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    しおり
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    しおり
    卯ノ花腐し
     朝から薄暗いとは思っていたが、とうとう降り出した。
     庭木からぱらぱらと音が立つのに気がついて、国広はつい空を見上げた。曇ってはいるが、ほの明るい。このまま豪雨に、とはならないだろう。
     さいわい、内番で手合わせをしている御手杵と骨喰藤四郎に茶を届けて戻る道だったので、濡らしてしまって困るものは持っていない。引っかけている布を頭に被ると、国広は心持ち早足で裏庭へ向かった。
     布に雨の当たる感触がある。細かな音がする。土と草が匂い立つ。
     審神者が景趣を梅雨に変えてからそろそろひと月経つ。あと一週間もしないうちに夏に切り替えられるだろうと思うと、この薄暗さも静けさの鳴ったような雨音も名残惜しい。じとじととした空気に辟易としていたというのに勝手なことだ。去り際に限って惜しくなる。
     景趣は審神者が設定できる。つまり、年中人間の過ごしやすい気温・湿度にしておくことも可能なのだが、国広たちの主はそうせず、現実世界の暦に合わせて季節と時間を変える。
     手間じゃないのか、と訊ねたのは白布が手放せなかった頃だ。まだ本丸が始まって一年も経っていない、あのときの審神者は雪見障子を覗きながら鼻を啜っていた。冬に季節を変えた途端、軽い風邪をひいたのだ。
     夏には暑さで食欲が失せてしまって燭台切光忠が心配しているのを見かけたことがあったし、薬研藤四郎の「疲れが溜まってるんじゃないか?」という言葉も忘れられなかった。こんなに簡単に空気の温度や湿度に振り回されるのだ。選べる季節をわざわざ変えてしまわなくともいいんじゃないか――そう伝えたかった。
     心配させないでくれとそのまま言う気概がなかったための言葉だったが、審神者は言いたいことを分かってくれたらしい。少し申し訳なさそうに、変わってしまうのを忘れたくなくて、と笑った。
     そんなものか、と思っていると、審神者はまたしげしげと雪見障子の向こうを眺める。随分と気になっているようだった。
    「俺の住んでいたところはこんなに雪が積もることはなかったから、珍しいというのもあるよ」
     雪って音も吸い込んでしまうんだなぁ、という呟きに、雑じり気のない驚きが滲んでいたのも覚えている。
     あのときはピンと来なかったが、今は少し、変わってしまうのを忘れたくないという気持ちが分かる気がする。時を重ねるごとに惜しむものは増えていく。恐ろしくもあるが、今となっては、それを惜しまなくなるのも同じように恐ろしいことのような――
     ぼんやりと懐かしい日を思い出していると裏庭に出た。国広はある部屋の窓を見上げた。かつてはなかった癖だったが、ここに来るとそうしてしまう。
     目当ての窓は細く開いていて、雨が降っているのに、と思ったとき、白い手が伸びて静かに窓を閉めた。
     あの手の持ち主と国広は、明日遠征に赴く予定となっている。

     罰則として一年計画で国広と長義の予定に捩じ込まれた遠征はほぼ月に一回の頻度で組まれている。これもう罰則というよりただの当番じゃないか? とも思うのだが、長義は毎回飽きもせずに不服そうな反応をする。その顔を見ると、なるほど罰則だ効いている、と国広は頷きたくなるのである。
     冬に初めてふたりで赴いた遠征で、最後の最後に言い争いのような形になったことに国広は少し落ち込んでしまったのだが、落ち込んでいても仕方がない、と顔を上げることにした。毎日は続く。同じ日は来ない。俯いて過ごすには、あまりに惜しい。話をしたい相手は、すぐ近くにいるのだから。
     遠征の予定が組まれている以上は定期的に顔を合わせる。だから、焦らないことにした。
     次の遠征の日、執務室に向かうと、先にいた長義は涼しい顔をしていた。優美な微笑をたたえて近侍の加州清光と話をしている。国広が来たのに気付くと、一瞬だけ表情が失せ、そしてすぐに勝気な笑みに変わった。
    「時間通りだ。えらいじゃないか、偽物くん」
    「写しは偽物とは違う」
     そのやりとりは、清光の「はいはい、やめてね」という言葉で打ち切られたが、いつもの調子で喋り出したことに安堵した。彼は彼らしく、こちらと接する気がまだあるらしい。それでいて、一瞬とはいえ表情を失くすという反応を見せたことに言い様のない感情を覚えていた。皆にやっているような、ただ義務感でもって与えられる折り目正しい態度ではなく、飾らない冷たい真顔を自分には見せる、その心に興味がある。

     焦らないとは決めたのだが、それとは別に気になることは気になる。
