おするばんサメ太朗のおかえりシャークなおはなし今日は、モネちゃんが登米のスガナミんちから帰ってくる日!いつもそうなんだけど、なんかもー、わくわくシャークで朝から目が冴えちゃうよね。そもそもあんま寝ないけど。スガナミんちのサメ棚にいた時は、スガナミがいないことなんてしょっちゅうだったし、そんなもんだろーって思ってたけど、モネちゃんちのサメになってからは、ずーっとモネちゃんと一緒だから、さびちいってなっちゃうの仕方ないよねー。
まぁ、その分、スガナミはモネちゃんになかなか会えないわけだから、モネちゃんがとびきりおめかしして登米に行く時は、いってらっしゃーいって、心の胸ビレを全力で振っておみおくりするわけだけども。そんで、モネちゃんがこのお部屋に帰ってきた時には、楽しかったと寂しかったが半分ずつだから、それを僕がぜんりょくでサポートするわけ。まぁ、なんていうか、サメのつとめ、ってやつ?
そろそろカナーって思ってたら、トコトコって絶対聞き間違えないモネちゃんの足音が聞こえる。そろっとドアが開いて、モネちゃんが「ただいまー」って小さい声で言う。これもいつもどーり!モネちゃんはまず、汐見湯に帰ってきた時にただいまを言って、それはみんな用。そんで、このただいまは、お部屋にいる僕用!エヘン。
わー!モネちゃんおかえりー!!!
心の胸ビレを全力で振っておかえりってしたら、モネちゃんにも通じたみたいで、いつも通りまっすぐデスク横の僕のとこにきて、ちょんちょんってはなっつらを撫でてくれた。わーい。
はなっつらをちょんちょんと撫でてくれた後に、ぎゅっと僕を抱きしめるのもいつも通り。…なんだけど、なんか、あの、モネちゃん、いつもより、その、むぎゅがむぎゅむぎゅじゃないですかね。え、えぇ。まぁいうてもじょうぶなサメなんでダイジョブなんだけど、うわぁ、むぎゅむぎゅのむぎゅー。
なんか、モネちゃんの気持ちの匂いが、いつもの楽しかったと寂しかった半分ずつとはまた違った雰囲気。なんだろ、なんだろ。えっとねぇ、楽しかったと寂しかったはいつも通りなんだけど、ん-っとねぇ…。えー!分かんない!うむむ、スガナミとなんかあった?何かあったってのも、悪い事じゃなくて、なんかいい事っぽいんだけど、こんなモネちゃん初めてで分かんない!
思う存分僕をむぎゅむぎゅしたモネちゃんは、僕を元の場所に戻して、荷ほどきをする。荷ほどきをする間も、なんだかたまに物思いにふけってたりして、その横顔がなんだかドキッとする感じ。なんだろなんだろ。
そう思ってたら、コンコンって小さなノックの音が聞こえた。
やった!って思わず心の胸ビレでガッツポーズだよね。
「モネー、おかえり!」
ってドアから顔をだしたのは、すーちゃん!
すちゃんは、モネちゃんがスガナミんとこから帰ってくるって日は、できるだけハヤバン?ってのにして、モネちゃんが汐見湯に帰ってくるころに一緒にお茶したりご飯食べたりできるようにしてくれてる。(ってことを、すーちゃんがモネちゃんに言ってるわけじゃないけど、モネちゃんもすーちゃんがそうしてくれてることは気づいてる)
「すーちゃん、ただいまー!」
モネちゃんもすーちゃんが来てくれてうれしそう。そんで、荷物から登米のお土産のおやつを取り出したら、すーちゃんはポットにたっぷりの紅茶とマグを持ってる。そうやって、ちょこっとお茶しながら、すーちゃんがあれこれモネちゃんの話を聞くんだよね。そんでもって、そうしてくれると僕もいろんな話が聞けるからうれしいんだー。
まぁ、でも、モネちゃんの話すスガナミは、ひいき目で三割増しぐらいにかっこよくなっちゃってるから、その辺は割引かなきゃいけないんだけどさ。そしてすーちゃんも、多分ちゃんと割り引いて話を聞いてるあたり、さすがモネちゃんの幼馴染だし、スガナミのこともよく分かってるよなーって思う。
すーちゃんがずんだパイ久しぶり!うれしい!って嬉しそうで、モネちゃんもニコニコ。ふたりでおいしそうにパイほおばってるの、平和で素敵だなぁって思う。そんで、早速すーちゃんが登米のことを聞く。すーちゃんさま!がんば!もー、あれこれ聞きだして!
