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    お付き合いしている方はいますか?梅雨が明けようかという頃。登米の地ではまだ冷房を入れるほどではないものの、部屋の中の空気が蒸しているような気がして、菅波は、外の風を入れよう、と寝室の掃き出し窓を薄く開けた。

    背後では、百音が風呂から上がった気配の音が聞こえている。菅波の元に百音が泊まりにくるのは2回目。菅波が東京に出た際に、一緒にホテルに泊まることもあるが、まだ「いつか」の手がかりはなく。それにしても、風呂上がりの永浦さんに動揺しなくなったんだから、人間何事も慣れだな、と菅波は自嘲しながら、百音が出てきたら髪を乾かそう、と、網戸がしっかり閉まっていることを確認して、リビングに戻った。

    風呂上がりの百音は上気した頬でさっぱりとした表情で、スキンケアを終えたばかりの素肌も目に眩しい。お風呂、お先にいただきました、と笑う百音に、どういたしまして、と笑顔を返した菅波は、百音が持つドライヤーを受け取った。百音がストンと床に座ると、菅波はその後ろに膝立ちになって髪を乾かす。

    風呂上がりにはお互いの髪を乾かす、ということが、じわじわと二人の間のお約束になっていることがくすぐったくもうれしい。百音の滑らかな髪に菅波が指を通して丁寧に乾かすと、百音も気持ちよさそうに目を閉じる。きっちりと根本まで乾かして、終わりました、と宣言すれば、菅波を振り仰ぐ笑顔もかわいい。

    じゃあ、僕も風呂に入ってきます、と菅波が乾かしたてのつむじにキスを落とし、ドライヤーを手に立ちあがると、あ、と百音が声をあげた。

    「あの、先生、お願いが」
    「何です?」

    菅波を見上げた百音は、リビングの隅に置いていた自分のボストンバッグに這い寄り、中から何かを取り出して元の位置に戻った。手にしているのは、菅波も診療所で折々に処方する覚えのある貼付材、いわゆる湿布である。

    「これを、背中に貼ってほしいんです」
    「あ、ええ。もちろん、構いませんが、どうかしたんですか?」
    「一昨日の夕方、押し入れの中を片付けてたら、なんだか変なところをひねっちゃったみたいで、痛みがあって。昨日、菜津さんのおじいさんに勧められて行ったクリニックで出してもらったんです」

    「え、大丈夫ですか?ここに来るのに無理して悪化したら…」

    話を聞いた菅波が焦るが、百音は、移動しても問題ないって言われたし、自分でも大丈夫だと思ったので、ときっぱり首を振るので、菅波も、会えることがうれしい以上、それより強くはモノ申せず。

    貸してください、と湿布を受け取って、どのあたりですか?と聞くと、向き合っていた体をくるりと半回転して、腰の上のこの辺です、と百音がパジャマの上から指さす。そのあたりは確かに自分では貼りにくい場所である。

    「それにしても」
    と外袋のジッパーを開けて湿布を取り出しながら、菅波が言う。
    「このタイプは自分ひとりでは基本的に貼りにくいのに、よくこれを出しましたね、その先生は」

    その言葉に、百音がくすりと笑うので、湿布を手にした菅波が首をかしげると、百音がまた体を半回転させて、また膝立ちになっている菅波を見上げた。

    「診察の終わりがけに聞かれたんです」
    「何を?」
    「ひとり暮らしですか?って。で、まぁ、シェアハウスだなんだ、って説明してもややこしいから、はい、って答えて。そしたら、ちょっと考えて、お付き合いしている方はいますか?って聞かれて。で、診察で聞かれてることだし、はい、って答えたら、じゃあ、これ出しておきます、って。でも、その時、私全然分かってなくて」

    「ということですね」
    百音の話に、菅波はじわじわと笑いをかみ殺す。

    「いつ、気づいたんです?」
    「薬局で湿布受け取って帰って、すーちゃんに貼ってもらったんです。その時に、こういうこと診察で聞かれたんだけど、なんだったんだろ、って言ったら、すーちゃんが、え、だから…!って」

    実家が三世代同居で、最初の就職は縁故のある下宿に暮らし、今は幼馴染も暮らすシェアハウスに暮らす百音は、一人では扱いづらい湿布を処方されても戸惑うことはなかったのだろう。

    「それで、すーちゃんに、今日のお泊りでは、ちゃんと『お付き合いしている方』に貼ってもらうんだよ、って言われました」
    と言いながら、頬を赤らめている百音が菅波にはかわいいやらおかしいやら。

    「その先生も、まさか、その『お付き合いしている方』がそこから470キロも離れた場所にいるとは思いもしなかったでしょうね」
    「でも、『お付き合いしている方』がいることは事実なので…」

    明日美にも散々からかわれた様子の百音が唇を尖らせ、菅波は思わずその唇にかすめるキスを贈った。

    「じゃあ、事実通りに存在している『お付き合いしている方』が責任もって、貼らせてもらいます」

    菅波の言葉に、こくりと頷いた百音は、菅波に背中を向ける。そっと百音が後ろ手で上衣の裾をまくると、初めて見る百音の腰と背中が目に入った。

    え、こんなに細いの、てか、肌がまぶs…と菅波は目が眩みながら、平静を装って、このあたりでいいですか?と、先ほど百音が示していたあたり、ほんの指先だけを触れて確認する。もうちょっと上です、このへん?もう少しだけ右、と、指先と言葉のやり取りを重ねたあと、確認を終えた菅波は、ペリペリと貼付材の保護シートをはがして、端からきっちり丁寧に百音の肌に貼る。貼った後、念には念を、でシートの上を手のひらでひと撫でして、できました、と宣言する。

    持ちあげていた上衣をおろした百音は、振り返って礼を言う。
    「ありがとうございます」
    「どういたしまして」
    至極生真面目に返事をしてやり過ごそうとした菅波に、百音が追い打ちをかける。

    「先生に貼ってもらうの、気持ちいいです」

    へへっと笑う百音の破壊力に、菅波は両手で顔を覆う。百音が首をかしげていると、菅波は、すっくと立ちあがり、床に座ったままの百音の髪をひと撫でして、じゃあ、風呂入ってきます、と洗面脱衣所に姿を消した。

    せんせい、そんなにお風呂すぐ入りたかったのに湿布のお願い聞いてくれたのやさしいな、と百音はその姿を見送り、当の菅波は脱衣所で、さっき見た百音の肌の眩しさに、またしばし両手で顔を覆ってうずくまっているのだった。
    ねじねじ Link Message Mute
    2023/12/11 14:43:03

    お付き合いしている方はいますか?

    #sgmn

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