     ――話をしようと言いながら、お前、本当に話をする気があるのか。
     誰かの言葉が自分の目を改めて開かせることがある。普段から事実を小気味よく整頓してみせる長義の言葉も、国広にも「話をすること」についての新しい切り口を見せた。
     とはいえ、自分の話をせずに相手の話を引き出すというのは難しい。
     その遠征での長義もまったく黙り込んでいるわけではなかった。事務的なやりとりには過不足なく応え、そのとき国広のことを「偽物くん」と呼ぶ。毎回「写しは偽物ではない」と応じる国広がそうであるように、長義も自分の在り方を変えるつもりはないらしい。
     自分だって退く気はないのだが、「自分のことでいっぱい」と言われたことを思うと言葉が喉元で詰まってしまう。そもそも自分から「話をしよう」と言っておきながら一年もろくに話ができなかったのである。同じ部隊で出陣することも内番を組まされることもほぼなかったためではあるが、話をどう切り出せばいいのか思いつかない。話をしたい、しかし、何をどう話せばいいものか。
     そうして次の、そのまた次の遠征を、国広は逡巡の中でただ調査を進め、資材を確保し、帰城するだけで終わった。世間話でさえ、なにひとつすることなく。
     どうしろというんだ……と一度は上げた顔を伏せてしまった国広を山へと連れ出したのは、山伏国広だった。本丸は春になり、敷地内にも桜がいくつも咲き始めていた。庭に植えられているソメイヨシノは膨らむように枝に花をつけたが、山中では山桜が楚々として清澄に佇んでいる。
    「まこと、難儀であるなぁ」
     隣に腰掛け、国広の話を聞いた兄弟は、いつものよく通る声で国広の話を総括した。
    「ああ、俺の口下手は修行でも変わらなかった」
    「ああいや、そういうことではないのだが」
     ならどういうことだ、国広が眉をひそめたのを受け、山伏は紅玉のように澄んだ目を中空に、思案しているようだった。深く息を吸い、吐き出す間だけ、沈黙が下りた。春霞の空より鮮やかな髪の兄弟は、もう一度国広に顔を向けると「自分で考えた方がよい」と笑った。
    「俺が考えても間に合わないから、こうして連れ出してきてくれたんじゃないのか」
    「拙僧はお主の代わりに答えを出そうなど考えてはおらぬ。ただ、視野が狭まらないよう、少し気を紛らわしてやりたかっただけのこと」
     国広だって、兄弟に自分の抱えているものをそっくり任せようなんて思ってはいない。何かしらの糸口が欲しかったのは事実だが、さっきのは兄弟に向けるただの軽口だ。兄弟もそれを分かっているから、分かりきったことをそのまま返す。
     国広はまた黙り込んで花に埋もれる本丸を見下ろした。長義は今日もあの中にいる。自室で読書でもしているか、あるいは南泉でも連れ出して花見にでも興じているか――
    「……拙僧が難儀と思うのは兄弟だけではない」
     山伏が常にない静かな声を出した。視線は慈愛としか言いようのない柔らかさで本丸に向けられている。
     その横顔が、国広に向けられると、いつものような晴れやかな笑みを浮かべた。
    「他の方法を模索するも結構。しかし、それが上手くいかないのであれば、以前のやり方に戻ってみるのも拙僧はよい手であると思う」
     あとはいつもの笑い声である。能天気め、と悪態を吐きたくなるが、国広はこの兄弟のこういうところにずっと救われている。
     悪態の代わりに深く息を吐くと、天を見上げた。白んだ空の下には薄紅の花が枝からこぼれそうになっていた。春は長閑に訪れ、刀たちをも寒さから解き放とうとしている。
     どうすればいいか、その一番いい方法はまだ分からないが、見失ってしまいそうだった「どうしたいのか」はまた国広の手元に帰ってきた。
     やはり分かりきったことだったが、話をしたいのである。できれば、今兄弟としているように気兼ねなく、ただしお互いを鈍にしないような間合いで。

     その後、桜の散り始めた中で発った遠征にて、国広は長義に話しかけ続けた。まず話をしたいことを再確認してからは話題を考えるのはやめた。そもそも話題を選べるほど話せていないのだ。畑で採れる作物、昨日の食事、最近の戦果、かつて本丸であったこと……国広が訥々と話してみると、長義は不承不承といった感じではあるが律儀に返事を寄越してきた。意外に思ったあとで、そうせずにいられない性分なのだろうと納得した。怪異が自分に何かを「頼みたい」のかもしれないという発想を出す奴である。求められたのならなるべく応えてやるべきだと考えているのかもしれない。
     持てるものこそ与えなくては――よく口に出しているという言葉を思い出しながら、国広はこれまでにもぼんやり感じていたことを思っていた。自分とは似ていない。
    「そういえば長谷部から、礼を言っておいてくれと頼まれた」