「菅波先生、元気だった?」
「うん。向こうに行って五か月経って、だいぶ仕事のリズムも落ち着いたみたい。訪問診療での呼び出しはあるけど、それも他の病院との連携も改めてまわるようになってきたって」
「最初の頃、やっぱり忙しそうでモネも心配そうだったもんねぇ」
「そーだったよねぇ」
モネちゃんがマグを両手で持ってしみじみしてる。
ねー。4月ごろはモネちゃんは自分の仕事も忙しかったけど、スガナミだいじょぶかなってずっと気にしてたもんね。てか、そんなにモネちゃんに心配かけさせるなスガナミ!って僕なんかはフカー!ってなっちゃったもんだけど。そんでも、それを頑張るのがスガナミだしなー。まぁ、しゃあないっちゃしゃあない。
モネちゃんが、初めて行ったベーカリーに二人で行ってパンを買った話をしてる。レーズンブレッドとメロンパンを買って、あとは、あんぱんにしようかってなった時に、モネちゃんがこしあん派で、スガナミはどっちかっていうと粒あん派だってことが分かったらしい。あー、そんで、スガナミはこしあんに譲ろうとして、モネちゃんは粒あんに譲ろうとしてお店でモダモダしたんだよ、きっと。って思ってたら、すーちゃんもおんなじ光景が頭に思い浮かびました、みたいな顔してる。ねー、なんかもー、ほんとすんません。
「で、結局どっちになったの?」
「こしあん。先生がどっちかというと粒あんなのって、お仕事が忙しい時にとりあえず食べるのに食べでがある粒あんを食べてたらだっていうから、今日は仕事じゃない日だからこしあんを、って」
そうやってモネちゃんにさらりと譲らせちゃうとこ、マジスガナミ。そう思ってたら、すーちゃんもおんなじ風にマジスガナミって思ってるみたいな顔してる。ねー、もー、(以下略)
「んで、その新しいベーカリーのパン、おいしかった?」
すーちゃんのその質問はとっても何気ない質問なのに、聞かれた瞬間にモネちゃんの顔がなんか、ぱってピンク色になった。あら、めちゃかわいい。え、なんだろなんだろ。なんか見たことないモネちゃん。そんでなんか、さっきの謎の雰囲気に近づいてる感じ!
あ!すーちゃんの目がキラーンって光った!これはあれですね?すーちゃんせんせいの出番ってことですね?よろしく頼んます、すーちゃんせんせい!
「えっと、モネ、あのさ」
「え、違うよ?おいしかったよ?」
すーちゃんせんせいの一言に、モネちゃんがすぐに返事するけど、いやねー、それ、モネちゃん、すーちゃんせんせいには通じないよ!
「もしかして、だけど、菅波先生とさ…?」
すーちゃんがモネちゃんの顔を覗き込むと、モネちゃんはすすす…って目をそらすけど、まぁ、そらすにも限界があるよねー。そんですーちゃんせんせいからは逃れられないわけよ、モネちゃん!
さっき、ぽっとピンク色になったモネちゃんのほっぺが、さらに赤くなってもう、かわいい!そんで、すーちゃんも、モネちゃんかわいいって思ってる。すーちゃんの視線から逃げきれなくなったモネちゃんが、5秒ぐらいかけて、ぎぎぎぎって音がするみたいにゆーっくり首をタテに振った。途端に、すーちゃんが、きゃーって声を出さずにきゃーって言って、両手で口を覆ってる。
えー、そんでモネちゃんのこの『うん』はなんのうん、ですか、すーちゃんせんせい!いや、その、そっかー、ついにかー、って感慨深げなのは分かるんですが、その、何が感慨深いんでしょーか!しょーか!ほっぺを染めたかわいいモネちゃんと、うむうむーってなってるすーちゃんせんせいに、全力で心の胸ビレをぱたぱたさせちゃう。
「やっぱり、先生から?」
「え、えー、どっちだろ…」
「え、モネからなの?」
「ちがっ、えと、その、先生がね、その、ずっと待っててくれたでしょ?」
「うん。ねぇ、モネももう何回登米に泊りに行ってんのって感じなのに、ずっと手ぇだしてこなかったんでしょ?」
え?スガナミって手ぇしまえるの?収納式?知らなかった!いや、知らんけど!
「すーちゃん、言い方」
「えー、だって」
すーちゃんのちょっとおどけたような様子に、モネちゃんもくすっと笑って、ちょっとリラックス見たい。
「うん。先生はずっと待ってくれたの。登米に引っ越す前にね、先生が言ってたの。私が先生に何気なく触れられるようになったら、って」
ん?ん?それなんか、僕聞いた事ある気がする!
えーっとね、えーっとね、そう!スガナミが登米にお引越しする前に、サメ棚のみんなが荷造りされちゃって、僕とモネちゃんとスガナミでごはん食べに行った帰りに、ちょこっとお花見したときだ!なんか、モネちゃんとスガナミが、なんかよくわかんない話してたんだよねー。はぁ、あの時のあれとこれが、フム?!
すーちゃんが、目で、それでそれで?ってモネちゃんに話かけてて、モネちゃんも逃げられないって思ったみたいで、白状モード。
「で、その、サメのしりとりをしたのね」
「はい?」
静かに聞くよモードだったすーちゃんが思わずツッコミいれちゃったよ。まぁ、うん、すーちゃん、モネちゃんとスガナミだからさ、サメでしりとりもするんだよ。あんまりね、気にしちゃ負けだよ。それにほら、サメでしりとりなんて、おもしろそーだし!
