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    モネちゃん 先生になる(おまけ)

    食事時を外れた学食には、何やらたむろしてだべっている学生グループや、ヘッドホンをしてテキストとノートを一人広げている学生などが思いおもいの場所に陣取っている。それぞれ会計を終えたトレーを手にした百音と菅波は、どこに座ろうか、と周りを見渡し、窓際の隅のテーブルに腰を下ろした。菅波のトレーの上には、プリンアラモードとホットカフェラテ。百音のトレーにもプリンアラモードとホットティーが載っているが、菅波のそれより器が一回り大きい。

    着座した百音が、膝に両手をおいてワクワクとしている様子がとてもかわいく、菅波は目じりが下がりっぱなしである。二人して、いただきます、と手を合わせて、紙カップのホットカフェラテとホットティーをこつんと合わせれば、さて、と、百音は早速スプーンを取り上げた。

    「プリンふたつなんて、とってもスペシャルですねぇ」
    と言いながら百音がプリンにスプーンを入れると、上にかかったカラメルもとろりと流れていい景色である。かためプリンなのがまたいいなぁ、と口に運び、美味しい、とまた笑顔。その笑顔に、よかった、と菅波も笑顔を返し、飲んでいたホットカフェラテの紙カップを置いて、自分もスプーンを取り上げた。

    「先生はスペシャルじゃなくてよかったんですか?」
    「いやぁ、もうさすがにプリン2個にホイップクリーム倍量はこの年になると」
    百音の言葉に苦笑して、菅波は同じくプリンにスプーンを入れた。

    「私も昔ほどは甘いもの食べれないですけどね」
    「それだけ食べようと思えてたらまだまだですよ」
    「まぁ、こんなプリンアラモード・スペシャルが400円って言われたら、こっちにしちゃいます」
    「こっちの普通のが250円なんだから、倍ですらないしね」

    学食に到着して、プリンアラモードとプリンアラモード・スペシャルを二つ見つけた百音が、とても真剣に悩みはじめた様子を思い出した菅波が思い出し笑いをこぼすと、百音は大事なことです、と真面目くさって見せた。

    「これ、先生の方にはないからどうぞ」
    と百音がひょいと自分の皿から菅波の皿に移すのは2枚のメロンのスライスの内の1枚である。プリンとクリームだけじゃなくて、フルーツも種類が多いのはスペシャルの名に恥じないもので、菅波は、ありがと、と笑う。

    「あー、それにしても、緊張しました。ほんと甘いものが染みる~」
    やれやれ、と安堵の表情でスプーンを動かす百音に、菅波は、全然緊張してるように見えませんでしたよ、と慰め度ゼロの口調で返事する。人前に立ったり、人に伝える経験は、テレビ中継でもラジオでもしっかり積んでるのが活きてるなぁ、って思った、と真顔で言う菅波の言葉に、百音ははにかむ。

    「予定の講義時間も5分オーバーで納まりましたしね」
    「あれはどちらかというと、朝岡さんが予定よりエピソードを挟んだからだと…」
    「朝岡さんだから仕方ないね」

    朝岡さんの合いの手はほんとに聞いてて絶妙で、トップキャスターだったのは伊達じゃないって感じだった、と、菅波が頷くと、そうなんですよ、ほんと、いつまでもかなわないです、と百音が嘆息する。少しずつ、頑張ってください、という菅波の言葉に、百音は端的に、はい、と頷いた。

    「今日上がっていい、って言ったのも、先生が来てるの気づいたからですよね」
    「多分ね」
    「っていうか、ほんと、先生見つけたときには講義の内容が頭から吹っ飛ぶかと思いましたけど」

    百音の恨みがましいまなざしに、菅波はばつの悪い顔で首をすくめて上目遣いではにかんでみせる。まぁ、やっぱり、東成大で百音さんが講義するって聞いて、もぐりこまないわけにはと思って、とごにょごにょ言う菅波に、百音は唇を尖らせてみせる。

    「百音さんに詳細を聞けなかったから、すっかり白山台キャンパスに行くつもりで時間の調整してたので、キャンパス移転しててちょっと焦りました。槇塚が白山台より大学病院に近くて良かったですよ。これが逆だったら間に合わないところだった」
    「間に合わなくてよかったですぅ」

    菅波が漏らした舞台裏の話に、百音が本心ではないが多少はそう思う、という口調でまぜっかえす。いやいや、そうしたらタクシーを飛ばしてでも、と菅波がかぶせるので、百音はもういいですー、と菅波のプリンアラモードの皿から、ホイップクリームをスプーン山盛りに奪って口に入れてみせる。なんの、と菅波も百音の皿からホイップクリームを一口奪い、ぺろりと食べた。

