サメたろーおにーちゃんせんせいになるモネちゃんとスガナミが一緒に住むようになって、ついに僕も何年ぶりか越しに古巣のサメ棚でジンベエくんやモケー君や他のサメたちと一緒に過ごすようになった。いっぴきぽっちで、モネちゃんの見守りアンド寄り添いサメをしてるのもよかったけど、やっぱりサメ仲間がいるってのは、それはそれでいいもんだよねー、なんて思う。
まぁ、それにしても、やっっっとこさ一緒に住むようになったモネちゃんとスガナミの、主にスガナミがそりゃもう毎日モネちゃんにデレデレで、もう目も当てらんない、って、サメ棚のみんなと心の胸ビレで目を覆う日々ってなもん。てかモネちゃんもそのスガナミをかわいいかっこいいってお構いしてんだから、そりゃもう、僕たちは毎日おなかいっぱいですよ。いや、めちゃくちゃうれしいことなんだけどね?けどね?
だけど、二人とも、夜通しのお仕事があったり、シュッチョーがあったりするから、時々、このおウチはひとりとサメ暮らしになる。モネちゃんがシュッチョーのときは、スガナミはモネちゃんが作ってくれといてたお料理をいそいそ食べる。単にご飯食べるだけなのにモネちゃんのことを思ってんだろ!って表情筋が緩みまくりだから、ばくはつしろ!ってなる。スガナミがいないときは、モネちゃんは、僕のことをやっぱりぎゅってする。そこは一緒に住むようになっても変わらないところだし、なんならスガナミが僕にいつまでもかなわないとこってかんじ。へへん。
スガナミがシュッチョーから帰ってくるって日、なんかモネちゃんはいつもよりソワソワわくわくしてた。なんだろ、なんだろ、ついにスガナミに背ビレが生えて帰ってくるとかなのかな。
ただいまー、って帰ってきたスガナミを見たら、特にどっかがサメになってるってこともなくて、なーんだ、って感じ。でも、モネちゃんにぎゅってハグするのはいつも通り。モネちゃんもそのスガナミをぎゅっとハグして、スガナミを見上げてる。そのモネちゃんのワクワクした顔に、スガナミがにやりって笑って、コートのぽっけをごそごそする。
サメの刺繍のハンカチから、なんだかきいろいのを取り出して、モネちゃんのてのひらにいっこずつのせてったら、モネちゃんがめちゃくちゃ弾ける笑顔!なになに、なにそれー!ね、気になるよね!!
ホホジロザメ(小)のちーちゃんとか、ネコザメのぬいのネコさんとかと、何だろなんだろって心の胸ビレをパタパタさせてたら、スガナミからきいろいのをぜんぶもらったモネちゃんが、にっこにこで両手のてのひらいっぱいにきいろいのをのせてこっちに来た。
「サメ太朗~、先生がね、アヒルちゃん連れて帰ってきてくれたよ」
僕たちに両手を近づけてもらって見えたのは、オレンジ色のくちばしにきいろいボディがむっつ。アヒルちゃんを?スガナミが?連れて帰ったので?なぜ?
「お部屋でアヒルちゃんがお出迎えしてくれて、大事に育ててくれる人は連れて帰ってあげてください、なんだって。ねー、私とサメ太朗でお世話しようね~」
ほうほう、なるほど、そういうことなんだ。
モネちゃんのてのひらの上のアヒルちゃんたちは、僕たちのことをキラッキラのおめめで見上げてる。アヒルちゃんたちを僕の前に一列に並べたモネちゃんは、晩ご飯の支度をしに、お台所の方にぱたぱたって去ってって。
「こんにちは!えっとね、僕はサメ太朗!」
とりあえずアヒルちゃんたちにご挨拶したら、アヒルちゃんたちも一斉にご挨拶してくれた。
『こんにちは!』
『こんにちは!』
『こんにちは!』
『こんにちは!』
『こんにちは!』
『こんにちは!』
うわぁ、ぴよぴよぐわぐわするー!
『サメたろー?』
『サメたろー!』
『サメたろー!』
『サメたろー!』
『サメたろー!』
『サメたろー!』
にぎやかー!アヒルちゃんたちは、心の羽をぱたぱたさせて、うっきうきみたい。
なんか、これは、お世話がたいへんだぞ!
思わず心の胸ビレを腕まくりしちゃうよね。
「君たちはどこからきたの?」
『あっち!』
『こっち!』
『ぽっけ!』
『おへや!』
『そっち!』
『どっち?』
うひゃぁ。ジンベエくんが、アヒルちゃんたちの自由っぷりに、あわわわってなってる。
うん、よし、おちつこ!
「アヒルちゃんたち、いいですか?きょうから、ここが、みんなのおうちです!サメのみんなといっしょにすむよ!」
僕が心の胸ビレを振ってゆっくりお話ししたら、アヒルたちは心のクチバシでぐわぐわ!
『おうち!はーい!』
『おうち!わーい!』
『おうち!おうち!』
『おうち!サメのおうち!』
『おうち!アヒルもだよ!』
『おうち!わーい!』
わーい、ってしてた1羽が、心の首をかしげてる。
『ねーねー!サメってなあに?』
『なあに?』
『なあに?』
『なあに?』
『なあに?』
『なあに?』
みんなが心の首をかしげてるから、僕はえっとね、ってちゃんとおしえてあげるんだ。
「サメっていうのはね、とってもカッコイイおさかななんだよ!」
ここで、スガナミだったら「サメというのは軟骨魚綱板鰓亜綱に属する魚類のうち、鰓裂が体の側面に開くものの総称で、ネズミザメ上目とツノザメ上目に分類されます」なんてガチ解説はじめちゃうけど、空気読めるサメの僕は、ちゃんとアヒルちゃんたちに分かる説明をする。えへん!
『かっこいい!』
『おさかな!』
『おさかな!』
『かっこいい!』
『すごい!』
『かっこいい!』
『サメたろー、ものしり!』
『おにいさん!』
『サメたろーせんせ!』
『アヒルのせんせ?』
『サメのアヒルのせんせ!』
『アヒルのおにーさんせんせ!』
アヒルちゃんたちは、おおはしゃぎで、ネコさんもジンベエくんも、こりゃあこれからお世話が大変だ、って笑ってる。なんだか賑やかになるネー。
そう思ってたら、着替え終わったスガナミが寝室から出てきて、サメ棚の僕らとアヒルちゃんたちを見る。つかつかっって近寄ってきて、僕の頭の上に2羽、ジンベエくんたちの頭の上に1羽ずつアヒルちゃんをのっけて、なんだか満足気にモネちゃんのとこに行っちゃった。
アヒルちゃんたちは、視界が高くなって、またおおはしゃぎ。
おち、落ちないでね!あぁあ、ジンベエくんがフカフカハラハラしてる…。
わー、これから毎日、アヒルちゃんたちのお世話がんばらなくっちゃ!
モネちゃんに任されたお世話、がんばるよ!
スガナミも連れて帰ってきたんだから、ちゃんとお世話しろフカー!!