「その時に、先生のほっぺをむにむにしちゃってて」
「ほっぺをむにむにするんだ」
「なんか、先生が私によくむにむにするから、私もするようになっちゃった?みたい?」
「そーなんだ」
「で、あ、先生に何気なくさわれるようになってる、って私が気づいて、それで」
はい、おしまい!って感じでモネちゃんが話を打ち切って、すーちゃんせんせいもそれ以上は追及しない感じで、そっかそっか、って頷いてる。うーん、なんかよく分かんなかったけど、とにかく、スガナミがなんかずっとゴブリンシャークかソーダシャークかってぐらいに待ってたってことと、モネちゃんが待ってたスガナミに追いついたってことは分かった。
「やっぱり、帰る時、今までとは違った寂しさがあった?」
気遣うようなすーちゃんの言葉に、モネちゃんがこくん、って頷く。
「だよねぇ~」
ってすーちゃんが、モネちゃんのことをハグしてよしよし、ってしてる。なんかわかんないけど、スガナミともっと仲良しになれたってことなんだろな。モネちゃん、幸せそうだし。
「その代わり、また次会えるのが楽しみになるもんね」
「もー、すーちゃん!」
「だってそうじゃん」
からっと笑ってみせるすーちゃんに、モネちゃんは困り顔の笑い顔。
って言ってる間に、モネちゃんが明日の準備する時間になって、さ、お風呂いこっか、ってすーちゃんが立ち上がって、モネちゃんもうん、って支度にとりかかって。二人でお茶したお片付けとお風呂の支度を持って、で、キスマークとかつけられないの?ってすーちゃんが聞いて、モネちゃんが、え?ないよぅ、ないない、なんて言いながらお部屋をでてっちゃった。
はー、よくわかんなかったけど、とにかく、モネちゃんとスガナミがなんかもっと仲良くなることがあったんだなってのはよく分かった。まだフリルザメぐらい謎は多いけど、でもとにかくモネちゃんがうれしそうだから、うん、それでいいや。
って思ってたら!
お風呂から戻ってきて、すっかりおやすみの準備ができたモネちゃんが、お布団を敷いて僕のことを抱っこしにきて。僕をだっこして、お布団に入って、スガナミに電話をかけてた。うん、身体は全然平気です。はい。明日も気をつけます。先生も、疲れてないですか、って、スガナミと話してる時だけの、少し甘えた声でお話して、じゃあ、おやすみなさい、って長話しないで電話が終わった。
電話が終わったとたん、僕のことをむぎゅむぎゅーってして、声にならない声で、きゃーってじたばたしてる。いや、お布団ばさばさにってか、うわ、また、そのすごいむぎゅむぎゅですね?ですね?
「あのね、あのね、サメたろー」
え、あ、はい!なんでしょう!
「あのね、昨日と一昨日ね、全然みたことない先生だったの!」
ほ、ほほぅ、モネちゃんがみたことなかったスガナミ!それは僕もみたことないやつなのかなぁ。おうちですってんころりんしてたのとかはモネちゃんは知らないと思うけど…。
「なんかね、全然ひ弱じゃないし、キスだって今までとは全然違うキスもくれるの。それに、それにね」
ってそこまで言って、またきゃーって僕のことむぎゅむぎゅして。あがー!
なんかもう、ほんとにすっごくいいことがあったし、それがぜんぶスガナミのせいってこともよく分かった!
分かったから、モネちゃん、おちついてー!
「次の日の朝ごはんはね、ベッドで食べましょうなんて持ってきてくれるんだよ。それでね、メロンパンをはいってしたら、私の指までパクって食べちゃうし、もー!」
あの、もー!って言いながら、アナタめちゃくちゃうれしそうですよ。
てかスガナミは何やってんだ!ばくはつしろ!
「それでね、それでね、『僕はいつだって、あなたにかっこつけたいと思ってる』なんてちょこっとふてくされたりするんだけど、それもかっこいいの!」
うん、ひいき目ですね!
てかスガナミは何言ってんだ!ばくはつしろ!
きゃーってまた僕のことむっぎゅむぎゅにむぎゅむぎゅして、モネちゃんがひとしきり一人で静かに盛り上がってジタバタしてたら、しばらくして、そのジタバタが納まって、僕の吻をとっても優しく撫でてくれた。
「ね、また次に先生に会えるのが本当にたのしみ。たのしみなんだよ、サメたろう」
モネちゃんがそっと言うのは、寂しさの裏返しでもあることも分かる。
ね、楽しみだし、だけどそれまではさびしいもあるよね。
うん、モネちゃん、僕がついてるから!
すーちゃんには言えないスガナミのノロケも、僕が受け止めるから!
ただ、あの、今日のはそうね、なんか胃薬もらえるとうれしい、カナ…。
でも、こうやって二人が素敵な時間を過ごせてることを知れるのはほんとに涙出るぐらいうれしいよね。涙腺ないけど!