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    ぜんぶ、せんせいと(サメのしりとり・そして)記憶にないけど『この世に生まれてくる』ことと同じぐらい。今日もう何度目か分からないキスを菅波と交わしながら、百音は、それぐらいこの経験は初めて尽くしのことだ、と、思った。決して急くようなそぶりは見せず、慎重なぐらいに、それでも確実に事を進める菅波によって、百音の上衣はナイトブラと共にすでに取り払われていて、枕元に置かれている。直接触れ合う肌で熱を分け合いながら交わすキスの気持ちよさは、やはり百音が知らなかった初めてのことで。

    指を絡ませて繋いだ右手にきゅっと力を入れると、同じだけの力で返事がかえってきて、唇を離した菅波が、潤んだ百音の目許にもキスを落とす。左手で菅波のくせ毛をくしゃりと撫でれば、百音の耳にくすくす笑いが届く。菅波の右手がそっと百音の腰からへそにすべると、百音はその心地よさに目を細める。こうしていることに羞恥はあるが、それでも触れ合うことにためらいはなく、そうしてこの時間を迎えていることが百音を過度な緊張から遠ざけていた。

    菅波が百音を導いていく様は、サメで表現すれば、まるでオンデンザメの泳ぐ速さで、百音の戸惑いを一つずつ解きほぐしながら。それでも、百音の「全部教えて?」という言葉に忠実に応えるように、動きが止まることはなく。思わず漏れた自分の嬌声に、百音がとっさにヤダと口を覆った時も、菅波は言葉の意味を”正しく”理解し、百音も胸の前で両手の指先を合わせてふるふると首を振って。

    そして、ゆっくりでも進みつづければ目的地に着くように、最後には「ぜんぶ、せんせいと」が成し遂げられる。すっかり翻弄された百音の息がまだ整わない中、自分は大きな深呼吸一つで無理やりに呼吸を整えた菅波が左手を伸ばした。自身の顔の横に投げ出された百音の右手を、まるで壊れ物を扱うような手つきでいとおしげにとり、静かに優しく、手のひらに口づけをする。さっきまでのキスとは全く違うそれに、胸元を大きく上下させたままの百音が菅波をぼうっと見上げると、菅波はそのちいさな手のひらを、そっと自分の頬にあてて目を閉じた。

    泣きそうな、という形容詞がぴったりくる表情で眉根をよせ目を閉じた菅波の顔に、自分から左手を伸ばして、百音が気づく。この初めて尽くしの時間のあいだじゅう、ずっと、必ずどちらかの片手があいていたことに。それはきっと『約束』のためだった、と思うと、そこに隠されていた菅波のほんとうが何よりも百音の心を打つ。自分の心と身体を預けられる唯一の人の泣きそうな顔にそっと左手を添えると、柔らかな手のひらに両頬を挟まれた菅波がふわりと笑って、自分の額をこつんと百音の額に預けた。思わず百音がくすりと笑い、菅波もくつくつと笑い声を漏らす。

    百音の髪に軽くキスをかすめた菅波が起き上がって、手早く最低限の始末を終える。きょとんと自分を見上げる百音の表情をいとしげに見つめた菅波が、その背中側に寝ころがり、百音を背後からかき抱く。百音の背中が菅波の胸板から腹にくっついて、まだ少し汗ばんだ肌のふれあいが心地よい。百音が、自分の前に回された腕にそっと触れて優しく撫でると、菅波の目じりの皺が深くなる。

    「無理は、ありませんでしたか?」
    そっと耳元にささやくと、その耳が真っ赤に染まり、そして艶やかな黒髪がこくん、と頷いて揺れた。菅波がその髪を優しく撫でていると、不意に百音が体の向きを変えて菅波に向き合った。腕枕のような位置にいたので、二人して寝ころがっているのに、やはり百音は菅波を見上げる角度である。左手を菅波の右上腕に預けながら、唇をむぎゅむぎゅとさせながら、じっと自分を見つめる百音を菅波も見つめた。じわじわと口許をほころばせた百音が口を開く。

    「あのね、先生」
    「はい」
    「私、たった今、分かったことがあるんです」
    「なんですか?」
    耳に馴染んだその問いかけが心地よく、菅波の心臓の位置に当たる胸元に、そっと自分の右手指を置いた百音が言葉を続けた。