     山から桜の薄紅が取り去られ、まだ柔らかい緑が覆い始めた頃だった。国広が切り出した言葉に、長義は片眉を上げた。怪訝そうな顔は続きを促している。この頃になると、そういう呼吸も分かってきた。
    「書類の手伝いをしただろう。長谷部も極めてから出陣が増えたからな、今後はお前に書類仕事を任せることが増えるかもしれない。だから、よろしく頼む、とも言っていた」
    「ふうん……ま、当然かな」
     少し、嬉しそうに見えた。何となく長義の性質が以前より分かった気がして、国広も思わず微笑んだ。それを見咎められて、「何を笑っているんだよ偽物くん」「写しは偽物とは違う」という、いつものやりとりが続いたわけだが。

    「この罰則、これ以上続けて意味なんてあるのか?」
     小雨の本丸を発ち、滞りなく仕事を済ませた遠征の帰り道で長義が恨み言を言うのに、自分から話し出すくらいには態度が軟化してきたな、という思いと、その愚痴が出る程度には意味がある、という考えとを浮かべながら、国広は素知らぬ顔で聞き流した。元々返事を望んでなどいるまい、聞き流すのが一番穏便だ――それにしても、長義は割と話し好きなようだ。本丸でも誰かと話している姿をよく見かける。その「誰か」が自分ではなかっただけで。
     あまり口の回る方ではないことは自分でもよく分かっている。修行を経て、身を守るように被っていた布を取り払っても、こればかりは早々に変えられるものではない。
     だから、今、歩み寄り方を探っている。
     長義の愚痴には触れず、国広は話し出した。
    「おい、知っているか」
    「……何をだよ」
     少し前を歩いていた長義の視線が、ちらりとこちらに寄越された。撫でつけられた髪から一房こぼれているのが揺れるのを見た、と思えば、すぐそれまでのように長義の右目は前を向いていた。
     遠征先は薄曇りである。降りはしないだろうが、歩く足は少し速くなる。
    「俺もここに来るのは久しぶりなんだが、修行に行く前はよく資材集めに来たんだ。大体は新入りの研修を兼ねて大人数だった」
    「その話、長くなるか?」
    「ならない」
    「……じゃあ早く終わらせろ」
     溜め息のついでに出したような言葉だった。失敗したか、とも思ったが、話し出した手前、国広は続ける。
    「もう少し行くと、雑木林の中に小路がある。その途中、小さな地蔵堂の近くで、髭切がいきなり立ち止まったことがあった……そのときは髭切と一緒の部隊だったんだ。じっと、雑木林の間を、まばたきもしないで見つめていた。あの丸い目を、見開いてだ」
     口許は笑みの形だったが、視線は何かを射竦めるように鋭かった。そのまま動かない髭切を心配したのか、それとも自分が不安になったのか、同じ部隊にいた信濃藤四郎が「どうしたの」と袖を引いた。途端に髭切は普段の微笑を取り戻し、先程までのように歩き出したのだ。
    「一言俺に、『あれはまだ鬼ではないね』と笑って」
     ふたりは件の雑木林に差し掛かっていた。道はだんだん細くなっていき、元々の薄曇りに加え木々の影で暗い。
     話しきってしまった国広は口をつぐんだ。しばらく、ふたりの靴が砂と草を踏む音だけが響いた。
    「……不可だな」
    「なんでだ」
    「逆に訊くがなんでいいと思ったんだ」
    「お前、怪談なんか怖くないだろう」
    「それはそうだが、どうしてそれがいきなり前置きもなく怪談を始める理由になるんだ」
    「それは……」
     理由があるのか、と言わんばかりに、今度は顔ごと長義が国広の方を向いた。不機嫌そうにつり上がった眉の下、日の光のない中に見る瞳の青の深さは底知れない。あのときの髭切もだが、こういう目に気付かれたとき、睨まれた方は息をするのも恐ろしいだろう。国広は竦みはしないが、言葉を探すのが難しい。
     粗末だがちゃんと手入れをされている堂が、小さく視界に入った。もうすぐ髭切が足を止めた場所である。髭切の飴色の瞳が捉えていたもの。国広も、あのときそれがこちらを見ていたことに気付いていた。否、あのときだけではなく、ずっと。
    「あそこには、いつも女がいる」



    「あの女――髪が白いから老婆だと思うが、そこで立っているだけで何をしてくるというわけでもない。だから放っておいたんだ。ずっとこちらに向いているのは不気味と言えば不気味だが、髭切も鬼ではないと言っていたし……」
     細い雑木の足許に薮が繁るのを見やりながら「そら、そこの」と国広が続けようとしたときだった。
    「その女、顔は」
    「顔? 顔は……覚えていないないな。いつも俯いていた」
    「なるほど……おい、」
     長義の呼びかけに、国広は薮に向けていた顔を戻そうとした。振り向こうとして、動かした視界にそれを捉え、目を丸くした。
