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    【アイギス】王皇小ネタまとめ その21.残念な女神が王子の望みを斜め上に叶えた話2.王子から皇帝への感情の話3.ETDネタだけどダンジョンには突入してない4.FANZA版のヤリチン王子と貞操観念ガバな皇帝になるはずだった話5.王国に帝国軍が駐留してる理由を無理矢理捏ねてみた話1.残念な女神が王子の望みを斜め上に叶えた話 じぃ、と常になく凝視してくる王子に、皇帝は隠すことなく怪訝な顔を向ける。
    「……なんだ。言いたいことがあるなら言え」
    「え? あ、あーいや、うん」
     王子自身、凝視している自覚はなかったのか、声を掛けられ、はっ、と我に返ったようであった。
    「皇帝も俺も背格好にそこまで差は無いと思って……」
     突然なんの話だ、と訝る皇帝を軽く手で制し、王子は「彼シャツってどう思う?」と真顔で問うてきた。
     報告書を渡しに来てなんの脈絡もなく不可解な問いを投げられ、更に言うなれば問いの意味すら理解出来ない皇帝は口を噤んだまま、そっ、と王子の額へ手を伸ばす。
    「熱はないし、先に言っておくけど頭も打ってない」
     伸ばされた手を途中で掴み、王子は節の立った指を一本一本余すところなく触れながら、はは、と軽く笑った。
    「酒場でそういう話をしてるのが聞こえてきてさ、萌え袖になるのがいいとか、なんとか」
     またしても意味のわからない言葉が出てきたが、皇帝は自分の手を弄り続ける王子の行動をただただ半眼で見下ろすだけだ。
    「……俺にはよくわからんが、貴様はその、かれしゃつ? もえそで? とやらをしたいのか?」
     おそらく字面すら思い浮かばず音だけを頼りに問い返してきた皇帝を見上げ、王子は一瞬考える素振りを見せたが、物理的に無理だな、とあっさり返してきたのだった。

     ――そんなやり取りをしたのが確か三日前だった。
     一夜を共にした皇帝は常ならば日が昇る前に私室へと戻ってしまうのだが、今日は珍しくも枕に頭を乗せたままであった。
     こちらに背を向け顔をすっぽりと覆うまで布団を引き上げ、髪の先しか見えていない状態ではあったが、確かにそこに皇帝が居るという事実に、知らず王子の眦が下がる。
     だが、僅かに生じた違和感に緩んでいた王子の表情が瞬時に引き締まった。
     そっ、と掌で肩と思しき箇所に触れ、そのまま腕を伝って確信する。
     布団の下の身体は、明らかに成人男性の大きさではなかった。
    「一体どうなって……」
     呆然とした面持ちで零れ落ちた呟きに、思わぬ所から言葉が返される。
    「これで彼シャツも萌え袖も思いのままですよ、王子」
     姿は見えぬが覚えのある声に王子は反射的に室内を、ぐるり、見回してしまった。
    「アイギス様? え? は?」
    「日々励んでいる王子へのご褒美です」
     声だけであるにも関わらず、その表情が輝かんばかりの笑顔であろう事は、なぜだか手に取るようにわかってしまう。
     だが、女神アイギスは度重なる戦いの中で力を使い果たしてしまったのではなかったか? 当然の疑問が王子の脳裏をよぎるも、それすらも予測していたか再び、厳かではあるがどこか弾んだ声が響く。
    「我々三女神が力を合わせれば出来ないことはありません」
     誇らしげに言っているがどう考えても力の無駄遣いである。
     長姉と末妹を巻き込んでなにをしているのかこの女神は、と不敬にも突っ込みそうになり王子は慌てて口を噤む。
    「とは言ってもあまり長い時間その姿では支障が出るでしょうから、今日一日限定です」
     有意義に過ごすのですよ、との言葉を最後に女神の気配は何処かへと消え、事態を丸投げされた王子は未だ目覚めぬ子供を絶望の眼差しで見下ろすしかなかった。