    「初めて尽くしだったけど、私とせんせいは、こうなることが決まってたんだなぁ、って」

    菅波を信頼してすべてを委ねてくれた人に、こうなることの必然を全肯定され、菅波は思わず口許を覆って顔をシーツに突っ伏した。初めて尽くしで戸惑いも多く、身体への負担も軽くはなかろうのに、それをすべて受け止めている百音の言葉に、菅波は泣きそうなほどに感情を揺さぶられた。最後まで本当に誠意ある男でいられただろうか、と自問自答しつつ、シーツから顔をあげると、不思議そうな百音と目が合う。なんとか笑ってみせると、百音がそっと菅波の目じりに浮いた涙を指先で拭った。その指先に自分の指先を重ねた菅波が、僕も、そう思う、と言葉を絞り出すと百音がこくり、と頷く。

    しばらくそうして余韻に浸っていた中、かちり、と百音は何かのスイッチが入る音を聞いたような気がした。さっきまで、言葉少なに懐中の百音の存在を慈しみ、むき出しの華奢な肩を撫でていた菅波の手に力が入り、ぐいっと百音の顔を覗き込んだ
    「ところで、本当に体はどうですか?もちろん初めてのことで、全く普段通りではないでしょうけど、極端に痛んだりしているところはなどないですか?この後に疲労が出ることもあり得るので、今大丈夫に感じるからと言って無理してはだめですよ」

    テキパキとアタフタという相反する副詞が同居するような菅波の言葉と仕草に、最初はきょとんとしていた百音だが、じわじわと胸の中にしあわせが広がるのを感じた。この時間が始まってからさっきまで、ずっと初めての菅波ばかりでドキドキし通しだったのが、今目の前にいる菅波は素肌をさらした見慣れない姿なのに百音がよく知る菅波で、そのことがしみじみうれしい。

    「あの、それに、出血は視認していないけど、確証はないので、それも、もし痛みがあ…」
    さらに話し続ける菅波の言葉を遮ったのは、百音のキスだった。菅波の着やせするしっかりした肩に手をかけて体を乗り出し、百音がむぎゅっと菅波の口をふさぐ。たっぷり10秒以上かけて菅波の言葉をすべて取り込むようなキスの後、百音が菅波を見上げた。そのキスをあっけにとられてただ受けるだけだった菅波が、慌てたように言う。

    「あの、永浦さん?」
    「だいじょぶです」
    「へっ?」
    「先生の言う通り、経験したことない体の状態だなぁとは思うけど、どこかがとっても痛い、とかつらいところはない、から」
    百音の言葉に、菅波がうん、と頷く。

    「この後、なにかしんどくなったらちゃんと言いますから」
    「うん」
    「だいじょぶです。それに、私には最高のお医者さまがついてますから」
    はにかむ百音が寄せる菅波への全幅の信頼に、あぁもう、本当にこのひとは、と菅波は百音の頭をかき抱いて、百音はその抱擁にぐりぐりと自分の額を菅波の胸にすり寄せた。

    「あ、でも」
    と百音が一言漏らすと、菅波が慌てて百音の顔を覗き込む。菅波が百音の目に見たのは、キラリとしたいたずらめいた光。
    「なんだかまだせんせいがいる感じはします。うれしい」
    へへっと笑う百音にクリティカルヒットをくらった菅波は、両手で顔を覆ってどさりとシーツに沈んだ。そうして微動だにせず耳まで赤くした菅波を、百音は「せんせ?」とつつく。

    本当にかなわない、としばし硬直した菅波は、ふと気を取り直して上体を起こした。百音越しにベッドの下に身を乗り出して脱ぎ捨てたトランクスを手に取って身に着けると、自分はベッドから滑り降りて、百音の体を薄手のブランケットで包む。きょとんと自分を見上げる百音の頭を、菅波がくしゃりと撫でた。
    「先にかるくシャワー浴びてきます。永浦さんも、僕の後にと思うけど、まずは体を楽にしてて」

    床から白Tシャツとスウェットパンツを取り上げて浴室に向かう菅波を見送った百音は、ブランケットごとゴロンと寝返りをうって、自分の体を両腕で抱きしめた。その時間の間はずっと夢中でよそ事を考える隙間など全くなく、その後も菅波がずっと優しくそばにいたのでその存在を感じることに気持ちが向いていたが、いざ束の間でも一人になると、なんだか急にこうしていることがとても照れくさい。

