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    先生、新しいタロウに出会う百音が登米の菅波のもとに来るのは2回目という初夏のある日。その日も登米夢想でふんだんに持たされた総菜類を提げて菅波の家にたどり着いた百音が、冷蔵庫にタッパー類を仕舞おうとして台所で目にしたのは、口をざっくりと折り曲げた紙の米袋だった。百音には見慣れたみよ子の家で使っている30kgの容量の米袋は中身がずっしりと入った様子で、ひとり暮らしにはまあ多いよね、と百音はおもいつつ、まずは保存容器一式を冷蔵庫にしまう。

    冷蔵庫の用事を済ませた百音が、お米、どれぐらいあるんだろ、と米袋をのぞき、それから台所を見渡して、シンク下の扉をあけてみて、あれ?!と声をあげる。ちょうど百音に遅れて他の荷物を提げて部屋に入った菅波が、その声を聞いて、どうしました?と台所に顔を出した。

    「先生、お米ってどこにしまってます?」
    「え、その米袋のままです。みよ子さんがこないだ玄関前に置いていって。運び込むのに一苦労でした」
    「ひよわ…」
    「え?」
    「あぁ、えと、これはこれとして、精米したお米はどこにしまってます?」

    百音の最後の一言でやっと意図を理解した菅波が、そこに…と米袋を指さす。若干よりもう少し多めに会話がかみ合っていないことに双方が気づきつつ、何がかみ合っていないのか二人の手探りが始まる。

    「でもこれ、玄米のままですよね」
    「玄米でもらったので…。栄養価が高いのは分かるのだけど、つい食べそびれてなかなか減りませんね」
    「え?」
    「ん?」
    「精米しないんですか?」
    「精米機持ってないですし」
    「だってコメタロウで…」
    「コメタロウ?」

    4往復の会話で、やっと百音がかみ合ってない点を理解して、ぽん、と手を打つ。
    「先生、帰ってきたとこですけど、これ、精米しに行きましょう」

    百音の言葉に、菅波は分からないなりに、はい、と頷く。
    じゃあ、これの口を閉めて…と百音がくるくると米袋の口を丸めて紐を結び、よいしょ、と米袋を持ちあげようとするので、慌てて菅波がもちます、持ちます、と、米袋を玄関に引きずった。車の後部座席にドサリと置かれた米袋に、百音が当たり前のようにシートベルトをかける。

    「え?シートベルト?」
    「お米の重みでシートベルトしてません警告が鳴りますもん」
    あぁ、米がかわいいからとかそういうことでなく、と菅波が頷くと、お米はかわいいですけど?と百音が首をかしげるので、菅波は笑ってごめんなさい、と頭をさげた。

    菅波が運転席に、百音が助手席に乗り込んで、さて、どこへ向かえばいいですか?と菅波が問うと、百音は近隣のスーパーを指定する。菅波にも覚えがある場所で、そこに?と頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、しゅっぱつしまーす、と小さく言いながら車を駐車場から滑り出した。

    ものの10分も走れば、百音にもなじみで、菅波も使い慣れたスーパーに着く。あの、右手奥の方に停めてください、と店の出入り口から離れた方を指定され、フム、と菅波が車を向けた先、駐車場の端に、掃き出し窓のような引き戸のついたプレハブと掃除用具箱が並んだようなものが2組見えた。目を凝らすと『コメ太郎』と書いてある。あぁ、さっき永浦さんが言ってた『コメタロウ』は『コメ太郎』なのか、と菅波は心中でうなずきつつ、そういえばこれが何か気にしたことがなかった、と、『コメ太郎』に一番近いロットに車を停めた。

    菅波が米袋を抱えて、二人で『コメ太郎』に向かうと、チュンチュンと雀の鳴き声が聞こえる。頭上を見ると、数羽の雀が周囲の木に遠巻きにとまっていていて、さらに数羽が集まってくる様相。
    「精米のおこぼれねらいなんですよ」
    百音がかしこい子たちです、と笑うので、菅波がなるほど?と頷く。

    掃除用具箱のような大きな箱には「米ぬかはご自由にお持ちください」とでかでかと張り紙がある。
    「米ぬか?」
    「んだって、精米したらぬかがでるじゃないですか」

    手が空いている百音が、ぱかりと箱の扉を開けて見せると、米ぬかまみれの箱の中では足元に区切りの板があって、区切りの上からはダクトが伸びていて、下に米ぬかが溜まっている。おぉ、と菅波が感心して見せる様子が面白く、百音はちょっと得意げに、こう、隣の機械で精米して、ぬかがこっちに飛んでくんです、と説明すると、菅波は素直にふむふむと頷く。菅波に何かを教えられる、ということが百音にはなんだか楽しく、じゃあ、精米しましょ!と、本体の『コメ太郎』の方に向かった。

    サッシの戸をからりと開けて菅波を中に誘い、自分も入った後にサッシの戸を閉める。菅波は興味深げに目の前の機械を眺めている。ふむ、と構造を理解しようとしている様子に、あぁ先生だなぁ、と百音は自分の口許が緩むのを自覚する。