    2021.10.01
    2.王子から皇帝への感情の話 もぞ、と身動ぐ王子を引き寄せるかのように、背に回された皇帝の腕に力が籠もる。
    「さすがに狭いな」
    「地べたにごろ寝よりはマシだろう」
     ひとり用の簡易寝台に成人男性ふたりが横になれば、転げ落ちぬようできるだけ身を寄せるしかない。
     今夜は予想よりも冷えるから、と夜半過ぎに王子の天幕を毛布片手に訪れた皇帝は、有無を言わさず王子を寝台へと転がし、自分もその隣へ身体を滑り込ませたのだ。
     王子が使っていた毛布を下へ敷き、皇帝が持参した毛布をふたりで掛ける。互いの体温で確かに毛布と毛布の間の空気はさほど時間をおかず暖かくはなったが、同衾になんの躊躇いもない皇帝に王子は若干モヤモヤしたものを感じていた。
     傭兵時代は大人数での雑魚寝など日常茶飯事であったのだろう。暖を取る為にこうして身を寄せ合うことも当たり前であったのかもしれない。
     思えば皇帝との今の関係はどう言葉で表した物かと、王子はぼんやり考える。
     互いに友であることは認めている。だが、世間一般で言うところの友とは逸脱した関係であるとの自覚もある。
     しかし、愛しているかと言えば、これも違うのだ。
     恋慕、恋情。これもまた違う。
     強いて言えば「惚れている」であろうか。
     皇帝がこの世で愛しているのは妹のリィーリしかいないのだ。
     それを理解した上で王子は皇帝を抱いている。
     彼を見て湧き上がる肉欲も情欲も否定はしない。だがそれ以上に皇帝としてではなく、彼が彼自身のことで頭がいっぱいになって、他のことが一切入り込む余地のない時間があればいいと、そう思うのだ。
     正直、皇帝は何を思って王子を受け入れているのかは知るよしもない。
     もしかしたら犬にじゃれつかれている程度にしか思われていないのかもしれない。
     それでも、孤高で誇り高いこの男に惹かれている気持ちに嘘偽りはないのだと、王子は相手の背に回した腕に力を込め、自分の方へ引き寄せた。

    2021.10.04
    3.ETDネタだけどダンジョンには突入してない 遺跡近くに陣を張り報告を今か今かと待っていた王子の元に、伝令の者が息せき切って駆け込んで来た。
    「探索隊第一陣、帰還しました」
     白い鎧を身につけた者の言葉に王子のみならず、その場に居た者達の間から安堵の息が漏れ出るも、続けられた詳細報告を聞いている王子の眉がほんの一瞬ではあったが、ぴくり、と上がった。
    「皇帝が殿しんがり……」
     彼ならばそうするだろうとわかってはいたが、実際にやらかされるとなにも言葉が出ないものだなと王子は天を仰ぐ。
    「……今回は破壊しなかっただけ良しとしよう」
     最後に伝令の者を労い副官に彼を休ませるよう告げ、王子は帝国軍を率いている者の元へと向かったのだった。