     女はいた。ただし、薮の中ではなく、国広たちの行く道の上に。
     長い白い髪が身体の前に垂れていた。俯いている女は緩慢な仕草で顔を上げようとしている。
    「――趣味が良くない、かな」
     長義が鼻で笑ったのと同時に、ぐるん、と視界が回った。

     髭切と長谷部が遠征から戻ったとき、執務室には数振りの刀たちが顔を突き合わせていた。
    「ありゃ、どうしたんだい?」
     髭切が丸い目をぱちくりさせて訊ねると、一時髭切と長谷部に目を寄せた刀たちは、すぐに相談するかのように互いに視線をさ迷わせた。
     代表するように応えたのは膝丸だった。
    「山姥切たちの部隊がまだ戻ってこないのだ」
     もうとっくに帰還していないとおかしいのだが、と続いた言葉に、膝丸の隣で前田が唇を噛んだ。そばにいた信濃が支えるように背中に手を添える。
    「主は」
    「システムに不具合がないかを確かめている」
     長谷部はそれだけ聞き出すと、審神者のいる執務室の奥の部屋へと向かった。その静かだが性急な足音を見送って、髭切はもう一度膝丸に向き直った。口許にはいつもの笑みを浮かべている。
    「山姥切たち、というのはあの金色くんと銀色くんで間違いないよね」
     沈鬱な空気に似つかわしくない髭切ののほほんとした問いかけに、膝丸は頭を抱えて深く息を吐いた。執務室の面々も少し気が抜けたようだった。前田に向かい合って胡座をかいている南泉一文字は、堪えきれず苦笑している。
    「あのふたりは、今日はどこへ向かったんだい?」
    「あそこだよ、雑木林の中に小さな地蔵堂のある……俺と一緒に行ったとき、髭切さんが立ち止まっちゃったことあったでしょ」
     そんなことがあったのか? という膝丸の声には応えず、信濃はじっと髭切を見上げている。心配そうに眉を下げたその顔に、髭切は二、三度まばたきして、「あ、ああ~、あそこかぁ」と手を叩いた。
     どこか間延びした反応に肩の力が抜けてしまったらしい面々は薄い笑いを浮かべて天井を仰いだりお互いを見合ったりした。膝丸だけが深く項垂れているのも意に介さず、当の髭切は合点のいったように何度も頷いている。
    「ああ、じゃあ、あれは鬼になっちゃったのかなぁ」
     緩み始めていた空気はまた一瞬で髭切によって固められた。畳を見ていた膝丸はすぐさま顔を上げ、「兄者」と呼び掛ける。
     呼び掛けにはうんうんと中身のない相づちをして、髭切は続ける。
    「そうかぁ、でも、もしそうなら、時間はかかってもちゃんと帰ってくるよ。大丈夫、大丈夫」
    「兄者、言葉が足りない」
     ちゃんと説明してくれ、と低い声を出す膝丸に髭切は一度首を傾げ、だってねぇ、と続ける。
    「あの本歌くんの方も行ったんだろう? 彼ならちゃんと、切ってくるよ」
     南泉一文字だけが納得したように、短く声をあげて笑った。

    「……なんだここは」
    「あの女の家じゃないかな」
     視界が回り足許の感覚がなくなった、驚いて反射的に刀に手をかけたその瞬間、国広と長義はどこかの広間にいた。膝立ちで今にも踏み込もうという格好で固まっていた国広の隣で、長義はそばにあった脇息を自分の具合のいいように整え、頬杖をついた。
     なんでこいつこんなに落ち着いているんだ、と思わず見ていると、長義はじろりと国広を睨みつけ、「お前も座れ」と言った。行儀の悪い子どもを叱りつけるような口調だった。
     よく分からないまま長義に倣って胡座をかくと、ふたりの目の前にはただ閉じられた襖だけがあった。他には窓も調度も何もない。壁と襖だけの八畳にふたりは押し込められたらしい。
    「また屋敷か……」
    「屋敷というほどの大きさでもないと思うけどね。まったく、お前はどうしてこういうのに好かれるんだ」
    「どうして俺のせいみたいな口振りなんだ。お前も一緒に巻き込まれているだろう」
    「いや、今回のはお前のせいだよ」
     お、始まったな、と長義が呟くのにつられて国広も襖を見た。線の細い、頼りない筆で描かれた木々と小屋があり、そこに滲むように淡く色が浮き出し始めていた。どこかで見たような山里だ。
    「……色付きなのはいいな」
     長義が感想を漏らすのが妙に暢気に聞こえる。国広は首を傾げたくなるのを我慢しながら、大人しく襖に展開される絵巻を眺めていた。
     襖絵の中では花が咲き、雨が煙り、緑が繁ったと思えば黄色く染まり、葉が落ちる……それが数度繰り返された。始めのうちは何も見逃すまいと注視していた国広は代わり映えのしない季節の移ろいに少し気が逸れてきて、ふと、端に描かれている小屋が今しがた通ってきた地蔵堂に似ているのに気がついた。すぐに気がつかなかったのは、いつも道から見ていた正面からではなく、後ろからの視点だったからだ。ちょうど、いつも白い髪の女の立っていた辺り――
