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    モネちゃん 先生になる(中編)翌日、百音は午前中をWE本社で社長や朝岡、経営幹部に向けた漁港ネットワーク統括や津々浦々事業エリアリードの報告や討議に時間を費やした。社長に誘われたランチでは、津々浦々事業のスケーラビリティについて雑談めいた、しかし示唆の多い話を聞くことができ、東京本社出張ならではの刺激を得る。

    おそらく、この後に百音が講義での登壇を控えていることも社長は先般承知で、講義の際により熱を持って話すことができるようにといった焚き付けの意味もあったのだろう。ランチに同伴した朝岡も、百音が少しの話も漏らすまいとする様子に今日の午後の講義の成功を予感するのだった。

    では、東成大学に向かいますか、とWE本社を出て、槇塚キャンパスに到着したのが14時ごろ。勝手知ったる朝岡の案内で、指定の啓明館という建物に到着し、301教室に足を踏み入れた百音は、内心でふわぁ!と声を上げた。横幅もたっぷり広い階段教室で、資料投影のモニターも教室前方だけでなく、各所に天井から下がっている。大学の階段教室としては中規模な教室だが、いかにも大学の教学施設という階段教室を初めて見る百音には驚きの光景であった。

    教室には朝岡に授業を依頼した経営学部の
    教授が、数名の院生と共に二人の到着を待っていた。朝岡の紹介で百音と教授が名刺交換を済ませる。教授から、朝岡さんから永浦さんのお噂はかねがね。宮城県北でのお話を私も楽しみにしていました、と言われると、面映いものの、精一杯お話できればと思います、と丁寧に頭を下げた。

    持参したパソコンの接続や、印刷のために事前に送付していた配布資料のページ設定などが間違っていないことを確認すると、後は授業が始まるのを待つのみである。百音がざっと資料に目を通していると、教授が話しかけてくる。

    「永浦さんは、こちらのキャンパスは初めてですか」
    「はい。なかなか大学のキャンパスというところにはご縁もなくて」
    「せっかくですから、少し周辺をご案内できればと思いますが、いかがでしょう」

    百音が朝岡の方を見ると、朝岡も頷いていて、ここは教授のご厚意に甘えるところか、と百音は、ぞれではぜひ、と申し出を受けた。院生が留守番しますから、どうぞ荷物などはそのままで、と言われ、スマホだけを手に持って、教授と朝岡と共に教室をでる。建物をでる間も、大小様々な教室や、広く取られた廊下の各所に設けられた談話スペースやワークスペースが目新しく、建物をでれば、明らかに歴史的な建築と最新と思しき建築などが一定の秩序でならび、その間を樹々が埋めて木漏れ日が気持ち良い。

    こちらが理学部の研究棟で経営学部と共に昨年移転してきたので、建物も最新ですね。対照的なあの建物は建学時の教員棟でして、今はコミュニティスペースになっています、あちらは…、と教授の案内で歩けば、まるで公園の中を歩いているようで不思議である。どの建物に何なのか学生のみなさんは把握されているんですか?と質問をすれば、教員も学生も、自分が使うところ以外は意外とうろ覚えですよ、と教授が笑って答えるので、そんなものなのか、と頷く。

    さらりと周囲を回って、ではそろそろ戻りますか、と教授の道案内で元の建物に戻る。教室に戻ると、すでに学生が三々五々と席についていて、TAの院生が教室に入ってくる学生に資料を配布しているところだった。教授の案内で教壇に立った百音は、すでに投影機器に接続済みのPCにログインして画面表示を立ち上げ、手元にいくつかメモを書き入れた発表資料を用意する。導入部は教授と朝岡が話すため、教壇の機器の前に置かれた椅子に座った百音は、改めて教室を見渡した。

    多くは20~22歳ぐらいの若者だが、特別講義枠ということで、院生や社会人学生などもちらほらといて、意外と年齢層は幅広い。若い学生さんばっかりよりむしろ話しやすいかも、と、思ったところで、百音は我が目を疑った。階段教室の一番奥の端にひとり座って、配布資料に目を落としているのは、まぎれもなく百音の夫である。万年理系大学生のようなチェックシャツですっかり教室に溶け込んでいて、前日に散々読んだはずの資料を、まるで今日初めて読みますというように熱心にめくっているその左手には、百音が着けているものと同じデザインの指輪がさりげなく光っている。

    えっ、と百音が椅子を立ちかけたのと、チャイムが鳴るのが同時で、ひとまず百音は椅子に座りなおす。菅波は、百音が気づいたことに気づいたかどうかのそぶりも見せず、配布資料に目を落としたまま。チャイムに合わせて駆け込んできた数人の学生が配布資料を受け取って着席するのに合わせて、教授がマイクを手に取った。

    「それでは、今週の講義を始めます。今週も、ウェザーエキスパーツ社から、朝岡さんにご来校いただいています。また、今日は同じくウェザーエキスパーツ社より、宮城県北部を中心に活躍されている永浦さんにも起こしいただきました。気象データコンサルティングサービスのローカリゼーションと課題について、貴重な話を聞く機会です。きちんと話を聞いて、熱心な質疑をお願いします。では、朝岡さん、永浦さん、どうぞよろしくお願いします」

    教授からのバトンを受けて、朝岡がマイクをONにする。

    「もう、私の顔は見飽きてきたと思いますが、朝岡です」
    一言目で教室にさざ波のように笑いが広がり、百音はその話術に舌を巻く。この後に自分が話をしないといけないのか…としり込みする気持ちも生まれるが、準備を信じてやるしかない。と、そうやって自分を信じさせてくれた当の夫がなぜここにしれっといるのか、という疑問はさておくしかないが。

    朝岡が百音を紹介する流れに入ったので、百音も立ち上がり、紹介に合わせてぺこりと頭を下げる。朝岡による百音の紹介は、気仙沼営業所の立ち上げと展開にフォーカスをあてていて、もう4~5年前になる中継キャスターの経歴について言及しない。その塩梅に、この場において、あくまで地方における気象データサービスの専門家としての立ち位置で話を聞けるように、という朝岡の配慮が透けて見える。

    「では、ここからは、永浦さんにバトンタッチしたいと思います」

    朝岡の言葉を受けて、百音は手にしたマイクをONにする。
    「改めまして、ウェザーエキスパーツ気仙沼営業所で気象予報士をしている永浦です。本日はよろしくお願いします」

    では、とマウスを手に取り、百音は本日のアウトラインから講義を開始するのだった。
    ねじねじ Link Message Mute
    2023/08/09 17:50:50

    モネちゃん 先生になる(中編)

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