     天幕をくぐり数人を伴い現れた王子にレオナは腰を浮かせ掛けるも、相手から手で制されおとなしくそれに従った。
    「話には聞いていたが、災難だったな」
     地を擦る長さのマントの前を掻き合わせているレオナに出来るだけ軽い調子で声を掛けるも、真面目な軍師は己の不甲斐なさを猛省しているのか、襟元の白いファーにやや顔を埋めたまま「お心遣い痛み入ります」と固い声音が返された。
    「大事に至らず何よりだ。着替えを持ってきたからよかったら使ってくれ」
     連れてきた供の者をその場に残し、王子は皇帝が居るであろう天幕へと向かう。さすがに女性の着替えに立ち会うほど無神経ではないからだ。
    「皇帝? 無事か?」
    「当たり前だ」
     天幕に入る前に声を掛け、返ってきた言葉に王子は笑いながら顔を見せる。
    「皇帝陛下自らが殿を務めたと聞いて慌てて飛んできた」
    「くだらん嘘をつくな」
     貴様がそんなタマか、と呆れる皇帝に王子はやはり笑い返すも、その笑みが途中で固まり、僅かに引きつりを見せた。
     急に黙り込んだ王子に怪訝な顔を向け、皇帝は一向に入ってこない相手に歩み寄る。
    「どうした」
    「……破廉恥」
    「は?」
     ぼそり、と漏らされた言葉が良く聞き取れず皇帝が問うように声を上げれば、王子は剥き出しになっている相手の脇腹を指でつついた。
     ――伝令からの報告は探索失敗という物であった。
     一階部分で衣服のみを溶かすスライムに遭遇し、重装備な者は無事であったが鎧を身につけていない軍師は格好の的であったのだ。
     足下から躙り寄るスライムに気を取られ、天井から滴り落ちてきたそれをもろに全身に浴びてしまい――あとは言うまでもない。
     豊満な肉体が全て曝け出される前に、いち早く動いた皇帝が身につけていたマントをレオナに投げつけ、撤退を声高に叫んだのだ。
     メイスで足下のスライムを叩き潰し、大盾で頭上をガードしながらの撤退は速度が思うようには上がらず、皇帝自らその場にとどまり襲い来るスライムを接近される前に神器で薙ぎ払い、時間稼ぎをしたというわけだ。
     それでも四方八方から押し寄せてくるもの全ては捌ききれず、何体かは身体に取り付いたのだろう。黒いインナーに包まれた身体は左脇腹部分と右肩部分、そして右足の腿が露わになっていた。
     普段は見えない部分がちらりと見えている。ただそれだけである。それだけであるにも関わらず、非常に卑猥な姿に見えると、思わず熱弁を振るってしまった王子を皇帝は憐憫の籠もった眼差しで見てくるだけだ。
     いっそ蔑んでくれた方がダメージは少ないと思わされるほどの、それはそれは見事なまでの純粋な友の瞳であったと、王子は後に語った。
    「ここも所謂『エロトラップダンジョン』てやつだと思う」
     こほん、と気を取り直して話を始めた王子に、皇帝はあからさまに眉をひそめる。それはそうだろう。先日、盛大にぶっ壊したとは言え結果的にはとんだ醜態を……いや痴態を王子の目の前で曝してしまったのだから。
    「……ここも破壊するか」
    「いやいやいや、それは短慮が過ぎる。これが最後ってことはないだろうから、打開策とか攻略方法を入念に調べて、情報として残していかないと」
    「勝手にしろ。王国の領土内だからな、貴様の決めたことに異議は唱えぬが……」
     帝国領内で発見されたら問答無用で破壊すると雄弁に語っている鋭い目に、王子は、こくり、とひとつ頷いて見せるしかなかった。
    「それにしても、まさか皇帝も服が溶かされてるとは思わなかった。報告にあったからレオナの分は持ってきたんだけど」
    「これくらいどうと言うことはない」
     男なのだから下さえ履いていれば充分だ、と言ってのける皇帝に同意はするが、その身を余すところなく堪能した者からすれば、その姿は非常に微妙なのだと王子は内心で低く呻く。
    「それはそうだけど……」
     ふと、今気づいた胸の中央辺りの小さな穴に指を引っかけ何気なく下方へと力を入れれば、まるで薄紙を破るかのようにそれは呆気なく、繊維の千切れる音と共に臍の辺りまで一色線に肌色の道を作った。
    「………………」
    「………………」
     互いに無言のまま空気が重くなる。
     魔物によって溶かされた服と、人によって破られた服では、同じ穴でも意味合いが大きく異なる。
    「……王子」
    「ひゃいっ」
     地の底から響くかのような低い声に王子の喉がひっくり返った音を出す。そのあまりにも情けない声に毒気を抜かれたか、皇帝は険しい眼差しを一旦瞼で隠し、ふぅ……、と小さく息を吐いた。
    「言い訳をしないのは貴様の美点だということにしてやる」
    「……すまない」
    「スライムの体液が染みて生地が脆くなっていたんだろう。錬金術師どもに調べさせるか?」
     破れた服を脱ぎながら問うてきた皇帝に、つい先ほど「情報として残す」と言ってしまった手前断ることも出来ず、王子は気まずい思いを抱いたまま貴重な研究材料を頂戴したのだった。