    「あ」
     国広が小さく声を漏らしたとき、ひとりの男が通りかかった。画の中の、遠征でいつも通るところに当たる小路を、姿勢のいい男が馬に乗り横切っていく。顔は描かれていないが、身形からして貧しくはない身分だろう。今まで四季の移ろいを眺めているだけだった視界に、初めて人間が現れ、彼の登場とともに木々の色彩も鮮やかになったように見えた。
     あの女の立ち位置から、いつもの道を見ている。国広がそう確信したとき、隣からは「導入が長い」と呆れた声が落とされた。
     確信の驚きは長義の辛い感想ですぐさま消え去った。一瞬で頭を冷やされて、もしやこれからもいちいち感想を聞かされるのか、と横目で窺うと、長義の横顔は辛口だった割には柔らかく微笑んでいた。
     見てはいけないものを見た気分になって、国広はすぐ視線を襖に戻した。あのように柔らかに笑うのか。あの口許に浮かんでいるのは、慈しみとでもいうべきものではないのか。何が彼をして、この淡々と男が横切っていくだけの景色に、そんな感情を抱かせるのか……表情とは裏腹の厳しい言葉まで吐いておいて。
     相変わらず画の中では季節が移ろう、それに合わせて男の格好も変わり、やがて、初めて男以外のものが訪れた。
     男がいつも去る方向から、それは現れた。ぞろぞろと数人が列になって歩いている。皆整った格好をして、代わり映えなかった絵面がこれまでで一番華やかになった。行列は続き、やがて列の中頃に、馬に乗せられた白無垢が現れた。
     嫁入りか、と息を飲む間に列は過ぎ去り、あとは何も訪れなかった。色も鮮やかさを失くし、ずっと横切っていた男さえも描かれなくなった画面に、ただ花は咲き、雨に煙り、青い葉は繁り、色褪せ、やがて落ち、黒い冬からまた淡く春が訪れる――それが繰り返された。何度も、何度も。
     いつ終わるんだ、という疑問は当然湧いて出た。しかし口には出さず、画中の四季が移ろうのを見送った。
     そろそろ辛辣な言葉をかけそうなものを、とまた横目で長義を窺うと、国広がしていたように静かに女の見ていた景色を眺めていた。ただし、慈しむというよりは、憐れむような顔で。
    「山姥切」
     つい、名前をそう呼んだのは、その寂しげな横顔を見ていられなかったからかもしれない。国広の声に、長義はゆっくりと目を閉じ、その間に浮かべていた憐れみをも引っ込めると、澄んだ瞳で国広を見た。そのとき、なぜか、やっとこっちを向いた、と思った。
    「もう、終わらせていいんだな」
     静かに告げた声に、国広は思わず頷いた。長義はそれに頷き返すと、脇息にもたれさせていた身体を起こし、ゆったりと立ち上がる。その優美さのまま襖に歩み寄ると、刀を抜いた。
     ぱん、と音を立てて襖が崩れ落ちたとき、国広も立ち上がった。抜き放たれた刃に払われた襖には、もはや何も描かれていなかった。
     襖の向こうにはもう一間あり、暗いその中央に、あの女が座っていた。やはり顔は伏せ、白い髪が身体の前を流れ畳に広がっている。
    「――伊勢物語のつくも髪のようにはなれなかった、ということかな」
     女は動かなかった。ただ、長義の声を聞いているのは気配で分かった。国広は刀に手は添えながら、長義の後ろに控える形で成行きを見守ることにした。
    「秘め続けた想いというのも否定はしないが、それを誰かが受け止められるのは、その想いが潰えているからだよ。叶わぬ恋が美しいのは、それが既に結びを迎えた物語だからだ。君自身はそれをよく分かっているようだけどね。……誰かに知られたいと願いながら、誰にも語られない物語はどこへ行くのか……ぞっとしないな」
     語りがどこへ向かうのか、長義と女を視界に納めながら、国広も耳を傾けた。
     ふと、無感動と言っていいほど凪いでいた長義の声に笑いが滲んだ。
    「正直、俺まで招くとは間抜けな、と思っていたんだが……いや、そこの朴念仁だけを拐うというのも難しいだろうけどね」
    「朴念仁とか言うな」
    「お前は黙っていろ」
     む、と口を引き結ぶと、ちらりと振り返った長義は何か仕様のないものでも見るような、呆れた顔で笑った。今日はいろんな顔を見せる。口を挟んだ国広の反抗心は、初めて見たその笑みになだめられてしまった。
    「この通り気の利かない奴だがよく鍛えられた刀なのは間違いないし、万が一拐うのに成功したとしても、想いが実を結ぶなんてことはおろか君の目的も叶わなかっただろう。……だから、君は俺も招いたんだな」
     辛辣な評価は聞き流すことにして、長義の語りを追う。やはり長義の声は言葉の辛さに対し、柔らかかった。