    自分の肌をすべる手のひらや接した肌の熱さも、ふと自分を見つめるまなざしに宿る情火も、初めての高みに自分を導く不埒な指も、なにもかも知らなかった菅波だった。ふと自分を見下ろしていた菅波の切なげな表情を思い出す。見たことない、だけど、しみじみと先生だ、と思わせる顔だった。

    先生も、初めての私を見つけてくれたかな、とぎゅっと自分を抱きしめる腕の力を強くしたところで、「永浦さん」と声がかかって、その不意打ちに、ふぁい!と変な声がでた。振り返って見上げると、白Tシャツを着た菅波と目が合う。菅波は、百音の声に吹き出すのをこらえた表情で、そっと髪を撫でた。

    「シャワー浴びますか。汗とか流したいでしょう」
    こくりと頷いた百音が上半身を起こそうとすると、何となく腕に力が入らない気がする。百音にかけられていた薄手のブランケットがはらりと落ちたところで、菅波が手にしていた大判のバスタオルで百音の体をくるんで抱き上げた。
    「えっ、せんせ?」

    「身体に力入りにくいでしょう。シャワー浴びる時は風呂椅子に座ってくださいね、念のため」
    浴室の中までは行かないから安心して、という菅波の肩に両腕を回した百音は、むぅっと頬を膨らませた。その表情にきょとんとする菅波に、百音は頬を膨らませたままいう。

    「先生、私の事あまやかしすぎです」
    「今日あまやかさないでいつあまやかすんですか」
    応酬を交わしながら、浴室までの短い距離を菅波が百音を軽々と運ぶ。脱衣所に百音を降ろした菅波は、部屋着持ってきておくので、ゆっくり浴びてください、と脱衣所の戸をカラリと閉めた。

    髪をゴムでまとめた百音がそろりと浴室に入ると、室内は菅波の後で適度にぬくもっていて、言われた通りに椅子に座って湯を浴びると、身体がほぐれる実感があり、やはり緊張していたのだ、と気づく。菅波と触れ合った汗を流すのが寂しいような気もしつつ、ちゃんと体を整えよう、とボディーソープを手に取るのだった。

    百音がシャワーを浴び始めた音を聞いて、菅波は寝室に足を向けた。自分が脱がせた百音の着衣を集め、軽くととのえたそれを洗濯機の上に置く。また寝室に戻って寝乱れたシーツを整え終えた菅波は、百音がシャワーから上がるのに備えて、ダイニングチェアに座った。百音のシャワー音を聞きながら、菅波は合わせた両手を顔にあてて、沈思する。

    あどけないと思った次の瞬間には妖艶とも形容すべき色香を垣間見せる表情も、とまどいながらも自分に背に回された手のひらの熱さも、常夜灯にほの白く浮かぶ肌も、いつかは、という自分の想像をはるかに超えて美しい百音だった。ふと自分を切なげに見上げていた百音の何かを問うような表情を思い出す。全く初めてのことに翻弄されながら、それでも菅波がどう思っているかを慮っている、そんな顔だった。本当に、大切にしたい、そう思わせる顔だった。

    脱衣所の戸が開いて、ショートパンツの部屋着を纏った百音が姿を見せ、菅波は即座に立ち上がった。ほかほかの百音がにこりと菅波を見上げる。百音が菅波に両腕を甘えて伸ばすのに、菅波も笑顔で応え、また体をかがめて百音を抱き上げた。こうして百音が甘えてくるのは初めての事で、ふたりの距離感の変化が好ましい。

    「あまえてますね」
    「今日あまえないでいつあまえるんだと思って」
    「ですね」

    忍び笑いを交わしながら、二人で寝室に戻る。整えられたシーツの上に二人で寝ころべば、今までのような時間でもあり、さっきまでの初めての余韻が漂う時間でもあり。菅波が薄手のブランケットを二人の腰の上までかけると、百音がころりと身体を丸め、左ひじをついた菅波と身体を寄せ合った。

    唇をむずむずとさせて自分を見る百音に、菅波の口許も緩む。菅波の右手が百音の腰をなでると、百音がくすくすと笑った。
    「先生、私、じょうずにできました?」
    羞恥よりは好奇心がまさるその表情に、百音のリラックスがうかがえる。お互い肌をさらしたままだと行為の残滓に惑うところも、シャワーを浴びて着衣になったことで、少し気分が変わったようだ。どちらが良いかと悩みつつ後者を提示した菅波は、その選択がどうやら間違っていなかったことに安堵しつつ、答えは一つしかない問いを投げかける人にくしゃりと笑ってみせた。

