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    日々のしらべ
       弟へ

     やあ、調子はどうかな。何もおかしなところがないといいのだけれど。お前はこの部屋に戻ってくるまでにどれくらいかかっただろうね。大層な出迎えだったろう。
     本当は、お前が帰ってくる日だからと気を遣ってもらって午後からは非番になっていたのだけれど、遠征部隊に急な欠員が出てしまってね。短い遠征だから僕が代わりにいくことにしたよ。帰ってくるそのときには間に合わないだろうけど、お前の帰還のすぐ後に僕も戻る予定だ。
     初期刀くんは僕には出なくていいと言ってくれたのだけれど、僕の方からお願いしたんだ。どうにも、お前がいない時間というのは落ち着かなくてね。以前はそれが当たり前だったのに、不思議なものだよね。
     こうして筆を執るのは、随分久しぶりな気がする。僕だってお前が今回そうしたように、主に三通の手紙を書いた。だからこれは、お前に書くのが久しぶりということだ。
     主に手紙を書いたときも思ったけれど、こうして何かを書きつけるというのはやっぱり慣れない。報告のように事実を書くのはいいんだ。どこに行った、どういう目的で、そこで何があった……そういう事実の羅列は、僕にとってもそう難しくない。だけど、これが何を感じているか、どう思っているのかになると話が違う。まるで、心なんていう形のないものを当てずっぽうで切り分けているような心地だ。切り分け方を間違えてしまえば、もうそのときの心はどこにもなくなってしまう。だから、名前をつけるなんていうのは、今でも僕にとってはあてにならないもののように思える。そして、この心を切り分けるようなことをずっとやってきたお前の果敢さに驚く。
     お前がこうして旅に出て、今日帰ってくることを、僕は嬉しく思っている。お前は以前、僕と共に在ることがとても嬉しいと書いてくれたけれど、それは僕にとっても同じだ。あのときは、お前にそれを書いてやれなかったから、ちゃんと伝えておきたかった。だからこうして、久しぶりに筆を執ったというわけだ。
     でもやっぱり、難しいね。お前に伝わっているだろうか。お前もずっと、こんなに不安だったんだね。
     あのあともしばらくお前から手紙をもらったけれど、それも僕たちが練度上限になれば本丸に控えることが多くなって、書き置きをしなくてよくなったから、随分と減った。その分碁を打てるようになったのは嬉しかったけれど。でも僕たち、互いの手の内は分かり尽くしているからねぇ。強くなるには、もっと研究が必要かな。
     ね、どうだい。こういうことは考えると楽しいよ。碁も、戦働きも、僕たちにはこれからがある。ふたりで一緒にいる、これからの話ができるんだ。僕はそれが本当に嬉しい。千年も刀やってて、こんなにも嬉しく思うことがあるなんてね。
     結局、僕がお前にあてて書いたのはあの一通、ただの一言だった。あれに比べれば、僕もずっと書けるようにはなったよね。だけどやっぱり、僕のお前に伝えたいことは、あれ以上にはないとも思うよ。
     お前がそうしたというように、僕もお前からの主への手紙は読まなかった。お前がここへ帰ってくるのが分かれば、それでいいんだ。そしてお前が必ずそうすることを僕は知っている。
     お前がこの手紙を読む頃、僕も帰ってくるだろう。だから、そのまま待っておいで。僕が遠征に行く代わりにと、初期刀くんが明日は僕たちを揃って非番にしてくれたんだ。お前の好きなおやつも買っておいたよ。だから今夜は、お酒を飲みながら碁を打とう。
     僕たちにしかできない、懐かしい話をしよう。そうして、これからの話をしよう。

    お前の兄より
    真白/ジンバライド Link Message Mute
    2022/09/07 22:35:00

    日々のしらべ

    「留守のたより」のふたり
    2021/10/10膝髭Webオンリー「おとうととぼく」でのネップリだった話です

    #膝髭 ##膝髭

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