    「秘めているのに知ってほしいというのは勝手なものだが、それが人間だ。だから物語は作られる。すべて物語は、語られることを欲している……君が誰かに語られることを望むのも当然だ。そして俺なら、君が今望んでいるものを与えてやれる」
     一度そこで言葉を切ると、長義は小さく息を吐いた。
    「これは単に、物として俺の思うことで、君に言うべきではないのかもしれないけど……君は、幸せになろうとするべきだった。幸せになって、よかったんだよ」
     長義の言葉に、女は伏せていた顔をさらに深く、首を差し出すように項垂れさせた。それを受けて、長義は女のすぐ横へと歩み寄り、刀をゆったりと持ち上げた。表情は一分の隙もない、凪いだものに戻っていた。
    「俺の言いたいことはもうない。君の語られるべきは尽きた。叶わぬ想いに狂い、相手を拐かそうとした鬼女――ならば俺の切るものだ。俺が死を与えるべきもの。そうして、物語は結びを迎える」
     任せておけ、と優しい声の終わらぬうちに、刃が下ろされた。首が落ちた、と思うと一瞬膨れ上がり、弾けるように古い紙が散らばった。
     紙の散らかるとともにほこりが舞い上がり、思わず口を覆い目を細めたのを次に開いたとき、そこは屋敷ではなく荒家だった。長義は床一面を埋め尽くす茶色く褪せた紙きれたちの中から何かを拾い上げた。
    「なるほど、顔が見えないわけだ」
     黒い手袋にすっぽり収まる大きさの手鏡は曇りきっていて、何も映さなかった。
     しばらく映らない鏡を見つめていた長義は懐にそれをしまうと、国広に向き直った。
    「さて偽物くん、もう一仕事だ」
    「写しは偽物とは違う」
    「一仕事といっても簡単だ。この紙を全部拾え。もちろん俺も手伝ってやる」
    「構わないが、拾ってどうする」
    「本丸に持ち帰り報告の証左にして、あとは供養でもしてもらうさ」
    「なるほど」
     すでに腰を折って一枚一枚拾い始めた長義をしばらく眺めてから、国広も同じく紙拾いに取りかかった。どの紙にもびっしりと字の書かれていた形跡があったが、掠れきっていて読み解くことはできなかった。これらすべて、何らかの想いを託された文字たちなのだろうか。誰かから、誰かへの。
    「これだけの量を持って帰るとなると骨が折れるな……」
     手の中というよりは腕の中に紙束を抱えて長義が呟いたのに、国広は手を止めてじっと長義を見つめた。長義はすぐ視線に気付き、嫌そうな顔をした。
    「……なんだよ。今回は外套は貸さないぞ」
    「それなんだが」
     長義が眉根を寄せるのを見ながら、国広は懐を探った。目当ての物はすぐに見つかった。
    「前のことがあったから、今日は布を持ってきている」
     手持ちの白布のうち、使い古したものを選んで携帯していた。まさか本当に役に立つときが来るとは思っていなかった。国広も予想外の巡り合わせにほんの少し気が高揚していたが、長義はといえば、国広の持つそれに目を丸くしたあと、にっこりと微笑んだ。
    「たまには気が利くじゃないか。良をあげよう」
    「優じゃないのか」
    「俺の評定はそんなに甘くない」
     やはり辛い評価を下しながらも、さぁ早くその布を広げなよ偽物くん、と言う声があまりに弾んでいたので、国広は「写しは偽物ではない」と応じながら顔を伏せて隠し、笑った。



    「……つまり、その地蔵堂の近くにはあやかしがいたのだな?」
    「そういうことになるね」
     兄の軽い返事に、膝丸は深く項垂れた。頭を両手で抱えて背中を丸める格好があまりにも悲痛だったので、前田と信濃は膝丸を支えるようにそっと両脇に寄り添った。
    「なぜ……なぜ切らなかったのだ……」
    「うーん、まだ鬼じゃなかったからねぇ」
    「髭切さんって疑わしき者は罰せずって考えなんだね」
    「あやしいもの全部切ろうとしていたら、きりがないからね」
     髭切の応えに信濃は「へぇ~」と暢気な相づちを打つ。相変わらず弟の方はそのまま床に頭をつけてしまうのではないかという勢いで項垂れている。
    「兄者……せめてそういうのがいるという報告をだな……」
    「ああ、小言はあとで聞くよ。先に着替えてくる」
     髭切は「またあとでね」と言い残し、軽い足取りで自室へ向かった。その背中に膝丸が「兄者ぁ!」と叫ぶのに、一堂は笑いを噛み殺すのに必死だった。
     髭切が来る前の沈み込んだ空気が嘘のようだった。問題は解決したわけではないが、皆表情が柔らかくなっている。
     すげえ刀だな、と呆れるような、あるいは感嘆するような思いで南泉も苦笑いした。髭切から遠征先にそういう怪異がいるのを聞いて、ほんの少し胸に抱えていた心配は霧散していた。そういう怪異ならば、あの昔馴染みは切ってくる。
     これ以上の心配は無用と主張するつもりで、南泉は声を張り上げた。