    「ホントは食べる分だけ精米するのがおいしいんですけど、先生がマメに精米するのも大変だし、30キロやっちゃいましょうね」
    と百音が料金投入口に100円玉を3枚投入すると、『玄米投入口』と書かれた戸が上にガコンと動いて開いた。百音の慣れた様子に、菅波はいわれるがままに、抱えていた米袋からそこに玄米を流しいれる。

    白さは標準でいいですか?と百音に聞かれ、おまかせします、と菅波が頷く。はーい、と百音が7個並んだ赤いボタンの内の一つをぐっと押すと、精米機がうなりを上げだす。投入した玄米がじわじわと嵩を減らし、百音の頭上ぐらいにある『確認窓』なるアクリルの窓から、精米された米が飛んでいる様子が見える。5分ほど、モーター音を聞きながら、玄米の嵩が低くなっていくのを二人して見守り、百音が、こんなに『コメ太郎』が動いてるとこ真面目に見るの初めて、と笑いを漏らすと、菅波は何もかもが初めてです、と生真面目に頷いた。

    モーター音が止まり、『玄米投入口』がガコンと閉まる。百音の指示で菅波は空の米袋を『白米出口』と書かれた空間に広げた。
    「しっかり持ってくださいね」
    と百音に念押しされ、菅波は、はい、とこれまた生真面目に頷く。
    「じゃあ、そこのレバー踏んでください」

    菅波が言われた通りにレバーを踏むと、小気味よい音と共に広げた米袋にざあざあと精米されたての白米が流れ落ちる。
    「おぉお」
    思わず漏れた菅波の歓声に、百音も、ね、なんか気持ちいいですよね、と流れて落ちる白米にさらさらと指を絡ませて、久しぶりの感触を楽しむ。懐かしさを湛えたその横顔に菅波が見惚れているうちに、すべての白米が流れ落ちた。これでおわりかな、と菅波が思ったところで、百音がバンバン!と勢いよく精米機を叩くので、菅波が目を白黒する。

    「な、永浦さん?!」
    「途中にお米が引っかかって残ってることがあるので、こうやって最後は叩くんです!」
    と勢いよく叩いていると、確かにパラパラと米が落ちてくる。あぁ、なるほど…と頷きつつ、そんなに叩いて壊れないのかな、いや、壊れないから叩いてるんだよな、と、菅波はどこまでも自分の根が都会モノであることを思い知らされたような気になるのだった。

    百音の、もうオッケーです、というGOを受けて、菅波がくるくると米袋をまとめ、よっと持ちあげる。
    「さっきより軽い気がする」
    「大体1割ぐらいは減りますからね」
    「そりゃそうか」

    言われてみればその通りなのに、いざ事態を目の前にすると考えが及ばないもんです、と菅波が小難しく言うので、その菅波ぶりが百音には楽しくてたまらない。改めて米を後部座席にのせ、今回は菅波が米にシートベルトをかけてやる。百音が、よかったねぇと笑いながら米袋を撫でるのも面白く、じゃあ、帰りますか、と二人は来た道をまた戻っていくのだった。

    その日の晩ご飯は、おもたせの総菜に、精米したて炊き立てのみよ子の米。菅波は精米したての白米の味わいに、目を白黒させ、こんなにうまいものですか、と2回おかわりをする始末で、百音を大層喜ばせた。おかわりを注いだ茶碗を持って台所から戻った菅波が早速箸をつける様子を百音が嬉しそうに見守る。

    「白いご飯がこんなにうまいと感じるとは…」
    しみじみと箸をつかう菅波に、百音は、しばらく玄米だったんですもんね、と笑う。
    「朝、玄米を浸水して家を出るのを忘れた日には、毎度絶望の気持ちでした」
    「そんなに」
    「一度、瓶に1合だけ玄米を入れて、棒で撞いてみようかとしたのだけど、8分づきぐらいになったところで諦めました」

    菅波のあまりの思い余りぶりに、百音が笑いころげ、まぁこうやって永浦さんが笑ってくれるなら、それもいいか、と菅波も笑う。
    「どうしてその精米方法知ってて、『コメ太郎』知らないんですか」
    笑いながらの百音の言葉に、箸をおいた菅波が頭をかく。
    「瓶で撞く方法は本で読んで知ってましたから。やってみることがあるとは露ほども思わなかったけど」
    「私だってやったことないですよ、それ」
    こんどやってみよう、と笑う百音に、たっぷり時間が合って予定のない日にしてください、と菅波が真面目に言い、そうします、と百音も笑顔のまま真面目に頷く。

    「それにしても『コメ太郎』ってネーミングもなんというか」
    「え、かわいいじゃないですか、『コメ太郎』。ウチの島にもありますよ、『コメ太郎』」
    「サメ太朗にコメ太郎に、宮城の人は何にでもタロウをつけるんですね」
    「サメ太朗もコメ太郎もかわいいじゃないですか」
    「まぁ、確かに」

    これは反論するほどの材料もなく、と菅波が会話を納めれば百音もくすくすと笑い。私もおかわりしよっかな、と茶碗を持ってたちあがり、めいっぱい食べてください、と菅波はその姿を笑顔で見送るのだった。
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    2024/02/23 18:38:55

    先生、新しいタロウに出会う

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