    2021.10.05
    4.FANZA版のヤリチン王子と貞操観念ガバな皇帝になるはずだった話 軍議を終え各々が退室していく中、王子は常と変わらぬゆったりとした足取りで、未だ腰を上げぬ皇帝の側へ寄った。
    「……一晩付き合え」
     背後で立ち止まり一言そう告げれば、肩越しに、ちら、と視線を寄越してきた皇帝は、じぃ、と王子を見据えてくるも、やや間を置いてから、ふっ、と鼻から抜けるような笑いを漏らし、わかった、と低く応じる。
     その僅かな間に皇帝は一体なにを考えていたのか。了承を得たがどうにも釈然とせず、王子はその場にとどまったままだ。
     聡いこの男の事だ。「今晩」ではなく「一晩」の意味が、これまでの酒の誘いとは異なっていると承知した上での返答であると考えるべきだろう。
     ならば尚のこと、彼が求めに応じた事が正直信じられないのだ。
    「……英雄色を好むとは言うが、酔狂な事だ」
     くつり、と喉を鳴らす皇帝の言わんとする事がわからず、王子は素直に首を傾げて見せる。
    「貴様の事だ。無理強いはしていないだろうが、それでも目に余ると政務官に絞られでもしたんだろう?」
     みな表立っては口にしないが、王子のお手つきが王国軍内に何人も居る事は周知の事実である。
     なるほど苦言を呈された手前、夜のお相手に困っていると皇帝は受け取ったのだと、王子は理解した。実のところそのような事実はまったくなく、今回のお誘いは単純に興味からのものであった。
    「……酒を飲むだけじゃないんだぞ?」
     本当にわかっているのか確認の意味も込めて王子が問い返せば、皇帝は表情ひとつ動かさず、わかっている、とはっきり口にする。
     しかも直ぐさま続けられた言葉に王子は瞠目する事となった。
    「それで? 俺は口でしてやればいいのか? それともケツを貸してやればいいのか?」
    「待て、ちょっと待て。誘った俺が言うのもアレだが、こういうこと初めてじゃ、ない……のか?」
     まさかの切り返しに動揺する王子を一通り眺めてから、皇帝は視線を窓の外へと向ける。
    「パン、金、雨風を凌げる寝床、あたたかな毛布。俺の身ひとつでそういった対価を得られるのならば、なにを惜しむ必要がある」
     齢十二にして身体の弱い妹を守りながら生きていく事になったのだ。傭兵団に入ったとはいえいくら剣の腕が立とうとも、身体の出来上がっていない子供では大人達と同等の働きなど出来るはずもなく。
     文字通り身体ひとつでここまで生きてきたのだ。使えるモノは何でも使う。身体もそのひとつでしかなかっただけの話だ。
     得た物は全て妹の為に使ったであろう事が容易に想像でき、王子は低く喉奥で呻く。
    「……悪かった。この話はなかった事にしてくれ」
     軽い気持ちで持ちかけた事を心底反省し、項垂れてしまった王子を見上げ皇帝は僅かに眉を寄せるも、相手がそれに気づく前に表情を改めるや、くっ、と口角をつり上げた。
    「貴様にならサービスしてやってもいいんだが」
     本気か冗談か、人の悪い笑みを浮かべている皇帝を前に、王子は「ほんと悪かった……」と更に項垂れたのだった。

