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    アヒルがすくない!菅波は悩んでいた。

    以前、助っ人に行った先にまた行くことになり、2泊の泊りがけ仕事。前回、この地に来た時に、百音が手配した宿泊先には、アヒルお出迎えサービスがあり、部屋に2羽のラバーダックがいた。しかも、毎清掃ごとに増える仕組みだったらしく、3泊で気づけば6羽になったアヒルたちを、家に連れて帰ると、百音はたいそう喜んで、サメ棚のサメ太朗に引き合わせている。

    日々、アヒルたちはサメ太朗の頭や胸ビレに乗っていたり、ジンベエザメと話をしていたり、サメ棚の上で遊んでいて、菅波も、ふと見たときに気ままなサメとアヒルの交流の様子に心を和ませていた。今回、また同地に宿泊するとあって、百音が腕まくりをして手配をしたのが、もちろん同ビジネスホテル。今回は2泊だから、4羽お迎えですね、とワクワクと自分を送り出す百音に、菅波が『僕の不在が寂しくないんですね』と拗ねてみせたのもむべなるかなである。

    しかし、もちろんアヒルを連れて帰れば百音が喜ぶことを分かっていて、菅波がアヒルを連れて帰らないわけはない。

    だのに。

    チェックインして部屋に入り、カードキーを入口すぐのスロットに差し込んで部屋の電気をつけ、上着をハンガーにかけて、キャリーケースをバゲージラックにのせて、その足でバスルームを見に行ったら、アヒルが1羽しかいないのである。

    必ずしも2羽いるわけではないのか?1羽の場合もある、ということか?

    菅波は、バスルームから1羽のアヒルを左手に乗せて連れ出し、居室のデスクに置いてやる。デスク前の椅子に座って、沈思した。予約時の何かのプランの違いだろうか。百音が転送してくれている予約メールを今回分と前回分見比べるが、泊数以外特に違いがない。泊数が長ければトータルのアヒルの数を減らすということもあるかもしれないが、前回が3泊で今回が2泊なのでそれも当てはまらない。

    謎は深まるばかり。
    とりあえず寝るか、とシャワーを浴びてベッドにもぐりこむ。

    翌朝、デスクの上でぽつんと1羽のアヒルに、いってきますを言って仕事にでる。夕方に仕事が終わり、ひとまずホテルに戻ってから何か食べにでるか、とホテルの部屋に戻ると、今度はまさかのバスルームにノーアヒルである。部屋に清掃が入った気配はあり、ベッドメイクもきちんとされている。だのに。

    デスクの上の1羽のアヒルが、なんだか不安げに自分を見上げているような気がして、菅波はちょんちょんと右手の人差し指でそのくちばしをつついてやった。

    とりあえず、くいっぱぐれる前に何か食べに行くか、と部屋を出て、職場への途上で見かけた蕎麦屋に入る。在りし日に初めて意志を持って百音と同席した食事以来、蕎麦屋ではつい天ざるを頼んでしまう。そばをたぐりながらも、てんぷらをめんつゆにつけながらも、しかし何となく気にかかるのはアヒルのことである。

    1羽でも連れて帰れば百音は喜ぶだろうが、4羽お迎えですね、とワクワクしていた顔が気にかかる。
    フロントに聞くしかないか?だが、なんと?部屋のアヒルのことなのですが、としか言いようがないが、本気で?
    でもやはり、1羽ではアヒル本人(?)も寂しかろうし…。

    アヒルの心境まで気にする支離滅裂具合に自分自身が気づかぬまま、食事を終える頃には、一度フロントに聞いてみるしかあるまい、と菅波は謎に腹をくくっていた。

    遅めのチェックイン客対応が多くなる時間帯、ホテルのフロントマンは順次、もう一人の同僚と共にチェックイン客を捌いていた。ひと波来た客を捌ききったところで、長身の男性が自動ドアから入ってくる。手ぶらで外出していた宿泊客だろうと、おかえりなさいませ、と声をかけると、そのまま通り過ぎるかと思ったその客が自分に足を向けてくる。何か用だろうか、と、待っていると、隣の同僚が対応している最後のチェックイン客の隣に立ったその男性は、何やら逡巡の様子である。

    「何かご用命でしょうか」
    フロントマンが水を向けると、40過ぎの猫背の男が、えっとですね、と首元に手をやりつつ、口を開いた。
    「あの、こちらの、アヒルのサービスなんですが」
    「はい。お気に召しませんでしたでしょうか」
    「いえ!いえいえ、あの、前回こちらにお世話になった時に、その、つ…妻が、大変喜びまして」
    「ありがとうぞんじます。奥様にもお喜びいただけて幸いです」
    「あの、それで、ですね」

    何やら言いよどみながら、猫背をさらに丸めたような姿勢で、男性が器用に長身から上目遣いで口を開いた。

    「前回、チェックインの時に、2羽いたアヒルが1羽しかいなくてですね。さらに今日、部屋に戻ったら、アヒルがバスルームに、その、いなくて」
    「それは大変失礼いたしました」
    「いえ、あの、そちらのご厚意のサービスだということは分かっているので、それはよいのですが、その、つ…妻が、今回は2泊なので4羽連れて帰るのか、と楽しみにしていたもので…」

    そこまで聞いたフロントマンは如才なく頭を下げ、少々お待ちください!と裏に引っ込むと、3羽のラバーダックを持って戻ってきた。

    「ぜひ、合わせて4羽、お連れ帰りください」

    男性は恐縮しきりながら、つ…妻が喜びます、すみません、ありがとうございます、と礼を言って、アヒルを受け取る。受け取ったアヒルを大切そうに左手の上に3羽載せて、頭をさげつつ、エレベータに向かう。妻が楽しみにしてたから、とフロントにわざわざアヒルのことを聞きに来るあたり、ガチだな…と思いながらフロントマンはその姿を見送った。

    その一部始終を、チェックイン手続きをしながら聞いてたビジネスマンは、『部屋に…アヒル…?』と頭の中にクエスチョンマークがいっぱいになり、部屋に入った早々、バスルームをチェックして、アヒルを発見している。

    これ、やっぱり連れて帰るべきなんだよな…とビジネスマンも、アヒルをスーツケースに入れたとかどうとか。
    ねじねじ Link Message Mute
    2023/07/20 22:56:01

    アヒルがすくない!

    #sgmn

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