    「ま、髭切の言った通り、化け物斬りが一緒なら戻ってはくるだろ。あいつは性格は本当にゲロ吐きそうなほど悪いが、頭自体はいいし何とかしてくる、にゃ」
    「へぇ、猫はいきなり吐くものだとは聞いていたけど本当なんだな」
     背後からの闖入者の声に、南泉は尾を踏まれた猫のような声をあげた。執務室の入口にはいつの間にか、その化け物斬りが立っていた。高慢な微笑を一面にたたえ、南泉を見下ろしながら。
    「すまん、遅くなった」
     さらにその後ろから顔を覗かせた国広に、前田と信濃が明るい顔をする。
    「いや、とにかく戻ってきてくれてよかった。怪我などはないか?」
     膝丸も同じく、安堵の顔だった。その面々に長義は「問題ない」と笑ってみせる。
    「少し、名前に見合った仕事をしてきただけだ。あとできっちり報告書もあげるよ――さて、猫殺しくん」
     うげ、と南泉が顔を歪めた。長義はますます美しい笑みを深くする。
    「いきなり吐きそうなんて、呪いが進行しているんじゃないか? なに、心配はいらない。君が呪いに負けそうになったときは、きちんと俺が切り捨ててやる。安心するといい」
    「いらねーよ! ほんと性格悪ィな、おめーは!」
     執務室は山姥切たちの無事に加え、昔馴染みたちのやりとりに一気に空気が和んでいた。その様子を廊下に立ったまま見守っていた国広だったが、ふと奥の部屋に視線を向け、苦笑いする審神者と青筋を立てている長谷部に気付いた。指で組んだ腕を神経質に叩いて国広を見ている長谷部のひきつった笑みに、国広はまず無言で、神妙に顔の前で手刀を切ってみせた。

     梅雨の景趣にも短い晴れ間はある。細い光のような雨がきれぎれ、尽きたと思うと雲間から薄く柱のように日が差した。木も草も洗われ、瑞々しく光を返している。
     戦装束から着替えた髭切は縁側に立ったまま、見慣れた中庭のその様子を見つめていた。
    「――やあ、片手落ちくん」
     割合穏やかな声で話しかけてきたのに髭切は微笑んだ。淡い光の中でも銀色の髪は艶やかで、食えない微笑は美しく白い顔に収まっている。
    「確かに、自分のじゃない腕なら落としたことがあるね」
     髭切の返事を、長義は鼻で笑った。馬鹿にして煽るためというよりは、思わず笑ったといった感じの所作だった。
    「まだ鬼ではない、で切らないなら、やはり名前を重く見ているじゃないか」
    「そうなるのかなぁ」
     ううん、と首を傾げると、髭切は視線を庭へと逸らした。梅雨の晴れ間にはわずかに夏の気配がする。やがて季節は移るだろう。
    「……僕にとっては、どうでもいいことをちゃんと分かっているのが、大事だってことなのかな」
    「曖昧だな」
     長義は納得できないようだった。髭切は首を捻りながら言葉を探した。やはり言葉を探し当てるのは難しい。選んだ言葉によって、選びきれなかったものはこぼれ落ち、その中に自分の言い当てたかった本当が紛れているような気がしてくる。
    「だってほら、どうでもいいことを分かっていれば、それ以外がどうでもよくない、大事なものになるだろう。僕はそれを大切にしたい……ということなのだと思う」
    「なんで疑問形なんだ」
     自分のことだろう、と呆れた顔を見せるのに、髭切は「いやぁ」なんて応えながら相変わらず微笑んでみせる。なんとなく以前から分かっていたことだが、この怪異を切るという刀は面倒見のいいところがあるようだ。誰かを気にかけてしまう面倒見のよさがない者は、相手に呆れてみせたりしない。
    「千年刀やってても、考えることはまだまだあるんだよね」
     そうして髭切は庭に向けていた身体を長義に向き直した。長義は髭切の動きに少し身体を固くしたが狼狽えるなんてことはなく、目だけで髭切の出方を待っていた。
     強くて、深みのある色の瞳だ。じっと自分を射抜くように見つめる目を、髭切も真っ直ぐに捉えた。
    「この前は、悪かったね」
     意外そうに眉を持ち上げた長義に、髭切はまた言葉を探る。罰の悪い思いをしているとき、座りの悪さにどうしてだか口許が緩んでしまう。
    「僕はね、自分が名前はどうでもいいと思っているのは本当で、それを変えようという気はないんだ。でも、誰かにそれを押しつけるつもりもないんだよ」
     押しつけられるほど面倒見よくないし、とは口には出さず、長義の反応を窺う。笑ってしまう自分が情けなく映らないか、ほんの少し心配だった。情けない様を晒して不快にさせるのは本意ではない。
    「だから、あのときの僕の言葉はよくなかった。君の気分を悪くさせてしまったね」
     不可解なものに直面したように固まっていた長義はそこまで聞くと、深く息を吐きながら天を仰いだ。そうして次は難しい顔をしながら俯くと、もう一度真っ直ぐに髭切を見た。