    2021.10.31
    5.王国に帝国軍が駐留してる理由を無理矢理捏ねてみた話 ざわざわ、と城内が俄に騒がしくなった気配に王子は動かしていた羽ペンを、ぴたり、と止めた。
     様々な種族、様々な立場の人間が集っている王国軍は、厳しい規律もなく軍とは名ばかりの自由な集団だ。意見の相違から多少の衝突はあるが、殺傷沙汰にまで発展することはまずないと言っていい。
     じきに収まるだろうと再び羽ペンを動かし始めた矢先、控えめなノックに続いてアンナの入室を求める声が届いた。
     いつものように、どうぞ、と応じれば、こちらもいつものようにすぐに扉は開かれた。だが、王子はアンナの顔を見るなり怪訝に眉を寄せ、それに気づいた彼女は困惑の表情をどうにか取り繕いながら口を開く。
    「あの、王子。今お時間よろしいでしょうか」
     常にない問いに王子が何事かと尋ねれば、アンナはどこか落ち着かない様子で二度ほど早い瞬きをした後、ゆうるり、と言葉を押し出した。
    「白の帝国の皇帝陛下が王子とお話があると、その……先ほどお見えになりました」
    「……は?」
     今なんて? と脳が理解することを拒否したか、アンナの言葉は確かに耳には届いたのだが意味がわからず、王子は、ぽかん、と間の抜けた顔を副官に披露してしまった。
    「ですから、皇帝陛下が……」
    「あ、あーいや、うん、ごめん。聞こえてる大丈夫」
     状況を無理矢理飲み込み、どうにか話を先に進める。今お連れしますと執務室を出て行こうとするアンナを制し、王子は腰を上げた。
    「こちらから行った方が早い」
     そう言うなり王子はアンナの背を押すように部屋を後にしたのだった。

     応接室ほど広くはないが客人を持てなす為の部屋は日当たりも良く、庭もよく見える。壁にもたれるように窓の外を眺めていた皇帝の姿に、王子は咄嗟に声が出なかった。
     マントは身に着けているがその下にいつもの防具はなく、アダマスの神器も見当たらない。敵意がないことを証明する為だとしても、あまりにも無防備すぎではないだろうか。
    「……突然すまなかったな」
    「いや……」
     王子が室内に踏み入ったことに気づいたか、顔を向けてきた皇帝は笑みのひとつも見せず組んでいた腕をほどいた。
     こぢんまりとした卓にはアンナがいれたであろう紅茶があり、それは半分ほど減っている。向かい合わせに置かれているソファの片方に王子が寄れば、皇帝もそれに合わせて窓から離れた。
    「俺に話があるということだが、それは……」
    「あぁ、王国領内への帝国軍の駐留許可を貰いに来た」
     前置きもなにもなくずばり本題を切り出してきた皇帝に、王子は本日二度目の思考停止に陥った。
    「えーと、ちょっと待ってくれ。そういうことはまず書簡でやり取りをして……」
    「最終的に決めるのは貴様なのだから、間に誰かを挟むより直接話した方が早かろう?」
     仮にも一国を統べている男だ。政のなんたるかを知らぬ訳ではないはずだが、戦場で単身切り込むのと同じ感覚で向かって来られたようで、王子は知らず背筋に嫌な汗が流れる。
    「駐留の理由と目的を聞いても?」
    「無論だ」
     それを秘密にしてどうする、と言わんばかりの声音に王子は頷きだけを返した。

     ――事の発端は大臣の一言であった。
    「いくら同盟国とはいえこうもしょっちゅう援軍要請を出され、しかもその度に皇帝自ら赴くのであれば、いっそのこと一軍と共にあちらへ駐留されてはいかがか? 飛空挺一隻飛ばすだけでどれだけの予算が云々」とそれはあからさまな嫌味であったのだが、皇帝は眉ひとつ動かさず、なるほど、と低く漏らすや小さく頷いたのだ。
    「それは妙案だな。早速部隊編成に取りかかれ」
     嫌味とわかった上でその意見を採用した皇帝には、当然の事ながら「お待ちください!」と慌てた声が周りから上がったが、玉座に着いている男は聞く耳を持たず、ひとり黙っている宰相に「あとの采配は任せる」と告げれば、かしこまりました、としゃがれてはいるがよく通る声が返された。
     無責任な発言をした大臣は真っ青になっていたが、知ったことではない、と皇帝は目もくれず玉座を降り、悠然とした足取りで謁見の間を後にしたのだった。