    それにしても、朝岡さんの話を聞いて初めて知ったけど、あのストレージサービスの話、ウェザーエキスパーツ社の本社の元の持ち主の倉庫業者まで繋いでもらってたんですね。なるほどなぁ、と、講義で聞いた話を菅波が口にすると、そうそう、と百音が身を乗り出し、空気はすぐにいつも通り。

    しばし講義を二人で振り返っていると、窓に向かって座っていた菅波が、あ、と何かに気づく。百音が振り返ると、朝岡と教授が何か話しながら歩いているところだった。二人の向かう先は、先ほど教授がキャンパスツアーをしてくれた折に聞いた教員棟の方と思しい。ホントに朝岡さんはパワフルですねぇ、と百音がしみじみとその背中を見送る。いやぁ、その朝岡さんにざっと10年弱鍛えられてる百音さんも世間から見れば十分にパワフルですよ、と菅波が笑う。まだまだですよ、と百音はえいっと2つ目のプリンにスプーンを入れる。そうやってまだまだって思うのも、やりたいことや行きたい先が見えていてこそだから、きっと、と菅波はその姿を眩しく見つめる。

    そうして見つめられて頬を染めた百音は、先生がこうして、話聞いて、おいしいもの食べさせてくれるから…と言いながら、ふと自分の手許の皿に目を落とした。

    ん?と菅波が首をかしげる。

    「そういえば、先生はこのプリンアラモードって大学生の時に食べたことあるんですか?」
    「1回か2回ぐらいかなぁ。言ってた通り、医学部はここのキャンパスじゃなかったから」
    「文化祭の時に?」
    「いや、文化祭の時はそれどころじゃない人出ですからね」
    「じゃあ、どんな時に?」

    あー、と菅波が妙に言いよどむのに、あー、と百音も何かを察して続きの質問を飲み込む。
    「あの、いいです、答えなくて」
    「別にその、答えたくないわけじゃないけど。まぁ、初めて槇塚に来た時に理学部の同期に連れられたこともあったし、当時交際関係にあった人ともここに来たことはあったので…。でも、そんな話聞きたくないでしょ」
    「んー、まぁ、先生が学生時代にお付き合いしてた方がいたかもなのは、そうかなって思うから、それは別に…」
    百音がまぁ、それはそれで、という顔をすると、それはそれでなんだか、という顔になる菅波は、我ながらややこしい自分だな、と思う。

    「その方とは、どんなきっかけだったんです?」
    え、何なの、百音さん、それ、ただの好奇心?これ、どういう答えが正解?と高速で考えを巡らせつつ、何が正解かも分からないが、百音からの問いに答えないという選択肢を持たない菅波は、えぇと、とどもりながら口を開く。

    「医学部の同期で茶道部にいたのがいるって知ってるでしょ」
    「時々、先生に助っ人をお願いしてた方ですよね。呼吸器内科の」
    「そう。その茶道部の茶室がここの槇塚キャンパスにあるので、その関連でも時々来てたんです。まぁ、その茶道部つながりの情報理工研究科の方でした」

    菅波の訥々とした話に、百音はふむふむと頷き、えっと、これで足りた…か?と菅波が様子をうかがう。

    「情報理工研究科?」
    「簡単に言うと、コンピュータやプログラミングとか、情報処理について研究するところです」
    そこか、と、百音の着眼点に心中のおかしさを噛み殺しつつ、菅波は聞かれたことに答える。
    その答えを聞いて、あぁ、と百音が手を打つ。
    「先生、表計算ソフトとかも詳しいですけど、もしかしてその方と?」
    あぁあ、話が終わらない、と菅波は、まぁ、色々助言ももらったことはありました、と頷きつつ、自分の皿の枝付きのチェリーを百音のホイップクリームの上に置いた。

    置かれたチェリーを百音がまじまじと見て、それから菅波を見る。
    眉根を寄せて上目遣いでこちらを見てくるしょぼくれた大型犬のような様子に、百音はなんだかとても面白くなって、ひょいとそのチェリーを口に入れた。

    もぐもぐとチェリーを食べて、百音はにこにこと菅波を見る。
    「プリンアラモードを食べに行こうなんて言わなかったら、昔の話聞かれなかったのに」
    「講義頑張った百音さんが喜ぶかな、ってそれしか考えてませんでした」

    本当にそれしか考えていなかったんだな、と菅波の様子に百音は大きくプリンをほおばり、菅波は、古巣のトラップとはこのことか、とぬるくなったカフェラテをすするのであった。
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    2024/01/28 23:24:58

    モネちゃん 先生になる(おまけ)

    #sgmn

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