    「……俺も、内番を放り出したのは悪かったよ」
     言いにくそうに寄越された謝罪に髭切は笑うことで応えて、互いの手打ちを認めた。それ以上は不要だった。
     改まった会話を終えると、もう少し話をしてみたくなってきた。先に非を認められると自分の非も差し出してしまう、この刀の妙な律儀さに興味が湧いたのだ。
    「お詫びに、お茶でも飲んでいかないかい」
    「今は遠慮するよ。報告が長くなるだろうから、先に少し抜けてきたんだ。江雪に頼みごとをしたらすぐ戻るつもりだった」
    「ありゃ、そうかい? 今戻れば、僕の監視役の彼の熱いお説教が待っていると思うけど……」
    「一杯いただこうかな」
     軽やかに予定を撤回し、縁側に腰を下ろした長義に髭切は満足気に頷いて、部屋からグラスと保温容器を持ってきた。
    「これも君の弟くんが用意したのかな?」
    「そうだよ、だから美味しいはずだよ」
     保温容器には冷たい煎茶が入っていた。硝子容器に注がれると随分涼しげに映る。
     長義は渡されたグラスに口をつけず、目の前に掲げて茶の色を眺めていた。若葉を陽光に透かしたような、初夏を映したようなそれ。
    「君の写しくんの目は、もっと青い、深い色をしているよね」
     先に一口飲み終えた髭切の言葉に、長義はグラスを下ろした。
    「そうだね、見目は申し分なく美しい。朴念仁だが」
    「手厳しいね」
    「何もしてこないから放置していた、ときたからね。あなたはまだ鬼ではないと言ったらしいけど、ああいう“地獄も極楽も知らぬ、腑甲斐ない女”みたいなのは、鬼になるしか救いはないんじゃないか」
     切ってやるしかないだろ、と続けるつもりだった。
    「鬼になることが救いになることなんてないよ」
     それより早く言い切る言葉は静かで、強かった。髭切の横顔は変わらず微笑んでいる。
    「ただ、もっと別のやり方で動けたんじゃないかなとは僕も思ったけど」
     だってあまりに一途に金色くんを見ていたからさ、と続けた声には少し憐れみが滲んでいた。
     長義は懐から手鏡を取り出して眺めてみた。やはり何も映らない。雲を閉じ込めたように、白く濁っている。
     白い髪の女がただ想っていた男の代わりに国広を見立てたのか、国広に新しく心を奪われたのかは、切って捨てた長義をしてもはっきりしない。女の妄念の宿った手鏡はただ執着することだけを写してしまったのか、ただ姿を追うことしかできなかったのか。
     ようやく起こした行動は、物語を終えるために切られることだった。
    「それにしたって、どうしてあの気が利かないのを選んでしまったのかな……」
    「ちょうど通りかかって、あまりに綺麗だったから」
    「だとしても朴念仁を見抜けないならやっぱり趣味がよくない」
     長義は手鏡をしまった。江雪左文字に供養を頼みに行けるのは予定していたより随分遅れてしまうだろう。報告だけでなく長谷部の説教も受けなければならないようだから。
     薄く汗をかきはじめたグラスにようやく口をつける。苦味が通りすぎると淡い甘さが訪れた。一杯だけと言った手前、惜しむように飲むつもりだった。
    「あいつも、どうしてこう面倒なのに好かれてしまったのか……」
    「あはは、君とか?」
    「茶をぶっかけるぞ」
    「おお、こわ」

     長谷部による終わりの見えない話をなんとか中座して、国広は長義を探していた。部屋は空、ならば江雪のところかと行った先も空振りで、なんとなく中庭に出る廊下を歩いていて、ようやくその姿を見つけた。
     隣に髭切がいるのには驚いたが、話が弾んでいるらしいのがさらに意外だった。ふたりの間で落とし所が見つかったのだろう。それは、喜ばしいことだった。
     季節は移ろいながら繰り返す。その中で何物も変わっていく。以前考えていたことを思い出しながら、国広は長義の姿を眺める。
     変化を求める思いは確かにある。もう少し気安く話をして、山姥切長義という刀をもっと知りたいという想いが。
     しかしそれとは別に、ただその姿をずっと眺めていたいという想いも生まれている。
     やはり惜しむものは増えていく。今、この時は、繰り返されない。
    真白/ジンバライド Link Message Mute
    2022/09/15 23:07:20

    卯ノ花腐し

    「名前もつかない」の続きです
    まだまだ遠征に行かされている
    最終話を加えて本にしたものを自家通頒で取り扱っています▷ https://jimbaride.booth.pm/items/2544931

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