    「……とても耳が痛い」
     一通り話を聞いた王子の開口一番がこれであった。
    「要請を受諾したのは俺だ。貴様が気にすることではない」
    「それはそうだが。でもいいのか? 皇帝がそんなに長く帝都不在ではいろいろと問題があるんじゃ」
     もっともな王子の危惧も皇帝にとっては大した事ではないらしい。軽く鼻で笑われ、さすがに王子もムッとなる。
    「古代炎竜退治や魔界にまで行ったんだ。俺が帝都から離れるなど珍しくもない」
     この場にレオナの姿があれば異論は山のように出たであろうが、残念ながらここには王子と皇帝しか居ない。
    「俺を排除しようと画策している者、王国との同盟を快く思っていない者を焙り出す絶好の機会でもある」
     続けられた皇帝の言葉に王子の喉が、ひゅっ、と鳴った。
    「俺がこちらに来るのは謂わば抑止力だ。反同盟派がいくら騒いだところで、現皇帝が王子殿下の膝元に居ては何も出来まいよ。まぁ……王国まるごと敵に回すような気概のある者が居れば話は別だがな」
     自らを囮にするようなやり方に否やを唱えたくとも、これは帝国内の問題であり王国の人間が下手に介入すべきではないと王子は理解している。
     理解はしているが納得出来ているわけではないのだが。
     むすり、と引き結ばれた唇から王子の心情を僅かでも察したか、皇帝は軽く肩を竦めて見せた。
    「これも貴様が気にすることではない」
    「そんな話を聞かされて気にしないわけないだろう。心配にもなる。兵士達には兵舎を用意するけど、皇帝はここに部屋を用意するからそこで寝起きしてくれ」
    「……ここ、だと?」
    「そう。城の中。いいな?」
     調和を重んじ滅多な事では自己主張をしない王子だが、彼が己の意志を前面に押し出した際の言葉は力強く、だからこそ人々の心を動かすのだと、これまでの戦いの中で皇帝は何度も目にしてきた。
     まさかそれがここで遺憾なく発揮されるとは、露ほども思っていなかったのだ。ただ残念な事に皇帝の心には微塵も響かず、真っ先に脳裏をよぎったのは「面倒な……」であった。
     あくまでも皇帝は王子にお願いをしに来た立場だ。相手が折れぬとわかっているのならば、結論はひとつだ。
    「……わかった。貴様に従おう」
     嘆息交じりに皇帝が頷けば、王子は心底安心したかのように肩から力を抜いた。
    「それじゃあ、帝国軍を受け入れるに当たって他に何か要望は?」
     懸念事項がなくなればあとは一国の王子として話を進める相手に合わせ、皇帝も感情を抜きにした姿勢で応じる。
    「一隻だが飛空挺の駐留、整備が出来る場所が欲しい」
     さらり、と皇帝はなんでもないことのように口にしたが、そもそも王国には飛空挺が存在していない。これを機に技術供与も考えているのか、はたまたただの無茶振りか。
    「……それは俺の一存じゃちょっと難しいな」
     そのどちらか判断がつかず答えを保留にした王子に対し、皇帝は涼しい顔で「そうだろうな」と返した。
    「無理にとは言わんが、よく協議する事だ」
     これは明らかに皇帝自ら情報漏洩させようとしているぞ、と王子は内心で帝国の技師や技術開発機関に手を合わせたのだった。
    「ひとまず保留として、他には?」
     気を取り直して王子が改めて問えば、そうだな、と小さくごちながら皇帝は僅かに目を伏せる。
     鋭い眼光はなりを潜め、途端に愁いを帯びた白磁のかんばせに、王子の胸がひとつ大きく鳴った。
     土地柄か帝国出身の者は色素の薄い者が多い。決して不健康な白さではないそれが赤みを帯び、汗が身体の窪みを伝う様が不意に記憶から引き出され、王子は漏れ出そうになった声を、頬の内側を噛む事によって耐えた。

    2021.10.09
    2022.01.07 加筆
    茶田智吉 Link Message Mute
    2021/11/16 3:48:39

    【アイギス】王皇小ネタまとめ その2

    #千年戦争アイギス #王皇 #王子×皇帝 #白の皇帝 #腐向け ##アイギス
    ツイッターで書き散らした王皇まとめ。
    フツーにできてる。
    1.残念な女神が王子の望みを斜め上に叶えた話。
    2.王子から皇帝への感情の話。
    3.ETDネタだけどダンジョンには突入してない。
    4.FANZA版のヤリチン王子と貞操観念ガバな皇帝になるはずだった話。
    5.王国に帝国軍が駐留してる理由を無理矢理捏ねてみた話。

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