彫刻があって」
    と百音が見せる画面をのぞき込むと、羽根の生えた獅子が建物の両脇に鎮座しているのが見えた。阿と吽の顔つきで、ついっと百音が写真をスワイプすると後ろからの写真でしっかりと翼が見えた。

    「へえ、面白いですね。翼の感じとかもインドとかあちらの方のデザインの感じがする」
    菅波が身を乗り出してスマホを覗き込み、百音もですよね、と顔を寄せて、ふと何かに気が付いた。百音が何かに気づいたことに菅波が気づいて顔をあげると、百音が菅波の顔をまじまじと見る。百音のスマホを挟んで至近距離で顔を見合わせて一瞬時間が止まる。

    「あの、どうかしましたか?」
    菅波が上目遣いに聞くと、百音はふと首をひねった。
    「なんか、先生の香りが違う気がして…。髪とか」
    すん、と鼻を鳴らす百音に、菅波はふと思案の後、何かに思い当たった。

    「さっき、勤務を上がる前に当直室のフロを使って来たんです。永浦さんとの約束があったから。そこに備え付けのシャンプーやボディソープを使ったから、家の物とは違う香りがするのかと」
    自分の手をふむ、と鼻に寄せながら菅波が言い、「嫌な香りですか?」とまた上目遣いに百音に聞く。

    百音は首を左右に振ってふわりと笑った。
    「全然、嫌な香りじゃないです。単純に、いつもと違うな~と思って。それが、先生が一生懸命お仕事した後の香りなんだったら、それも素敵だと思います」
    真摯なその言葉に、菅波の口許が緩む。

    「というか、当直室にお風呂あるんですね」
    「ユニットバスが部屋ごとについてるんですよ。ほんとに小さいんで、ざっとシャワー浴びるぐらいしか使いませんけど」
    「特に先生には窮屈そう」
    「中村先生も狭いって文句言ってますね」
    「中村先生はせんせよりさらに背が高いですもんね」

    他愛もない会話のうちに、ガゴンと洗濯乾燥機が止まった音に続いて電子音が鳴って百音の洗濯終了が告げられる。終わりましたね、と百音が立ち上がって自分の洗濯物をランドリーバッグに取り込み、百音が中に何も残していないことの確認を終えた。それを待って、菅波が自分のランドリーバッグを持って立ち上がる。

    「私、これを部屋に置いてきますね」
    と百音がバックヤードのドアを開けるのを見送って、菅波は空いた洗濯乾燥機に自分の洗濯物と洗剤を放り込んでポケットから小銭入れを出す。ばしゃり、と洗濯が始まったところで、百音が戻ってきて時間表示を見上げた。

    「48分、ですね」
    「ですね」
    「角のおそばやさん、行きたいです」
    「蕎麦屋でいいんですか?」
    「がいいです」
    「はい。じゃあ、行きますか…。あと47分」
    「はい」

    先に出口に足を向けた菅波を百音が追いかけて、ふと、さっき感じた香りがまた鼻腔をかすめる。あぁ、これが、東京でお仕事してる先生のもひとつの香りなんだ、と、菅波が東京を離れる前に、新しく知ることができたちいさな喜びを胸にしまった百音は、たたっと菅波を追いかけて隣に並び、先生は今日も天ざるですか?と見上げる。そうですねぇ、たまには違うものと思いつつ、結局そうなるのかなぁ、と菅波がのんびり答えるその会話に、にゃーん、という猫の声がどこからともなく混じるのであった。
    ねじねじ Link Message Mute
    2023/04/02 22:33:02

    冬のある日の シャンプーの

    #sgmn

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