    「もちろん」
    その答えに、百音があまりに嬉しそうな顔をするので、菅波はむしろ不安になるぐらいである。
    「永浦さんは、その、嫌なことはなかったですか?」
    おそるおそるのその菅波の言葉に、答えは一つしかない問いを聞く人だな、という顔で百音が答える。
    「なかったですよ?」
    「ほんとうに?」
    「だって、先生に教えてって言ったのは私だし…。本当に嫌だったら伝える方法もくれてたじゃないですか」

    結局出番はなかったけど、と自分の指先を見た百音が、きゅっとその両手を握って菅波をみた。
    「その、初めて尽くしで、よくわかんない感覚もたくさんあったんですけど」
    「うん」
    菅波は右手で百音の艶やかな髪先を愛でつつ、百音の言葉に穏やかに耳を傾けると、今夜何度目か分からないクリティカルヒットの不意打ちに合った。
    「あれのどれかが 『気持ちいい』なんだとしたら、とっても気持ちよかったな、って」

    菅波が絶句して、髪先を愛でる右手も止まって、百音が心配そうな顔になる。
    「え、あの…ちがいました?」
    百音に心配をかけてはならぬ、と菅波は右手を髪先から離して口許を覆う。

    「あの、そうじゃなくて、その…」
    真っ赤になった菅波がもごもごと話すのを、百音がきょとんと見る。
    「もし、そうなんだとしたら、あの、僕としても、うれしい、です」
    その言葉に百音がこくこくと頷く様に、もう菅波の情緒はふりまわされっぱなしである。

    「あの、せんせいは?」
    百音の問いかけに、情緒のふり幅が忙しい菅波はその意図をすぐに組むことができない。
    「せんせいは、その、きもちよかった、ですか?」
    聞きますかね、それを、と菅波は今日一番の羞恥に襲われつつ、百音の問いに答えないという選択肢を持たない菅波は、頷くしかない。
    「はい」
    もう何を言わすんだという菅波の表情に、百音はなにやらうれしそうな顔でそっと菅波の胸元に額を寄せた。菅波がその背中をとんとんと優しくなでると、気持ちよさそうに頬までを摺り寄せる。猫のような仕草に、菅波は先ほどまでの肢体のしなやかさをふと思い出し、それを意識的に頭の外に追い出すのだった。

    「明日は、家でゆっくりしましょう」
    菅波の言葉に、百音もこくりと首を縦に振る。気づけば、いつもは仕事で起床するような時間に近づいている。ゆったりとした夜を過ごせるのは登米の菅波の家でのとくべつだが、今夜はその中でも本当にとくべつだった。

    「またしりとりしましょ」
    「サメポスターのカンニングはなしですよ」
    「だいぶサメの名前も覚えましたから、今度は負けませんよ」
    「そうかなぁ」

    笑う菅波の言葉尻を拾った百音が口を開く。
    「あ…アカリコビトザメ」
    おもむろに始まったサメしりとりに、菅波の口許が緩む。
    「メジナ」
    「ナースシャーク」
    菅波がおっ、と言う顔をしつつ、『メ』で終わらないのにしちゃいましたね、と笑うと、百音もしまった、と笑う。
    「ククサリトラザメ」
    「メジロザメ」
    百音が2つしかないメで始まるサメの名前に言及して、さてどうする?と菅波を見上げる。
    やれやれ、と菅波が笑うのと、あふ…と百音から小さいあくびが漏れるのが同時で。

    「メガロドン」
    はい、今日はもう寝ましょう、というメッセージを古代サメの名前に託すと、それを理解した百音がもう一度のあくびを噛み殺しながら頷く。上目遣いにそっとねだられたキスを百音の桜唇に落とした菅波は、ベッドサイドの照明のリモコンに手を伸ばす。常夜灯も消えた晩夏の宵闇に紛れ、二人は、交わした契りを確かめるかのようにそっと体を寄せ合って、心地よい眠りに落ちていくのだった
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    2023/04/25 20:19:45

    ぜんぶ、せんせいと(サメのしりとり・そして)

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