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    TOKYO お仕事DAY人によっては十分深夜に当たる時間帯に出勤のタクシーに乗り込んだ百音は、先生ちゃんと寝てくれたかな、と思いを馳せつつ、車が動き出すときにはいつも通りに業務用端末を取り出して最新の気象情報のチェックを始めた。久しぶりに会えた菅波のことは気にかかるが、仕事に支障が出ないように、と百音本人が不服に思うほどに気遣いをしてくれたことを思えば、一緒の時間を過ごすことで仕事がおろそかになるようなことを自分がしてしまうことは絶対に避けたい。

    端末に表示された諸情報に目を通し始めれば、百音の意識は一気に画面の中。莉子との打ち合わせに向けた情報の取捨選択と提案ストーリーを脳内でドラフトしたところでタクシーはJテレの地下の車寄せに到着する。おはようございます、と報道フロアに足を踏み入れた百音はすっかり仕事スイッチの入った表情で、いつもの一日を始めるのだった。

    一方、寝かしつけられたベッドの中から百音の出勤を見送り、夜更かし慣れしているとはいえ寝られるとなれば逆にいくらでも寝ようという菅波は大人しくそのまま就寝して、朝を迎えた。この日は終日、カンファレンスと研修の予定で、8時に大学病院の所定の会議室についていればいい。前日に買い置いていたコンビニのメロンパンを齧り、牛乳をすすりながらテレビをつけるのは、もちろん百音の中継を見るためである。見るなと言われても、こればっかりは、と、勝手知ったる時間ぴったりにチャンネルを合わせれば、両手にパペットを連れて溌剌と天気を伝える百音の姿が。

    凛々しく出勤して行った百音を思い出し、想い人が仕事に励む様子をこうして見ることができるという僥倖に頬が緩む。自分もこの人に恥じない仕事をしないと、と思って支度を進めつつ、どうせ今飲み切るのだし、と300mlの牛乳パックの注ぎ口から直接牛乳を流し込む行儀の悪さは、百音のいない隙を狙う悪戯心の現れか。

    簡便な食事のゴミを始末した菅波は手早く身支度をして出勤の態勢を整える。職場に着いてしまえば、後は仕事スイッチが自然とONになり、普段の登米の勤務とはまた異なる緊張感で時間は過ぎる。18時終了予定の研修が30分後ろ倒しで終了するまで、スマホを見る隙もあまりなく、同僚と共に慌ただしく昼飯をかき込んでいるときに、百音が退勤した報告を見た程度だった。

    研修終わりの会議室で配布物をファイルに仕舞っていると、数名の同僚から声がかかった。久しぶりに大学病院に顔を出した菅波から、登米の話を聞きたい、と食事の誘いである。部屋で待っているであろう百音のことが気にかかりつつも、こうして声をかけてもらえることはありがたく、また菅波としても同僚にキャッチアップしたい面もある。明日、中村の采配で入る手術も、菅波はその日1日手術に入るだけのところ、術前術後の管理は大学病院に日夜勤務する彼ら・彼女らが務めててくれればこそ。今日は誘いを受けるか、と菅波は諾を返した。

    更衣の隙に、百音にメッセージを送る。
    『すみません。同僚から食事に誘われました。明日の仕事の話もしたく、帰るの遅くなります』
    するとすぐに返信が来た。
    傘イルカくんが、敬礼をしながらりょうかいです、と話しているスタンプに続いて、メッセージも。
    『久しぶりだと思うので、ゆっくりしてきてください』

    短い言葉ににじむ思いやりに、菅波の口許が緩む。
    『ありがとう。あなたが寝る時間は超えると思うので、くれぐれも先に寝ててください』
    その返信に、ぷんすかしたコサメちゃんのスタンプが返ってきて、菅波が首をかしげる。
    『分かりました』
    『でも、先生も帰ってきたら』
    『ちゃんとベッドで寝てくださいね』
    『私を起こしちゃうかも、はナシです』
    昨晩、いや、今日の早朝か、に、起きたら隣にいなくて寂しかった、と訴える百音の抱擁が否が応でも脳裡に浮ぶそれらの言葉に、菅波の口許はさらに緩むしかなく。

    『はい』
    と極めてシンプルな返事を送っていると、隣で退勤の支度を終えた同僚が、何にやにやしてんの、と割って入ってくる。いや、別に、と言いつつスマホをチノパンにねじ込み、シャツを羽織る菅波は、へぇ~という表情で自分を見てくる同僚に、盛大にチベスナ顔をして見せるのだった。

    ホテルの部屋で菅波から遅くなるという連絡を見た百音は、本人が全く無自覚にとてもかわいいメッセージを送り、菅波から短いながらも素直な返事をもらったところで、さて、と顔をあげた。もう少しの時間会えないのは寂しいが、この部屋に帰ってくることは分かっているし、久しぶりの大学病院でこういったことがあるだろうことは想像もしていた。

    登米で一人で頑張る菅波にとって、大学病院の同僚医師と話すことはきっと良い刺激にもリラックスにもなるだろうし、それは自分にはできないことだ、とも思う。でも、金曜日の明日は先生遅くないといいな、と思いながら、百音は普段通りの時間の過ごし方にすることにして、20時に就寝する。菅波に安心してもらえれば、と『先に寝てます。おやすみなさい』とメッセージを送れば既読が付く。

    その既読を見届けた百音は、返信を待たずに広いベッドにもぐりこんだ。帰ってきた先生が寝やすいように、ごそごそと壁側に移動する。自分の傍らのひんやりしたシーツに手を滑らせ、今日は先生がちゃんと寝ますように、と思いながら、百音は目を閉じた。

    菅波がホテルの部屋に帰ったのは22時前。あいつらは遅くまで引き回すタイプでないから助かる、と思いながら、そっと部屋のドアを開くと、居室は常夜灯だけが点いている。よかった、寝ていてくれた、と思いながら、声を出さずにただいま、とつぶやいて部屋に入る。ベッドを覗けば、ベッドの隅の方で体を丸めるように寝ている百音の姿が。気持ちよく寝ているその姿に和みつつ、おそらく菅波が寝る位置を気にしたのであろう休み方に気づく。こうして泊りに来てくれているというのに、急に予定を入れる自分をこうして理解してくれていることに、本当にこの人は…と改めて形容しきれない思いが湧く。

    百音の思いを無駄にしないためにも、とさっさとシャワーを浴びることにする。シャワーを浴びれば数杯付き合った酒や食事の匂いもさっぱり落ちて、ようやっと百音に近づける気になる。スウェットに白Tシャツで、そっとベッドに滑り込むと、もぞり、と百音が動く。ゆっくり手足を伸ばすと、またもぞもぞと百音が動くので、起こしたかな、と菅波が百音を伺うと、百音は特に目を開けるでもなく、手をさまよわせて菅波の腕を見つけると体の向きを変えてもぞもぞと菅波の懐に入ってきた。

    そっと額を胸元に摺り寄せて、気持ちよさそうにまた寝息を立てている。無意識のその行動が、菅波にはいとしくてたまらず、でも起こしてはいけない、とそっと、百音の小さな肩に手を乗せるにとどめ、艶やかな髪にキスを落とす。明日は必ず早く帰ろう、と自分に言い聞かせつつ、菅波は懐中の温もりを慈しみながら、自分も眠りにつくのだった。
    ねじねじ Link Message Mute
    2023/11/25 13:49:42

    TOKYO お仕事DAY

    #sgmn

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